地図上に表示されるべきではない土地があります。地理的な範囲を超えて、世界の論理の崩壊を象徴する場所。生命そのものが呼吸の仕方を忘れてしまったかのような空間…そして、かつて人間だったものの骨の間で、時間が永遠のささやきとなる。
何かを中に入れずにこのような島に到着する人はいません。罪悪感、復讐、絶望…破れた夢や死者との約束。同じ道を戻ってくるつもりで砂の上を歩くことはしません。自分の内側で何かが壊れることなく、地平線を見ることはできない。
それでも、前進する人たちがいる。無知からではなく、確信から。延期できない戦いもあるからだ。なぜなら、悪魔の中には、実在するものであれ象徴的なものであれ、自らの選択による地獄でしか対峙できないものが存在するからだ。
デスアイランドは単なる呪われた場所ではありません。それは裁判だ。訪問者一人ひとりが魂で答えなければならない、答えのない質問。
そして今日…いくつかの名前がその海岸で運命を記しました。
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霧がゆっくりと晴れていく。
まるでこの世のものではない岸辺が、その姿をあらわし始めた。
黒ずんだ岩。ねじ曲がった木々。地面から逃げ出そうとしているかのような形状。
そして、砕けた鏡のように空を映す、底知れぬ漆黒の海。
「シュン、到着だ」
ドレイクが船首から声を上げた。
そのマントが風に揺れ、まるでこの先に待つ脅威を警告するかのようだった。
「意外だな」
シュンは腕を組んだまま、乾いた声で応じた。
「もっと荒れると思ってた」
ドレイクの表情には笑みがない。
「……難しいのは、到着じゃない。脱出だ」
「どういう意味だ?」
アレスが眉をひそめる。
「この島はな……」
ドレイクは声を潜めた。
まるでその名を口にすれば、何かを呼び寄せてしまうかのように。
「今まで見たこともない怪物や存在で満ちている。まるで——」
「地獄から召喚されたような奴らばかり、ってことか?」
シュンが淡々と口を挟む。
ドレイクは驚いたように彼を見つめた。
「……そうだ。なぜ知ってる?」
「その遠征の記録を追ってた」
シュンは船縁へと歩きながら答える。
「海賊史上最大の遠征だった。カリブの名だたる猛者が集い、ある“宝”を手に入れようとした」
「永遠の命の杯カリス……」
ジュアンヌ・ダルクが、疑念と恐れの入り混じった声で呟く。
「実在するかは知らない」
シュンの声はどこか空虚だった。
「誰も手に入れたことがない。だからこそ伝説になった」
ドレイクがゆっくりと頷いた。
「12家の記録を調べ続けた。あらゆる痕跡が、この島を指していた。
だが、上陸した瞬間に理解した。
金銀財宝なんて無かった……出迎えたのは化け物だ。
仲間たちは次々と虐殺された。生き残ったのは俺とメアリーだけ。
だがオリヴィエは残ると言った。
“こんなに多くが死んで、何も得ずに戻るなんて彼らへの裏切りだ”ってな」
シュンはゆっくりと振り返る。
「それでも……結局は何も手に入れず戻ってきた」
ドレイクは歯を食いしばった。
「……あれは怪物じゃなかった。
……あれは、悪魔だ。実在する“悪魔”だ。
名は——マモン」
その名を聞いた瞬間、エデンの顔が強張った。
「……その名前……」
「知ってるのか?」
シュンが眉をひそめて問い返す。
エデンは小さく頷いた。
その声には、どこか拭えぬ闇が混じっていた。
「サンタイで……その名を持つ悪魔と戦う声を聞いた。
あの時の気配は今も忘れられない。
赤い瞳、黄金の角……まるで、世界そのものが止まったようだった」
「そいつが何であれ——」
シュンが不敵な笑みを浮かべる。
「……ぶっ飛ばしてやる」
「よくそんなバカなこと思いつくな……」
ジュアンヌが小さく吹き出す。
ドレイクの表情は変わらない。
「お前の強さは知ってる。だが……あいつは“神”すら殺す存在だ」
「安心しろ」
シュンが肩をすくめる。
「俺はただの人間さ」
「……そろそろ上陸の時間だな」
アレスが海岸を見つめながら言った。
遠くに、朽ちた巨大な黒船が打ち捨てられているのが見えた。
その船体には、判別不能な無数の刻印が刻まれていた。
塩と鉄、そして……死の匂いが、空気に混じっていた。
「キャプテン、あそこに——」
ジュアンヌが指差す。敵の船だった。
「見えてる」
シュンが目を細める。
「言われなくてもわかる」
海岸は、まるで生きているような黒い霧に覆われていた。
その霧の下では、太陽の光すら力を失っているかのようだった。
「思ってたより厄介そうだな」
シュンの声が低く響く。
そして、仲間たちへと顔を向ける。
「ジュアンヌ、アレス、それと……ヨーサのバカ。お前ら三人で行動しろ。
海岸と船を徹底的に調べろ。
もし黒ひげの部下を見つけても、殺すな。
……話を聞く必要がある」
「了解、キャプテン」
ジュアンヌが即座に応じ、剣を抜いた。
