「よし、ポイント割り振るぞって、カイネ今何ポイント?」
小屋の椅子に向き合って座りながら、カイネと
「30ポイントだな」
「じゃあこれやる――ポイント移行35ポイント」
「多くないか?!」
「僕はまだ45ポイントあるからねー」
雪斗はゲームで60ポイントを獲得したらしい。
いや、離れた隙にDマークのダンボールが幾つか増えている。
一体どれだけゲームでポイントを取ったのか。
カイネはマイペースを見た。確かに65ポイントになっている。
「薪を買ったんだ。ライターも飯盒もあっても、薪は現地で買うつもりだったじゃん?お腹空いたし」
「お前はほんとに自由だな……」
D端末で時間を見ると、午後の三時だ。お昼を食べ損ねている。
小屋の中で煮炊きするわけにもいかないので、カイネと雪斗は謎の白い空間に出た。
一合ずつビニールに分けた米袋を開けて、カイネのスキルで米を洗う。洗った水を離れたところに流したが、水は跡形もなく消えた。
「D端末のストアじゃ、五百ミリの水一本で、1ポイントだったんだよね。やっぱり当たりスキル引いてるよ、カイネ」
「攻撃としては、どうかと思うが」
「いやー、ポイント割り振れば強くなるんじゃない?米を浸水させてる間、ポイント割り振りなよ」
ゲーム画面ならば、育成ポイントを割り振って冒険に出したことはあるが、これは命がかかっている。
「まずはストアで剣を買っていいか?」
「いいんじゃね?でも使えんの?」
「元剣道部だぞ」
「直ぐにやめてたじゃん!」
カイネは中学の頃、少しだけ剣道部にいた。だが、魔物を相手に自由に剣をふるっていた記憶が、相手を死なせない型をとうとう理解出来なかった。
しかし今は、多少雪斗に怪しまれても馴染みの武器がいい。
雪斗と自身を守るためには、まだ謎のスキルよりわかる武器が欲しかった。
「これは――高いな」
成長魔剣と書かれた剣にカイネは惹かれたが、購入ポイントが500ポイントだった。
高すぎる。
よく見ると、剣や刀を体に下げるベルトも、2ポイントで売られていた。
「カイネ、オークションのアプリ開いてみ?この日本刀よくない?」
ストアを閉じて、オークションを開けてみる。
品揃えはほとんどなく、履き古したブーツなどが並んでいる中で、日本刀が二本出品されていた。
〈
〈
「しかも、どちらもポイント20で買えるって安くね?!65ポイントあるし、どっちも買っちゃえよ」
「だが、説明が嘘の場合も――」
「あ、それはない。出品途中までやってみたけど、システムが鑑定するから商品説明は書けない仕様になってた」
カイネが心配するところは、いつも抜かりなく雪斗がカバーしている。
明るい茶髪の主は、横からカイネのD端末を押して決済した――しようとした。
だが、D端末は反応せずにカイネが操作したときの画面のまま。
「おっ、これって登録者以外は触れないんだ。じゃあ今後、ポイント強奪とか起きても防げるんだな」
「それが無かったら、お前ほんとに買う気だったな」
カイネは、紅王絶華を選択購入した。
ついでにストアで刀の固定ベルトも買う。
すぐさま、二つのDマークのダンボールが届いた。
「二本とも買えば良かったのにー」
「他にも欲しがる人はいるだろ」
確かに、どちらも欲しかったがカイネも浄化のスキルを持っている。
知らない誰かが、それで生き残ってくれればと思う。
刀に鑑定カメラを向けてみたが、オークションと同じ説明だった。追記はない。
「じゃ、僕から割り振ろうかな。ジョブはとりあえずこのままで、スキルとステータス育てたいよね。極振り――は少し怖いな」
極振りとは、極端に攻撃や防御など一点突破でレベルを上げることだ。
カイネは今のうちに、疑問を共有する事にした。テレビゲームやソーシャルゲームのプレイ時間は、圧倒的に雪斗のほうが経験がある。
「体力:LvEと表記されてただろ。レベルEってどういうことだと思う?」
「単純に考えれば、A.B.C.D.Eで強くて――まあAの上にSとかいるかもだけど、とりあえず五段階の中で一番下ってことだと思う」
雪斗は、体力、筋力、敏捷、防御、器用、走力、幸運にそれぞれポイントを3ずつ振り分けたがレベルはEのままだ。
だが、火矢のスキルに同じく3ポイント振ると、火矢は(中)に上がった。
「ステータスはある程度ポイント必要そうだなー。しかもDに上がったとしてもCに上がるには同じポイント数じゃあがれないと見た」
「これだけのポイントでは足らないのか……」
雪斗はそのまま、風矢と雷矢も中レベルに上げる。残りは15ポイントだ。そして5ポイントは絶対に残さなければならない生き残り用ポイントである。
「ま、やってみてもありでしょ」
雪斗は呟くと、カイネの目の前で幸運に10ポイントを投げ込んだ。
「――は?」
雪斗の暴走を咎めようとしたが、カイネの目に飛び込んだのは、驚きの変化だ。
――――――――――――――――
体力:LvE
筋力:LvE
敏捷:LvE
防御:LvE
器用:LvE
走力:LvE
幸運:LvA
――――――――――――――――――
「幸運、A?13ポイントでそんなに上がるのか?」
「いやー、なんせ幸運だから、投げ込んだ途中で運で上がったのかもしれないよ」
こういう時の雪斗は、ユットジーン時代から珍しくない。引きが強いのだ。
カイネも、とりあえず水分強奪、浄化、水球をレベル弱から中に引き上げる。だが、浄化スキルだけはいまいち使い道が分からない。
「浄化」
何も無い空間に放ってみたが、何も起こらない。階段にひしめいているモンスターに向けてみたが、やはり変化はなかった。
「解毒とか、デバフに効くんじゃないの?試しに僕にやってみて」
「いや、でもスキルだぞ?」
「いーから!」
純粋に目を輝かせている雪斗はどうかしてると思う。雪斗に向けるくらいなら、とカイネは自分に浄化を掛ける。
「――これは」
汗でくっついていたウインドブレーカーが軽くなった。髪をかきあげると、べたついた感じもない。
肌も、お風呂上がりのようにすっきりとしていた。
「どーなったの、どーなったの」
「浄化」
騒ぐ雪斗にも、安心してスキルを使う。
同じく汗がひいたことがすぐに分かったらしく、喜んで上着をばたつかせているのが微笑ましい。
「カイネ、これは凄いよ!登山前にコーヒー垂らしたシミも消えてる」
「これが浄化らしい――風呂の代わりだな」
「生活に役立つのなんて最高じゃんか。僕のスキルなんて攻撃特化で暮らしの役には立たないからな」
それが本来のスキルのあるべきものだと思うが――ダンジョンを抜け出すまで不潔さに耐えるよりはましなのだろう。