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第49章:メガロドンの剣

すべての武器が切れ味抜群というわけではありません。真実をもってそうする人もいる。


そして、すべての真実が維持されるわけではありません。


奉仕するために作られたのではないオブジェクトもあります…


しかし、テストし、観察し、それらを扱う者の意志に挑戦することです。


時には権力を握れるかどうかではなく


しかし、その力があなたによって担われることを望んでいるかどうかです。


なぜなら、非凡なことが日常である世界では、


本当に稀なのは、価値があるということだ。


そして本当の戦いは外にあるのではない…


でも中には。


————————————————————————————————————————————————————————————————


市場の喧騒は耳が痛くなるほどだったが、ユキはゆっくりと歩いていた。好奇心と戸惑いが入り混じった視線を漂わせながら、海の魔法で形作られた巨大な建物、空中に浮かぶ水晶、そして宙に漂う水の流れに囲まれたアトランティスの中心地を見回していた。




(この場所…とんでもなく広い。グレクの首都よりも、はるかに…)




遠くで、ドスン…ドスン…と、まるで巨人たちが鍛錬しているような音が響いていた。その衝撃波は中央コロシアムから伝わってくる。間違いない、ヨウヘイとアトラスが戦っている。




「さあさあ、王国一の武器だよ〜!」と、低くよく通る声の商人が叫んでいた。鱗で装飾された旗を振りながら、「深海の刃、真珠鋼の槍、封印された剣、珊瑚の槍!何でもあるよ!」




ユキは自然と足を止めた。最近の戦いで、自分の剣には亀裂が入っていた。次の戦いまで耐えられるかどうかも分からない。




(…新しい剣、欲しかったんだよね)




視線の先には、深海のような青と漆黒を帯びた美しい剣があった。柄は細く、握った感触も良さそうだった。何より…その剣はまるで、呼吸しているように感じた。




「お嬢ちゃん、目がいいな」と商人がユキの視線に気付き、にっこりと笑った。




「ありがとうございます」と彼女も礼儀正しく微笑んだ。




「どんなエネルギーを使ってる?」




「水です」




「なら、これがぴったりかもな」




そう言って、商人は剣を覆っていた黒い布を外し、両手で丁寧に差し出した。剣の輝きが、ユキの存在に反応するように強まった。




「アビス王国の洞窟で採れたサファイアと、海底火山の黒曜石で鍛えた一振りさ。世界に一本しかない、特別な剣だ」




ユキの目が細められた。




「おいくらですか?」




「銀貨十枚と金貨二枚」




その額にユキは思わずまばたきした。




(高い…でも、本当に自分に馴染むなら、その価値はある)




考えていたその時、不意に横から茶化すような声が飛んできた。




「おいおいモーガン、平和な客人を騙すのはよくないんじゃないか?いつまで海賊気取りで商売してるつもりだよ」




商人の目が細くなった。




「…まさか、お前が来るとはな。アトランティスの王子様、ディアプレペス殿」




声の主が現れた。湿気に浮かぶようなウェーブのかかった髪、気取った笑み。そして軽やかな足取り。ユキの前に立ち、彼はにこやかに言った。




「自己紹介が遅れてごめん。俺はアトランティスの末弟王子、ディアプレペス」




「私はユキ・ツカ…アフロディーテの娘です」




「会えて光栄だよ、ユキ。次の武器選びに悩んでるみたいだね?手伝おうか?」




「はい。今の剣はもう限界です。もっと自分に合ったものが欲しくて」




ディアプレペスは彼女が見ていた剣をじっと見つめ、頷いた。




「その剣がいい」




「冗談だろ?」と商人モーガンが眉をひそめる。




「本気さ」




「…あれが何か分かってるのか?」




「もちろん。呪われた武器。そして、ラックエネルギーの導通が可能な唯一のタイプ。間違いないだろ?」




モーガンは悔しそうに肩をすくめた。




「…その通りだ」




ユキは警戒心を浮かべた。




「呪われた武器…?」




ディアプレペスが静かに頷いた。




「この世界には、五つの武器ランクが存在する。普通の武器、呪われた武器、属性武器、神の武器、そして…失われた武器。君が見てるのはその中でも二番目、“呪われた武器”。この世に二十本しか存在しない。一本一本に“魔”が宿ってる」




ユキはごくりと息をのんだ。




「知らなかった…」




「持たない方がいい」と、モーガンが真剣な目で言った。「あの剣のせいで、俺の船団は壊滅した。正気を失った仲間たちは、互いを殺し合った。普通の人生を望むなら、その剣からは離れた方がいい」




一瞬、ユキは視線を落としたが…すぐに顔を上げ、強い瞳で告げた。




「忠告ありがとうございます。でも…この世界に、“普通”なんてありません」




ディアプレペスが微笑んだ。




「いい覚悟だ。代金は俺が払う。モーガン、この剣は俺の勘定に入れてくれ」




「かしこまりました…」




波の音が場面を溶かし、次の瞬間には、ユキとディアプレペスが並んで無人の浜辺を歩いていた。潮風が頬を撫で、新しい剣の重みが背中にのしかかる。




(…ここで何をするんだろう?)




