車内で、ジュリエッタはD端末をじっくり観察していた。
マイページで、個人登録せよと警告が付いている。
賢者セリオンからは、地球はスマートフォンに個人情報をいれて扱うのだと習ったが、この魔道具に登録していいのか半信半疑だった。
「困ったわ……」
ただし、ジュリエッタの勘が告げている。
それは半ば命の勘だった。
ジュリエッタが登録を始めると、エリスもマイページを登録する。
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創造の
スキル/武器生成(小)防具生成(小)アクセサリー生成(小)
体力:LvE
筋力:LvE
敏捷:LvE
防御:LvE
器用:LvE
走力:LvE
幸運:LvE
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刃の
スキル/刀剣(小)両手剣(小)モーニングスター(小)
体力:LvE
筋力:LvE
敏捷:LvE
防御:LvE
器用:LvE
走力:LvE
幸運:LvE
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魔道具であるD端末に登録する際に偽名がバレるのではないかと思ったが、すんなりと登録者として通った。
だが、D端末とジュリエッタが薄い魔力で接続された感覚がある。
それはあまりにも薄くて、気味が悪かった。
「やはりザワついてますね」
初めて乗った電車だが、駅では無いところでしばしば止まる。
ジュリエッタたちはそういう乗り物だと思っていたが、周囲のイライラとざわめきでそうではないことを知った。
「そうね……。嫌な予感がするわ。そろそろにしふなばしよね」
見落とさないよう、教えてもらった路線図を見つめる。
すると、ぎょっとするほどの数の通知音が一斉に車内の各所で鳴り響いた。
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――@管理者
ダンジョン誕生記念として全員に10ポイント配布します。
毎日24時、生存接収として5ポイント徴収します。
ポイントが足らない場合、生存に失敗します。
[――@system]
チャットルームが解除されました。
ストアが解除されました。
鑑定カメラが解除されました。
オークションが解除されました。
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「なんだこれは!」
ジュリエッタたちの向かいに座る中年男性が、立ち上がって大声をだす。
立っている者も座っている者も、皆D端末を広げていた。
「ひどい悪ふざけだ!まったく政府ってやつは……」
ぶつぶつと、大きな声で不満をばら撒きながら再び座る。
逆に、若い男女の集団はマイページを見せあって盛り上がっていた。D端末をゲーム機だと言い合っている。
「俺の異名、かっこよくね?
「私なんて、
「いや、名前が厨二〜」
「お前のも見せてみろよ」
「なんかネットがめっちゃ騒いでんだけど。エイプリルフールすぎたっつうの」
エリスが、そっとジュリエッタの片手を握った。
浮かれている若者たちが、本気で面白がっていることが理解できないのだろう。
西船橋のアナウンスが流れて、慌ててセリオンに連絡を取る。イヤリングを押さえながら喋る様は奇妙に思われないか心配だったが、誰も特にジュリエッタに注目しなかった。
『JR中央総武線に乗り換えてー。それで千葉で乗り換えてみて』
「……もう一度言ってくれない?」
『ああもう、文字を伝えるアイテムを作るべきだったよ。ボクとしたことが』
ジュリエッタは電車を降りて、呪文のようなそれを暗記しながら乗り換えを探す。
メトロで東西線に乗った時よりも、すれ違う誰もがD端末を見つめて操作していた。
目当ての乗り換え口を見つけたが、凄まじい人の波に驚かされた。
周りが口々に運行停止を嘆いて、罵っている。
ジュリエッタは運行停止の意味が分からないので、セリオンに電車が動いていないことを教わった。そのまま、セリオンの指示で出口を潜りタクシーを探す。
運良く、タクシーはまだ空いていた。
「うんてんしゅさん、成田山までお願いします」
むき身の一万円札の束を見せると、運転手は目を瞬かせてドアを閉める。
賢者の予想では待ち人は、そこにいるはずだ。
ジュリエッタは祈るように、初めて乗る乗り物から空を見上げる。
車窓は、どんどんと見た事のない都市を流れさっていった。