「爺さん、吸血鬼とそのバカを連れて森を調べろ」
シュンが親指でタイレシアス、エデン、アレックスボルドを指しながら命じた。
「一匹たりとも見逃すなよ」
「了解だ」
タイレシアスは落ち着いた仕草で杖を握り直し、軽く頷いた。
「お前は何をするつもりだ?」
アレスが腕を組み、疑いの目を向ける。
「見りゃ分かるだろ?」
シュンはニヤリと笑った。
「ちょっと遊んでくるさ」
「気をつけろよ」
アレスの声には重みがあった。
「できるだけ殺さないようにするよ」
そう呟いた直後、シュンの姿は一閃の光となって消えた。
まだ船に残っていたドレイクがアレスに尋ねた。
「じゃあ、俺は何をすればいい?」
「ドレイク船長」
アレスが厳粛な声で応える。
「帰還の手段はあなたに託します」
ドレイクは深いため息をついた。
「了解だ……」
「これはもう、人間の問題じゃない」
アレスの瞳が真っ直ぐにドレイクを射抜いた。
「シュンが動いた時点で、事態は我々の想像を超えてる。舵を失えば、俺たちは戻れない」
「……必ず戻って来いよ」
ドレイクは霧に呑まれていく船を見つめながら、静かに告げた。
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森の中は、湿った影と不穏な草木が入り乱れる迷路のようだった。
腐った根に足を取られそうになりながら進む。空気は金属の匂いを含み、大地そのものが血を流しているようだった。
「はあ……アイツ、ただ遊びたいだけじゃねえか」
エデンが低い枝を避けながらぼやく。
「昔からそうだ」
アレックスボルドは不機嫌な顔で呟いた。
「誰が傷つこうが関係ない。自分が楽しけりゃ、それでいいんだ」
「ふふ……皮肉だな」
タイレシアスが小さく笑った。
「何が皮肉なんだよ?」
エデンが立ち止まり、怪訝な顔をする。
「盲目なのは私だけじゃなかったということさ」
タイレシアスは穏やかな声で返す。
「……何の話だ?」
アレックスボルドが眉を上げる。
「言葉は嘘をつく。でも、行動はつかない。
物事の本質を見るには、訓練された目が必要なんだ」
「悪いけど、意味が分からないな」
エデンが首をかしげたその瞬間だった。
「……止まれ!」
アレックスボルドが突然しゃがみ込み、声を潜める。
「な、何だ?」
エデンも慌てて身を低くする。
「近い……!」
三人は息を殺し、茂みに身を潜めた。
霧の中、ふらふらと歩く人影が現れる。それはもう、人間とは呼べない何かだった。
「この島、一体何が起きてるんだ……」
エデンが倒木の陰で呻く。
突如、背後の闇から一体の化け物が飛び出してきた。
だが、タイレシアスの杖がその動きを正確に封じた。
「おやおや……背後の警戒も忘れたか」
老人の声が冷静に響く。
怪物は呻き声を上げ、後退する。その咆哮が森中に響き渡り、警鐘のように木霊した。
「……最悪だ」
エデンが唇を噛む。さらに何体もの怪物が樹の間から現れ、周囲を包囲し始めていた。
「どうするつもりだ?」
エデンが後退しながら問う。
「聞くまでもないだろ」
アレックスボルドの瞳が赤く染まる。
「殺すんだよ」
「でも……」
「残念ながら彼の言う通りだ」
タイレシアスが静かに口を開いた。
「彼らはもう……人間ではない」
「……クソが……」
アレックスボルドの背中から、血の触手が展開される。
だが、その瞬間。
「やめろ!」
エデンが叫んだ。
「な……何だと?」
「爺さん……お願いだ。アイツを行かせてやってくれ」
「ふざけるな。今はそんな時間じゃ――」
「……頼む」
エデンの声に、必死の決意が滲む。
アレックスボルドが呆れたように睨んだ。
「……何を考えてやがる」
「お前には……汚れてほしくない。
黒ひげを探してくれ。俺は信じてる。お前なら……“正義”を貫けるって」
タイレシアスは深く息を吐いた。
「道を開ける。覚悟しろ」
「シュンがそんなにお前を信じてるなら……それなりの理由があるんだろう。
俺が罰を受けることになっても、構わんさ」
「……ありがとう。エデン。爺さん」
エデンの身体から、黒い気が立ち昇る。邪悪でありながら、どこか哀しげな力だった。
一方、化け物たちは襲いかかる隙をうかがっている。
「――今だ!」
タイレシアスの叫びと共に、エデンと彼は嵐のように敵陣へと飛び込んだ。
闇と炎が交錯し、森が戦場へと変わる。
その中を、アレックスボルドは全力で駆け抜けた。
仲間の叫びと血の匂いを、背に残して。
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島の奥、死の静寂に包まれた場所を、重い足音が響いていた。
巨大な男が、歪んだ死体を踏み越えて進む。
その斧には血が滴り、手には……自らの部下の生首が握られていた。
感情の欠片すらない、虚ろな目。
「もう少しだ……」
黒ひげが、誰かに語りかけるように呟く。
「あと少しで会える……ハナ」