波が静かに岸を洗い、潮風が岩の間を鳴らしていた。


ディアプレペスは腕を組んだまま立ち、目の前で新しい剣を膝に挟んで座るユキをじっと見つめていた。




「その武器を扱いたいなら……まず、自分がどれだけの力に耐えられるか、知る必要がある」


重みのある声が響いた。




ユキは顔を上げた。


「どういう意味……?」




「ラックの魂を宿す武器は、簡単には従わない。意志の強さなんて関係ない。彼らが力を与えるかどうかは、“認めるか”どうかだ。そして、もし相手が強すぎれば……強制的に服従させることもできる」




ディアプレペスが数歩近づくと、その影がユキの上に落ちた。


「その剣の中にいる“魔”と対話すること。――それが君の最初の試練だ。だが、気をつけろ。…中身は、簡単な相手じゃない」




ユキは静かにうなずき、目を閉じて、両手を柄にそっと置いた。


その瞬間、外の世界が溶けていった。




気がつくと、そこは水の中のような場所だった。沈んだ大聖堂のような空間。


水に満たされているのに、息はできた。ただ、すべてが重い。圧力。気配。意識。




――そして、“それ”を感じた。




闇の奥から、真紅の瞳がゆっくりと開いた。


その存在は影から姿を現した。鋭い鱗に包まれた体。無数の牙を並べた顎。


まるで、立ち上がった巨大なサメのような形状。悠久の記憶を纏った異形だった。




「ようこそ……」


声は濁った海の中で低く響いた。


「半神とはな。悪くない」




ユキは怯まなかった。ただ静かに見据えた。


「思ったよりも……意識がはっきりしてるのね。常に目覚めてるの?」




「ここに閉じ込められて、何世紀も経った。


多くの使い手を見てきたさ。成功した者、敗れた者。誰が価値あるか、見分ける目くらいはある」




ユキは一歩、前に出た。


「じゃあ、聞かせて。私のこと、どう思う?」




魔は、乾いた笑いを漏らした。


「価値は、ない」




その言葉は、槍のように胸に突き刺さった。


ユキの目が見開かれる。




「なぜ……?何を根拠に?」




「潜在力はある。だが今のままでは――


力のほんの一部でも与えれば、内部から破壊される。回復もできず、終わるだろう」




ユキは歯を食いしばった。


「試してみてよ。私は、受け入れる覚悟がある」




魔の目が細くなった。


「……覚悟の問題じゃない。お前の意志なんて、どうでもいい。力が欲しいなら……それに“見合え”」




水が震えた。圧力が増した。空間が収縮する。




「お前に価値がある時に……また来い」




視界が揺れ、ユキは膝をついた。


息が苦しい。世界が、ぼやけていく――




次に目を開けたとき、空は夕焼けに染まっていた。


ディアプレペスが無言で見下ろしていた。表情に怒りはなく、ただ静かな観察。




「……失敗だな」




ユキはうつむいた。




「でも、意味はある」


彼の声が続いた。


「今のままじゃ足りない。それだけの話。――始めようか?」




ユキは震える足で立ち上がった。


「お願いします!」




その瞬間、彼女は剣を抜き、勢いよく斬りかかった。


だがディアプレペスは軽くかわし、するりと二本指で剣を挟み、片手で弾いた。




ユキの体は海に落ちる。泡がはじけ、怒りと焦りが胸に渦巻いた。




(どうして……見えてないはずなのに、全部読まれてる!)




水面から飛び出し、ユキは叫んだ。


「水術――《黒きメガロドン》!」




闇に包まれた巨大なサメが現れ、轟音と共に襲いかかる。


だが、彼はただ手を差し出しただけだった。




攻撃が停止し、逆流した。




「くそっ……!」


衝撃が襲い、ユキの体は宙に舞い、水面に仰向けで浮かんだ。空が、紫色に染まっていく。




「大丈夫か?」と、彼が膝をついて近づいた。




「うん……ただ、自分が……いかに弱いか、わかっただけ」




彼は、濡れたまま微笑んだ。


「いいさ。それでも立ち向かえ。諦めるな。俺は……お前が諦めるのを許さない」




ユキは目を閉じた。体は限界だったが、心は――まだ燃えていた。




(つかれた……)




そのまま、体が静かに沈んでいく。




「おいっ、おい!しっかりしろ!ユキーーーッ!」




ディアプレペスの声は、波の中に溶けていった。

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