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第4話強化②

  雪斗がDマークのダンボールをバラバラにして、組んだ薪の下に引いている。着火ライターは持参していたので、火は直ぐに付いた。


 カイネは、残る36ポイントをどうするか決めた。

 薪などの消耗品にもポイントは必要だ。とりあえず10ポイントは貯める。


 この先、しばらくは階段にみっしりと押しかけているモンスターが相手だ。筋力に10ポイント振ると、レベルがDに変わった。


「どうやら、レベルEからDは10ポイントらしい」

「じゃあ、僕の幸運はバグか運だね」 


 器用という項目が気になる。武器をうまく扱えるのだろうか。よく分からないものに手を出す性格ではないカイネは、ひとまず保留にした。

 やはり次に必要なのは体力だろう。同じく10ポイントいれて、レベルDにあげる。


 残り4ポイントに悩んだが、雪斗のを思い出して結局丸ごと保留に決めた。

―――――――――――――――

慎英カイネ レベル/1   ポイント14

水の操者アクア・ヴォルテックス

スキル/ 水分強奪(中)浄化(中)水球(中)

体力:LvD

筋力:LvD

敏捷:LvE

防御:LvE

器用:LvE

走力:LvE

幸運:LvE

――――――――――――

「米、炊けた?」

「全部開けるなよ、蒸らさないといけないんだ」 


 紙皿と小型フライパンを、持ってきていて良かった。

 カイネは火から下ろした飯盒を、蓋をあけてかき混ぜると蓋をずらしたままにする。十分程度寝かせたら、逆さにして蒸らせばオッケーだ。


 ほとんど解凍された牛肉を、塩コショウしてから小型フライパンで焼く。味付けはバーベキューソースだ。それ以外、何も持ってきていない。


「肉もとりあえず今夜が食い収めかー。ストア見てたけど、豚肉四百グラム5ポイントって微妙な高さだよな」

「命の価値と同じなのか……」

「非常用食とかのカロリー飲料は二個で1ポイントだけどね」


 よく考えられている設定価格だと思う。

 ゲームのポイントだけで食いつなぐなら何とかなりそうでもあるし、食をある程度の基準を保ちたいならやはりダンジョンに行けということなのだろう。


「米も出来た。食べるか」

「待ってました〜!」


 紙皿に、零さないようにご飯と肉を盛り付ける。

 使い捨ては荷物の中で折れるかもしれないと、きちんとした箸とスプーンを持ってきていたのは良かった。


 残るは、お湯で温めるパウチのカレーが数個。雪斗が目をつぶってどれを引くかゲームをする為に、全部違う味で持ってきていた。


「ダンジョンのセーフティエリアで食う初のご飯かぁ……いただきまーす」


 雪斗は最初に肉とご飯を交互に平らげると、残った白米は肉についてきたバーベキューソースで食べている。

 カイネは肉は少しずつ、白米多めでもそもそと箸を動かしていた。食欲のある雪斗のメンタルは、鉄で出来ている。


「カイネ肉いらないんなら、ちょーだい」

「誰がやるか」


 行儀が悪いと雪斗に責められながら、カイネは食べながらチャット欄をチェックした。

 書き込みは止まらず、中には書き込みでポイントが消えるという声もある。


 だが、パニックが起きている様子はまだない。


「カイネって、実は気になる女の子でもいんの?」


 カイネは米を飲み込んでいなかったら、吹き出していたところだ。

 咳き込んでいるところを、水筒を差し出されて水を飲む。 


「なにを言い出すんだお前は」


「小学校からの付き合いだけど、カイネって女っ気がないじゃん。でも、心配する家族もいないし、チャットやたら気にしてるから、もしかしてー?と思って」

「飛躍しすぎだ、馬鹿」


 前世、カインネフィア時代は叶わぬ恋をしていたことはあった。

 身分違いで相手には婚約者もいた。

 今もその人を忘れられない――など言えるはずがない。


「カイネはモテるのになー」

「別にモテてない。モテてるのはお前だ」


 前世も今世もモテまくりなのは雪斗だ。

 前世は王子という身分で狙われることも多かったが、今世はよく連れ立って歩いているとモデルなどの芸能界のスカウトに合う。


「まあ僕はね、オーラが違うからね」

「言ってろ」


 こうしたやり取りは、前世から変わらない。ユットジーンは身分をひけらかしていくタイプではなかったので、幼い時から遊び相手だったカインネフィアには敬語を禁止させていた。


 雪斗が唯一、今世に引き継いでいるもの。

 それは、『魔法』だ。

 魂に刻まれているのか、転生してからも雪斗は『影魔法』が使える。


 幼い時は、前世の記憶があるカイネが雪斗を世話していたので、なにか変な力があると泣きついて相談された時も焦らなかった。

 二人だけで人気のない場所に行っては、『影魔法』の操作の練習をして過ごした。

 そして、その力は今もある。


「食べたらいよいよ、ひと狩りいこうぜ」

「――『魔法』も使う気か」

「あったり前じゃん!あるものは使う」


 かつては王子の親衛隊長として。

 今は親友として。


「任せておけ。俺がサポートしてみせる」


 カイネが笑ってみせると、雪斗は微かに震える指を握りしめた。 

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