「兄貴、やっと来た!直人が急に暴走しちゃったんだよ!」
「どうした?」相澤慎一は低い声で尋ねた。
「私もどうしてこうなったのかが分からん。直人が目を覚ました後、ずっと誰かを探してた。『白石さんを探しているのかな?』と思って、『もう探さなくてもいいよ、きれいなおばさんはもういないよ』って言った。その言葉を言った瞬間、急に暴走しちゃって…。」
「白石さんが好きなようだけど、そんなに怒るほどではないはずなんだが…!」
しかも、直人がこんなに激しい感情の変化を見せるのは、ほとんどないことだ。
話を聞いた相澤慎一は、何も言わずに息子の元に向かって歩き出した。
小さな体が相澤慎一の接近に気づくと、すぐに後ろに縮んで警戒し、まるで父親であることをも認めないかのように防衛的な態度を見せた。
相澤慎一は息子から三歩の距離を取って立ち止まり、冷静な口調で言った。
「拓海おじさんが言った‘いない’というのは、文字通りの意味だ。彼女の体に問題はなく、退院して家に帰っただけだ。亡くなったわけじゃない、おばあちゃんのように一度逝ったら二度と帰ってこないわけじゃない。分かるか?」
多分、相澤慎一がこんなに長く言葉を続けるのは息子に対してだけだろう。
相澤拓海は驚いた顔をして言った。
「まさか!俺が‘いない’って言っただけで、こんなに色々想像しちゃったのか?」
実際、直人は白石が転倒するのを見てかなり驚いたので、感情が不安定な時に誤解しても無理はないだろう。
相澤慎一の説明を聞いた後、直人は一時的に叫ぶのをやめたが、それでも頭をうつむいて窓辺にじっとして動かなかった。
そこで相澤慎一はメモを取り出し、「彼女が君に送ったものだ、見るか?」と言った。
直人の体がぴくっと動き、次の瞬間、スイッチが入ったように顔を上げ、小さな手を伸ばして抱っこを求めた。
相澤拓海は唖然としていた。
その場にいた医師や看護師たちも驚きの表情で見守っていた。
あんなに手を焼いていたのに、相澤慎一はただの一枚の紙で解決してしまったのか!?
相澤拓海は最初、兄が白石から手紙をもらうのは無駄なことだと思っていたが、今や完全に納得していた。
相澤慎一は息子を抱いてソファに座り、メモを手渡した。
直人は待ちきれない様子でそれを受け取り、もう字を読める年齢だから自分で読むことができた。
「直人くん、私を助けてくれてありがとう、すごいね、♡」
紙に書かれた文字と、後ろに描かれたハートを見た直人の目はキラキラ輝き、顔が少し赤くなったようで、恥ずかしそうに唇を引き締めつつも、口元が自然にほころび、かわいらしい表情を見せた。
相澤拓海は驚いた表情で言った。
「え、待てよ、目がちょっとおかしかったのか?直人が笑ったの!?最後に直人が笑ったの、いつだったか覚えてないんだけど!白石さん、一体何を書いたんだ?」
相澤拓海が覗き見ようとすると、直人は手紙を大事に抱えて隠した。
でも相澤拓海の目が早くて、ちらりと見えてしまった。
内容はごく普通のメッセージだったが、直人がこんなに喜んでいるのは不思議だ。
白石さん、ただ者じゃないな。
相澤慎一は言葉を発さず、息子を見つめる。その目には優しさがにじんでいた。
その後、相澤慎一はすぐに直人を家に連れて帰り、会社の全ての予定をキャンセルして家で彼と過ごすことに決めた。
……
夜、相澤家。
広々とした客間は静まり返り、大きなテーブルの向かい側に座る父と息子、どちらの顔色も冷たく険しい。
相澤慎一:「食べなさい。」
直人は完全に無視した。
相澤慎一:「最後にもう一度言うぞ。」
直人は動こうともしない。
相澤慎一:「お前、こんな幼稚な食事拒否が俺に通じると思ってるのか?」
直人は完全に自分の世界に入り込んでおり、外界には反応を示さなかった。
父子は対峙し続けていた。
一時間後。
相澤慎一は相澤拓海に電話をかけ、「白石凛の住所を教えてくれ。」
結果として、食事拒否という手段は案外効き目があった。
相澤慎一がコートと車の鍵を取ると、直人はすぐに後を追って歩き出した。
息子を仕方なく抱き上げ、「次はなしだぞ。」