「奥村、逃げるぞ」
「でも!山口どうすんねん、結城!!」
「お前まで追いかけるのか、冷静になれ」
「でも……」
(司の野郎、アスファルトで飛び受け身なんてさせやがって!)
大きな怪我こそしなかったが司に投げられた結城は痛む腰をかばいながら 納得できない様子の奥村の腕を引き炎から距離をとる。
「とりあえずここからはなれるぞ」
結城の言葉に渋々従った山口が今までたっていた場所に火の手が上がる。学舎の三階の窓まで上がった火柱はしばらく燃え上がった後急速に姿を消す。そして立て続けにあちらこちらに燃え上がったかと思うとすっと収まった。
「なんやったんやろうか?」
「わかんない、でも山口もう少し離れとかへんか?」
「ああ……」
直近で炎が上がった奥村は少し冷静さを取り戻したのだろう。結城の言葉にすんなりとしたがった。
「これって……」
「たぶん司が見ていた景色だと思う」
「ここに山口が言ってた彼女がいるのか?」
「わからない」
「山口は帰ってくるのかな?」
「わからない」
「結城、わからないばかりだな」
「わからないよ、ディープホールからこっちわからないことばかりだよ、なんで俺たちばっかこんなことになるんだよ」
呻くように吐き出した結城の肩を奥村が軽くたたいた。
「もう少し距離を取ろう。そんで山口をまとう。な?」
冷静であり続けようとした結城のようすが壊れることで奥村が冷静さを取り戻した。
(そうだ、結城のほうが付き合いがながいし、押し殺してきたことも多いだろう)
「ああ」
落ち着いた奥村の声に少しだけ落ち着きを取り戻した結城が返事をして、さらに距離をとることにした。中庭が見渡せるぎりぎりの場所、そこで司を待つことにした二人がじっと中庭を見ている。まだ集落の姿は見えているが炎が上がることはなくなった。
騒ぎを聞きつけて集まった野次馬と逃げ回る学生、そして近寄らせまいとする職員で見る見るうちにごった返してきた中庭に再び何本もの火柱が吹き上がる。
「きゃーっ」
「なんや、これ」
集まった人たちから悲鳴があがり、最後には言葉さえ聞き取れない叫びが中庭を支配していた。そして炎がすべて消え三度目の炎が上がる。今度の炎は強烈な光を伴い中庭の中心に一本だけ沸き上がる。
あまりの明るさに誰もが言葉を失い目を逸らした。
「集落がなくなってる」
奥村がぽつりと漏らす。その声に促されて結城が中庭の中心に目を向けるとしっかりと抱き合う人影。
「司……そんな……静香?」
震える声で人影の名前を呼んだあと結城は駆け出した。
「静香!司‼」
そのあとの言葉が出てこない。ただただ二人の名前を呼ぶだけだった。