目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第46章 失われた都市

「本の中にではなく、海の深いところに秘密がある。」


世界は広大ですが、常に目に見えるわけではありません。時には、最も偉大な遺跡は、古代の流れに覆われ、忘却の層に覆われ、神々への畏怖によって守られて、隠されていることがあります。


歴史によれば、アトランティスは知恵と壮麗さの都市であり、水に沈んだ宝石であり、同時に裏切りの残響でもあったそうです。代償を払わずに入る者はいない…そして、変化せずに去る者はいない。


しかし時間は誰も待ってくれない。人間たちが地上を監視している間に、深海では怪物が目覚める。


この質問は単純ですが、避けることはできません。


神話と真実の境界を越えるために、あなたは自分自身のどの部分を捨て去りますか?


————————————————————————————————————————————————————————————————


波に揺れる小さな船が港に停泊していた。風は穏やかで、帆は静かに鳴っている。




甲板の端に立つヨウヘイは、手をポケットに突っ込んだまま水平線を見つめていた。眉間に皺を寄せながら、ぼそりと心の中で呟いた。


「面白くなりそうな任務だな…。騒ぎを起こすなって言われたが、どうせそんなに静かに済むはずない」




少し離れたところ、アフロディーテはユキの隣で腕を組んでいた。少女の横顔を見ながら、軽く問いかけた。


「本当に行くつもりなの?」


「ええ」ユキの返事に迷いはなかった。「この任務で強くなれる気がする。あのバカに遅れを取るなんて、絶対に許せないの」


アフロディーテが片眉を上げる。


「エデンに遅れを取ってるのが、そんなに嫌?」


「当たり前でしょ」ユキの声には抑えきれない悔しさがにじんでいた。「あんな脳筋の羊に負けるなんて…絶対に認めないわ」




くすりと、アフロディーテは楽しげに笑った。


「勘違いしないで」ユキが鋭く言い返す。「あんたのために行くわけじゃないから。あんたなんか、今でも大嫌いよ。私は…父のために。そしてナズのためにやるの」


「分かってる」アフロディーテは穏やかに微笑んだ。「準備ができたら、ここであなたの復讐を待ってるわ」




その頃、桟橋のそばではポセイドンとジェイソンが小声で会話していた。


「正気か? こんな若造たちを任務に送り込むなんて」ジェイソンの顔には明らかな不安が浮かんでいた。


「他に方法はない」ポセイドンは淡々と返す。「これが最小の犠牲で済む唯一の手段だ」


「つまり犠牲になるってことか」


「彼らを侮るな。あの二人には才能がある」




「二人? 三人いるはずだが…?」


「気にするな。ただの言い間違いだ」


「……まあいい。目的は果たしてみせる」ジェイソンは手渡された封筒を受け取り、中を確認した途端、目を見開いた。


「これは…王の直筆の許可証?」


「そうだ。それがなければ入国は不可能だ」


「…あの王国が、どれだけ閉ざされているか…身に染みて分かるな」


「私ももう、あの国の中で何が起きてるのか分からない」


「了解だ。接近したら報告する」ジェイソンは封筒を丁寧にしまい、目を細めた。「あのクソ息子が見つけたら、どうなるか分からんな」


「戦うことになれば…殺す覚悟で行け」




船は静かに港を離れ、風を孕んだ帆が大きく膨らんでいく。




「さあ、これがお前たちに必要な道具だ」ジェイソンが金属製の箱を開きながら言った。


「なんだこれ」ヨウヘイが中を覗き、顔をしかめた。


「潜入任務だからな。これが必要だろう」


「余計な装備は目立つだけだ。全部捨てた方がいい」


ジェイソンが驚いた顔をする。


「じゃあ、お前はどうするつもりだ?」


「オレの雷で信号を送る。体内に直接だ。無線なんかよりずっと安全で確実だ」


「なるほどな…信じてみるか」




ヨウヘイが他の二人に視線を送ると、ユキがため息まじりに答えた。


「はいはい。あんたの言うとおりにすればいいんでしょ」


「まぁ、悪くない判断だ」ゼフも同意したように腕を組んだ。




「なんだかやる気が感じられないな」ジェイソンが苦笑する。


「無理もないさ」ヨウヘイが肩をすくめる。「作戦立てるのは苦手な奴らばっかりだ。…アイツがいればな」


ジェイソンの目が鋭くなる。


「金色の目…お前たちの中に“神の目”を使える者がいるのか?」


「そうだよ。何をそんなに驚いてる?」


「そいつ…もし敵に回ったら、かなりの脅威になるぞ」




ユキとゼフが視線を交わした。




「そんなこと、あり得ない」ユキがきっぱり言い切る。「あのバカは、自分の信念に忠実すぎるくらいだから」


ゼフが小声で呟いた。


「でもあの試験で目を使った時、確かに…あいつは変わった。まるで、勝利の化け物みたいだった」


ジェイソンは黙ったまま、遥かに広がる雲の群れをじっと見つめていた。




波のざわめきが微かに静まり返る中で、ジェイソンは眉をひそめた。


「…おかしいな」




ヨウヘイの背筋を電流が走る。


ゼフは目を細め、水の奥から響くようなかすかな囁きを感じ取った。まるで海そのものが語りかけているかのように。




「危ないっ!」




