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第12話 混乱②

「なっつぁん――どうする」

「俺は……行く」

「やめてよ、アンタ!店なんかこの際諦めるのよ!」


  人だかりの中心で、鍋を持った人々が割れた。

  初老の老人が、覚悟を決めたように腕まくりするのを、ジュリエッタが止める。


「どうされるんです?」

「見たら分かるだろうアンタ――俺の店がダンジョンとやらになったんだよ」


  原田金物店と書かれた店の入口から、青い光が漏れていた。 

光は不規則にぐにゃぐにゃと歪んでいる。


『鑑定カメラ使って』 

セリオンに囁かれて、ジュリエッタはD端末を向けた。


――――――――――――――――

原田金物店ダンジョン  [0/3]

――――――――――――――――


「0、3とはなにかしら……」

『入ったら分かるよ――キミは分かってるよね。ここの世界の人達は戦いに慣れてない』 


ジュリエッタとエリスには魔法がある。

この世界はスキルという謎の力に目覚めたばかり。

  もう聖女とは言えないのかもしれないが、ジュリエッタは助けたい。


「私たちが代わりに入ります」

「でもあんたら――」

「わたしたちには武術の心得があります」 


エリスが老人を止めた。 

その戦士の瞳に、周囲の人々は息を飲む。


「なにか、武器を持っていくかい?せめて――」

「いえ――あ、ではお借りします」

  セリオンが、マジックバッグが通じない人に持っていると言っても信じて貰えないよと助言してきたので、慌ててジュリエッタは受け取ることにした。

  ジュリエッタが大鍋を、エリスがフライパンを受け取る。 


こんな若い女の子たちに――という声も聞こえたが、エリスの気迫がそれをかき消した。

  多くの視線に見送られて、ジュリエッタたちは原田金物店ダンジョンという、初めての異空間に踏み出した。


「これが、先のスライムと呼ばれていたやつですか」

「そうね、ポインビーと似てるやつよね」 

マジックバッグに借りた鍋をしまい、エリスの戦斧を取り出す。 

ジュリエッタは手甲を、手馴れて嵌めた。


「行くわよ」


  二人は左右に分かれる。  ジュリエッタの拳が掠めただけで、スライムたちは蒸気をあげるように消えていく。

  それを顧みもしないで、ジュリエッタは必殺のパンチを連続で叩き込んだ。


  スライムがいた場所には石が転がりだし、ジュリエッタは構わず撲殺しながら前に進む。

  エリスは戦斧の剣圧で、同じくスライムを皆殺しにしながら左の道を行く。 

外から見るより、ダンジョンは中が広い。 


エリアを一つ一つ潰すと、四つ目にキングスライムと表示されたモンスターに行きあたった。

  周りを見渡せば、もう他にモンスターはいない。 

ぼよんと跳ねてたキングスライムは、それは攻撃だったのか移動だったのか――ジュリエッタの繰り出した右手に、一撃で消える。


「あら?これでおしまい?」

「ジュリエッタ様、二階の階段があります――この石をどうしましょう?」 


辿ってきた道には同じ白い石が転々と広がっていた。

『エリアボスも倒したんだね。しばらくその階は何も出てこないよ』

  鑑定カメラで見ると、魔石。加工素材。とだけ記されている。 

だが、ジュリエッタにはその意味が分かった。


 

「エリス、この魔石全部拾って!使えるわ」

『何する気〜?』

「私のスキルなら、この石には使い道があるわ!」

「はいっかき集めます!」 

  エリスがかき集める中、ジュリエッタのスキル、創造の右手クリエイティオ・デクストラが魔石に反応する。 

 加工しようとして、素材が足らないことが。 

 レベルが2に上がっていたので、ジュリエッタは器用に討伐ポイント50を含めた80ポイントを全部叩き込む。

   あとで生存ポイントを思い出したが、また倒せばいいだけだ。


「あっそうだ」

   ドレスデン王国から持たされていた宝石を思い出す。  日本ではただの宝石扱いだが、本来のそれは魔力を帯びている。 

 真紅の宝石とスライムからでた魔石を膝に置いて、ジュリエッタは座り込んだ。


「武器生成」


   その右手が、二つの石を溶かして新しく日本刀として形を成していく。

 まったく違うやり方で、錬金術師が武器を生成してるのを見たことがあるが、内容はそれに近いと思った。


「鑑定――紅王絶華こうおうぜっか。あら、勝手に名前がつくのね」

『不器用なキミが生産職とはね』

「いいのよ!だから器用にステータスを振ったの」

   続けて、白の宝石と魔石で試すと、白蓮斬びゃくれんざんという刀が生まれる。 

 よくわからなかったスキルだが、ようやく使いこなせたと思った。


『タイミング最高!殿下たち武器探してる。オークションにそれ出したら買うんじゃない?』

「なんで現地の私たちよりあなたがD端末に詳しいのよ」『もともとの頭脳の出来が違うんだからやっかまないでよ。ボクは賢者だよ』 


 オークションのアプリを開いて、白蓮斬、紅王絶華と出品する。

 ポイントはセリオンに言われた通り20ポイントずつにした。 

 ジュリエッタとしてはもっと低いポイントでも良かったが、必ずしも王子たちが買うとは限らないと言われる。


――――――――――――――――

商品が購入されました。20ポイント振り込みます。

―――――――――――――――――

『親衛隊長が、紅王絶華を買ったよ』

「やったわ〜〜〜!!」


   D端末の知らせとセリオンからの通知はほとんど同時だった。 

 ともかく、武器を渡せた。 

  まだ会えてはいないけれど。 


 これから、少しずつ向かうから。 

 ――どうか、ご無事で。

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