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第13話 交差点

 翌日。泙成31年4月17日。

 昨日の神藤は定時通りに帰宅でき、夜も電話に叩き起こされることなく起床までぐっすり眠ることが出来た。

 いつものように出勤すると、いつものように上島がすでに仕事をしている。その横で富士見もパソコンを開いていた。


「おはようございます」

「あ、おはよう、神藤君」

「おはようございます」


 神藤は挨拶をし、たった二つしかない事務机の一つに座る。もう一つの事務机は、富士見が資料を広げる際に使っている。

 そんな富士見だが、ソファのほうでパソコンを広げつつも事務机でも何かしらの作業をしているようだった。

 神藤はノートパソコンを開き、電源を入れる。そしてふと思った。


(今日の仕事、まだ何の指示も貰ってないや)


 神藤は富士見の方をチラリと見て、声をかけていいタイミングかどうかを伺う。

 その時、富士見がこちらを見る。


「神藤君、今日は何か作業することってあったっけ?」

「いえっ、何も……」

「じゃあちょうど良かった。ちょっとした報告書を書いてほしいんだけど、いいかな?」

「分かりました」

「それじゃあ、神無月機関が起こしたとされる田端公園での事件とコンビニでの事件、この二つの場所に関して何も関連がないよって報告書を書いてほしいんだ。書き方はそこのバインダーに入ってるヤツ参考にしてもらって、書式のテンプレートは前に教えた場所に入ってるファイルをコピーして使ってね」

「はい」


 そういって富士見は箇条書きで書かれた紙を渡してくる。


「この内容に沿った書き方をしてくれればいいから」

「了解です」


 早速神藤は仕事に入ろうとした。その時である。

 事務室の固定電話が鳴る。いつものように上島が電話に出た。


「はい、事務室です。お疲れ様です。はい、はい、はい。分かりました、すぐに向かいます」


 上島が受話器を置くのと同時に、富士見に伝える。


「原田さんから、渋谷区の交差点で人が蒸発したとのことです」

「これはまた奇怪な事件だねぇ。すぐ行こう。神藤君、もしかしたら報告書は後で書き直しになるかもしれないから、そのまま放置でいいよ」

「わ、分かりました」


 こうして三人はすぐに渋谷区まで移動する。

 北参道駅で下車し、目的地まで歩く。そこは、国立競技場にほど近い五叉路であった。


「あ、お疲れ様です」


 昨日同様、加藤と原田が現場に駆け付けていた。


「お疲れ様です。いやぁ、連日のように事件が続いて酷いですね」

「全くです。こちらへどうぞ」


 いつものように規制線の中に入り、現場を確認する。現場では、アスファルトが一度溶けてグチャグチャになっている場所が一つ。それ以外には被害者と思われる人物のミニトートバッグと手足 ・・があるだけだった。


「これは……」

「被害者は女性。身分証などはトートバッグの中に入ってました。どうやら超高温のレーザー光線を浴びたようで、残された手足の断面は焼け焦げています。遺留物とアスファルトの着弾跡から推定するに、レーザー光線はあのビルの上から照射されたものと思われます」


 そういって加藤は、居酒屋チェーン店が入っているビルの屋上を指さす。


「あのビルの屋上には入れますか?」


 富士見はビルの屋上を見ながら尋ねる。


「先ほど、ビルのオーナーが来られて、捜査に協力するとの申し出がありました」


 原田がそのように答える。


「そりゃありがたい限りだ。じゃあ行ってみよう」


 そういって五人は、ビルの屋上に行く。屋上の柵から身を乗り出せば、交差点が見えるくらいの状態だ。


「うーん、やっぱり陽の世界で霊魂が怪異を起こしたって感じかなぁ」


 現場周辺の様子を確認しながら、富士見はそのような推察をする。

 神藤は現場で何かあったのかを確認するため、例の祝詞を上げる。


「常世に住みつく流浪の御霊よ、今この声に応えたもうぞ」


 そして輪っかを作る。そこには霊魂がダメージを負った時の残滓が残されていた。


「何か血のようなものがありますね……。ちょうど富士見さんがいる辺りから北方向に向かって続いています」

「うーん。僕たちが鑑識の真似事をしても、何も分からないからねぇ。コイツの出番かな?」


 そういって富士見はスマホを取り出す。呪文を使い、過去の映像を写せる式神を召喚する。


「さて、何が映っているかなぁ?」


 直近24時間の映像を取得し、再生させる。するとそこには、見たことのある人物が映っていた。


「これって……、相田さん?」

「そうだね……。神無月機関の仕業だ」


 相田が突如として屋上に出現し、スマホを取り出す。それを頭の上に掲げると、掲げた右手に巨大で角ばった霊魂が装着される。それを地面方向に向け数秒後。光線を発射した。その反動なのか霊魂から血のようなものが吹き出し、相田は痛がる様子を見せながらその場を去っていった。


「犯人は分かった。ただ、周辺の防犯カメラを探っても、彼女を見つけることは難しいだろうね。陰の世界に入られたら、警察はおろか、僕たちも手が出せない」

「なんでこんなことを……」


 富士見は冷静に状況を分析し、神藤は相田の行動に意味を見いだせなかった。

 結局この日も、不可解な事件として処理されることになった。

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