ヨウヘイとゼフは同時に叫び、ユキとジェイソンに飛びかかった。




その直後、船のすぐそばに雷が落ち、空を裂くような閃光が世界を照らした。穏やかだった海が、獣の咆哮のように荒れ狂い始める。




ゼフが荒い呼吸を整えながらユキを見た。


「大丈夫か?」


「…うん、なんとか」




ジェイソンは舵を握りしめたまま、突然の雨に濡れながら空を仰ぐ。


「なんだこれは…なぜ急に夜に…?」




ヨウヘイが船内を駆けながら叫ぶ。


「まずいぞ!このままだと嵐に飲まれて死ぬ!」


「……」




ジェイソンが逡巡する中で、ゼフの声が重く響いた。


「ダメだ!ここで逃げたら終わりだ!」




「はあ!?正気かよ!」




「どんな犠牲を払っても、ここで耐えないと!」




ユキは信じられないものを見るような目でゼフを睨む。


「そんなの…狂ってる」




帆が軋み、波が船体を打ちつける。ジェイソンが決断を迫られる中、ゼフの声が再び響く。


「頼む…信じてくれ!」




ヨウヘイが空を見上げて青ざめた。


「ヤバい、あと数分で雷が百発は来る!マジで死ぬぞ!」




「ジェイソン!」


「ジェイソン!」


「ジェイソン!」




「わかった!!」


ジェイソンが叫ぶ。


「全員、何もするな!帆を畳んで船内に避難しろ!」




「はぁ!?」




「チッ…死んだらあの世で恨むからな」




彼らは言葉通り、船の中へと避難し、帆を畳んだ。




雷鳴が次々と近くに落ち、船体を揺らす。だが――




最後の轟音。




そして、世界は沈黙に包まれた。




船は激しく傾き、海に飲み込まれる。




雨も風も止み、深海の囁きだけが残された。




…しかし数秒後、船体がゆっくりと浮上する。




海面は穏やかで、空は澄みわたる青。太陽が再び輝いていた。




船室の扉が開き、一人また一人と濡れた身体で現れる。




「…何だったんだ、今のは」ジェイソンが呟く。




ゼフは濡れた髪を振りながら、水平線を見つめたまま答える。


「あれは…アトランティスへの扉だった」




ジェイソンの眼光が鋭くなる。


「知ってたのか?お前…前にも来たことがあるのか?」




「…いや。でも、そう聞いたんだ」




「…誰にだ?」とヨウヘイ。


「その誰かが外れだったら、殺すからな」




全員が甲板に出ると、広がる海は静けさに包まれていた。




「ここじゃないな」ジェイソンが溜息を漏らす。




「でも近い。あの子たちが導いてくれるはずだ」ゼフは海を指差す。




「誰が?」




ゼフは船と並んで泳ぐ魚たちに視線を送る。


「彼らが」




「…魚に案内されるとか、頭おかしいんじゃねーの?」ヨウヘイが嘲笑を漏らす。




ジェイソンは真剣にゼフを見た。


「いや、もしかしたら…。彼はポセイドンの息子だ。何か繋がりがあるかもな」




「…まあ、いいさ」ヨウヘイが肩をすくめる。




「ごめんな。家族のことは…いろいろあるんだろう」ジェイソンが優しく言った。




ゼフは応えず、再び海を見つめた。魚たちの動きが不穏だった。




「何かが…来る」




突如、彼は腕を広げ、水の波動で船体を横へ跳ねさせた。




直後、巨大な触手が海面を突き破り、甲板の一部を粉砕する。




「チッ…間一髪」




「なんだよ、あの化け物!?」ヨウヘイが叫ぶ。




ユキも呆然と立ち尽くす。




「イカ…?いや、大きすぎる…」




深海から浮かび上がった巨大な頭部。意志を持つ眼差しがゼフを見つめた。




――王子よ




脳裏に直接語りかけてくる声。




「まさか…君は…?」ゼフが呟く。




「何してんだよ!早くぶっ潰すぞ!」ヨウヘイが構える。




「待て!」ゼフが叫ぶ。




その瞬間、周囲にイルカの群れが現れる。




「…こいつらまで登場かよ」ヨウヘイが苛立つ。




海獣は音もなく沈み…その後、複数の影が水面から姿を現した。




それは人型でありながら、鱗に覆われ、眼は海のように光っていた。




「ここは…アトランティスの領海。外界の者が足を踏み入れることは禁じられている」




ジェイソンはゆっくりと両手を上げる。


「手を出さないでくれ。ポケットから許可証を取り出すだけだ」




「一つでも不審な動きを見せたら…全員死ぬ」




「わかってる」




彼は静かに、王の印が押された封筒を取り出し、手渡した。




確認を終えた兵士が頷いた。




「入国を許可する。船の損傷を考慮し、我らの乗騎で案内しよう」




彼らは荷物をまとめ、イルカたちの背に乗り込む。




海が割れ、道が現れる。




ゼフの目に光が宿った。


「…思ってたのと全然違う」




「これはまだ外郭にすぎん。本物は…これからだ」兵士が言う。




海底の巨大な壁に亀裂が入り、そこを抜けた瞬間――




黄金の光に包まれた世界が広がった。




運河、塔、神殿、浮遊するドーム。




その最奥、影の王座に腰掛ける人物。




トリトンがモニターを睨みつけ、静かに呟く。




「弟を寄越すとはな…やはりお前は、父上。臆病者のままだ」



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?