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第71章: 死の島

地図上に表示されるべきではない土地があります。地理的な範囲を超えて、世界の論理の崩壊を象徴する場所。生命そのものが呼吸の仕方を忘れてしまったかのような空間…そして、かつて人間だったものの骨の間で、時間が永遠のささやきとなる。


何かを中に入れずにこのような島に到着する人はいません。罪悪感、復讐、絶望…破れた夢や死者との約束。同じ道を戻ってくるつもりで砂の上を歩くことはしません。自分の内側で何かが壊れることなく、地平線を見ることはできない。


それでも、前進する人たちがいる。無知からではなく、確信から。延期できない戦いもあるからだ。なぜなら、悪魔の中には、実在するものであれ象徴的なものであれ、自らの選択による地獄でしか対峙できないものが存在するからだ。


デスアイランドは単なる呪われた場所ではありません。それは裁判だ。訪問者一人ひとりが魂で答えなければならない、答えのない質問。


そして今日…いくつかの名前がその海岸で運命を記しました。


————————————————————————————————————————————————————————————————


霧がゆっくりと晴れていく。


まるでこの世のものではない岸辺が、その姿をあらわし始めた。


黒ずんだ岩。ねじ曲がった木々。地面から逃げ出そうとしているかのような形状。


そして、砕けた鏡のように空を映す、底知れぬ漆黒の海。




「シュン、到着だ」


ドレイクが船首から声を上げた。


そのマントが風に揺れ、まるでこの先に待つ脅威を警告するかのようだった。




「意外だな」


シュンは腕を組んだまま、乾いた声で応じた。


「もっと荒れると思ってた」




ドレイクの表情には笑みがない。


「……難しいのは、到着じゃない。脱出だ」




「どういう意味だ?」


アレスが眉をひそめる。




「この島はな……」


ドレイクは声を潜めた。


まるでその名を口にすれば、何かを呼び寄せてしまうかのように。




「今まで見たこともない怪物や存在で満ちている。まるで——」




「地獄から召喚されたような奴らばかり、ってことか?」


シュンが淡々と口を挟む。




ドレイクは驚いたように彼を見つめた。


「……そうだ。なぜ知ってる?」




「その遠征の記録を追ってた」


シュンは船縁へと歩きながら答える。


「海賊史上最大の遠征だった。カリブの名だたる猛者が集い、ある“宝”を手に入れようとした」




「永遠の命の杯カリス……」


ジュアンヌ・ダルクが、疑念と恐れの入り混じった声で呟く。




「実在するかは知らない」


シュンの声はどこか空虚だった。


「誰も手に入れたことがない。だからこそ伝説になった」




ドレイクがゆっくりと頷いた。


「12家の記録を調べ続けた。あらゆる痕跡が、この島を指していた。


だが、上陸した瞬間に理解した。


金銀財宝なんて無かった……出迎えたのは化け物だ。


仲間たちは次々と虐殺された。生き残ったのは俺とメアリーだけ。


だがオリヴィエは残ると言った。


“こんなに多くが死んで、何も得ずに戻るなんて彼らへの裏切りだ”ってな」




シュンはゆっくりと振り返る。


「それでも……結局は何も手に入れず戻ってきた」




ドレイクは歯を食いしばった。


「……あれは怪物じゃなかった。


……あれは、悪魔だ。実在する“悪魔”だ。


名は——マモン」




その名を聞いた瞬間、エデンの顔が強張った。




「……その名前……」




「知ってるのか?」


シュンが眉をひそめて問い返す。




エデンは小さく頷いた。


その声には、どこか拭えぬ闇が混じっていた。




「サンタイで……その名を持つ悪魔と戦う声を聞いた。


あの時の気配は今も忘れられない。


赤い瞳、黄金の角……まるで、世界そのものが止まったようだった」




「そいつが何であれ——」


シュンが不敵な笑みを浮かべる。


「……ぶっ飛ばしてやる」




「よくそんなバカなこと思いつくな……」


ジュアンヌが小さく吹き出す。




ドレイクの表情は変わらない。


「お前の強さは知ってる。だが……あいつは“神”すら殺す存在だ」




「安心しろ」


シュンが肩をすくめる。


「俺はただの人間さ」




「……そろそろ上陸の時間だな」


アレスが海岸を見つめながら言った。




遠くに、朽ちた巨大な黒船が打ち捨てられているのが見えた。


その船体には、判別不能な無数の刻印が刻まれていた。




塩と鉄、そして……死の匂いが、空気に混じっていた。




「キャプテン、あそこに——」


ジュアンヌが指差す。敵の船だった。




「見えてる」


シュンが目を細める。


「言われなくてもわかる」




海岸は、まるで生きているような黒い霧に覆われていた。


その霧の下では、太陽の光すら力を失っているかのようだった。




「思ってたより厄介そうだな」


シュンの声が低く響く。




そして、仲間たちへと顔を向ける。




「ジュアンヌ、アレス、それと……ヨーサのバカ。お前ら三人で行動しろ。


海岸と船を徹底的に調べろ。


もし黒ひげの部下を見つけても、殺すな。


……話を聞く必要がある」




「了解、キャプテン」


ジュアンヌが即座に応じ、剣を抜いた。




「爺さん、吸血鬼とそのバカを連れて森を調べろ」


シュンが親指でタイレシアス、エデン、アレックスボルドを指しながら命じた。


「一匹たりとも見逃すなよ」




「了解だ」


タイレシアスは落ち着いた仕草で杖を握り直し、軽く頷いた。




「お前は何をするつもりだ?」


アレスが腕を組み、疑いの目を向ける。




「見りゃ分かるだろ?」


シュンはニヤリと笑った。


「ちょっと遊んでくるさ」




「気をつけろよ」


アレスの声には重みがあった。




「できるだけ殺さないようにするよ」


そう呟いた直後、シュンの姿は一閃の光となって消えた。




まだ船に残っていたドレイクがアレスに尋ねた。


「じゃあ、俺は何をすればいい?」




「ドレイク船長」


アレスが厳粛な声で応える。


「帰還の手段はあなたに託します」




ドレイクは深いため息をついた。


「了解だ……」




「これはもう、人間の問題じゃない」


アレスの瞳が真っ直ぐにドレイクを射抜いた。


「シュンが動いた時点で、事態は我々の想像を超えてる。舵を失えば、俺たちは戻れない」




「……必ず戻って来いよ」


ドレイクは霧に呑まれていく船を見つめながら、静かに告げた。




―――――――――――――――――――――――




森の中は、湿った影と不穏な草木が入り乱れる迷路のようだった。


腐った根に足を取られそうになりながら進む。空気は金属の匂いを含み、大地そのものが血を流しているようだった。




「はあ……アイツ、ただ遊びたいだけじゃねえか」


エデンが低い枝を避けながらぼやく。




「昔からそうだ」


アレックスボルドは不機嫌な顔で呟いた。


「誰が傷つこうが関係ない。自分が楽しけりゃ、それでいいんだ」




「ふふ……皮肉だな」


タイレシアスが小さく笑った。




「何が皮肉なんだよ?」


エデンが立ち止まり、怪訝な顔をする。




「盲目なのは私だけじゃなかったということさ」


タイレシアスは穏やかな声で返す。




「……何の話だ?」


アレックスボルドが眉を上げる。




「言葉は嘘をつく。でも、行動はつかない。


物事の本質を見るには、訓練された目が必要なんだ」




「悪いけど、意味が分からないな」


エデンが首をかしげたその瞬間だった。




「……止まれ!」


アレックスボルドが突然しゃがみ込み、声を潜める。




「な、何だ?」


エデンも慌てて身を低くする。




「近い……!」




三人は息を殺し、茂みに身を潜めた。


霧の中、ふらふらと歩く人影が現れる。それはもう、人間とは呼べない何かだった。




「この島、一体何が起きてるんだ……」


エデンが倒木の陰で呻く。




突如、背後の闇から一体の化け物が飛び出してきた。


だが、タイレシアスの杖がその動きを正確に封じた。




「おやおや……背後の警戒も忘れたか」


老人の声が冷静に響く。




怪物は呻き声を上げ、後退する。その咆哮が森中に響き渡り、警鐘のように木霊した。




「……最悪だ」


エデンが唇を噛む。さらに何体もの怪物が樹の間から現れ、周囲を包囲し始めていた。




「どうするつもりだ?」


エデンが後退しながら問う。




「聞くまでもないだろ」


アレックスボルドの瞳が赤く染まる。


「殺すんだよ」




「でも……」




「残念ながら彼の言う通りだ」


タイレシアスが静かに口を開いた。


「彼らはもう……人間ではない」




「……クソが……」




アレックスボルドの背中から、血の触手が展開される。


だが、その瞬間。




「やめろ!」


エデンが叫んだ。




「な……何だと?」




「爺さん……お願いだ。アイツを行かせてやってくれ」




「ふざけるな。今はそんな時間じゃ――」




「……頼む」


エデンの声に、必死の決意が滲む。




アレックスボルドが呆れたように睨んだ。


「……何を考えてやがる」




「お前には……汚れてほしくない。


黒ひげを探してくれ。俺は信じてる。お前なら……“正義”を貫けるって」




タイレシアスは深く息を吐いた。


「道を開ける。覚悟しろ」




「シュンがそんなにお前を信じてるなら……それなりの理由があるんだろう。


俺が罰を受けることになっても、構わんさ」




「……ありがとう。エデン。爺さん」




エデンの身体から、黒い気が立ち昇る。邪悪でありながら、どこか哀しげな力だった。




一方、化け物たちは襲いかかる隙をうかがっている。




「――今だ!」


タイレシアスの叫びと共に、エデンと彼は嵐のように敵陣へと飛び込んだ。




闇と炎が交錯し、森が戦場へと変わる。




その中を、アレックスボルドは全力で駆け抜けた。


仲間の叫びと血の匂いを、背に残して。




―――――――――――――――――――――――




島の奥、死の静寂に包まれた場所を、重い足音が響いていた。




巨大な男が、歪んだ死体を踏み越えて進む。


その斧には血が滴り、手には……自らの部下の生首が握られていた。




感情の欠片すらない、虚ろな目。




「もう少しだ……」


黒ひげが、誰かに語りかけるように呟く。




「あと少しで会える……ハナ」

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