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第14話 四つ

 泙成31年4月18日。神藤は目を覚まして買いだめしていた缶コーヒーを飲もうとしていた。その時、スマホが鳴っていることに気が付く。電話の相手は上島だ。


「はい、もしもし?」

『神藤さん、おはようございます。早朝で申し訳ないのですが、今日は事務室ではなく、港区にあるビジネスホテルに来てください』

「……もしかして、神無月機関関係の事件ですか?」

『そうです。なるべく早く来てください。では』


 そういって電話は切れる。直後にSMSで詳しい住所が送られてきた。


「はぁ……。公務員って大変だなぁ……」


 そういって神藤は缶コーヒーを開ける。


(いや、今までの仕事が暇すぎたのかもしれない)


 そんなことを思いつつ、神藤はコーヒーを流し込んだ。

 スーツに着替え、荷物を持って移動する。電車を乗り換えつつ、目的のビジネスホテルに到着した。近くには開業のために工事を進めている山手線の新しい駅、高輪ゲートウェイ駅がある。

 その北にある道路沿いのビジネスホテル、グッドボーイホテル品川芝浦に神藤は到着した。

 ホテルの入口では、何か紙を見て話し込んでいる富士見と上島がいた。


「おはようございます」

「あ、おはよう神藤君」

「おはようございます。ちゃんと来れたようで安心しました」

(嫌味か何か?)


 神藤は思わず口に出しそうになったが、すんでのところで言葉を飲み込んだ。


「神藤君にも説明するね。今回の被害者は男性。早朝4時くらいに部屋からフロントに電話があり、被害者が日本語ではない言葉を話していたことからスタッフが不審に思い、部屋を訪れたことで事件が発覚。凶器は拳銃と思われるが、被害者の体には典型的な銃創は確認出来なかったとのことだ」

「銃殺だけど、銃殺じゃない……?」

「多分そんなところ。じゃあ神藤君のためにも、一回現場を見ようか」


 富士見の提案により、神藤は現場となった部屋を見学することに。

 そしてここにも加藤と原田がいた。


「朝早くからすいません」

「いえ、大丈夫です。現場に入っても?」

「もちろん、どうぞ」


 そういって加藤は部屋の中に入れてくれる。部屋の中は荒らされた形跡はなく、どこにも異常は見当たらない。鑑識たちは床を這いつくばって、犯人と思われる足跡を探すことに集中していた。


「さて、ここにはこれ以上何もないから、事務室に戻ろう」

「え? 陰の世界を見なくていいんですか?」

「そうだね。神無月機関が起こしていた事件は、これが全てではないからね」


 神藤の頭にはクエスチョンマークがついていた。

 事務室に戻ってきた神藤は、富士見が印刷して用意したIYAHOOイヤッフーマップの地図4枚を見せられる。


「これは一連の事件があった場所の詳細な地図だ。これを見て、何か共通点があることに気が付かないかい?」

「んー……? なんでしょう?」


 地図を眺めて考える神藤。その時、ふとあることに気が付く。


「なんか、事件現場の周りに神社仏閣が多くありますね。特に八幡神社が共通しています」

「その通り! 今回の事件現場は、どこも八幡神社の近くで発生している。田端公園でも、コンビニでも、交差点でも、今朝のホテルでも」


 そういってマップに赤色で印をつける富士見。


「北田端八幡神社、筑火八幡神社、鳩山八幡神社、そして御山八幡神社。どの現場も、最寄りの八幡神社から距離300メートル以内に収まっているんだ」

「しかし、なんでこんなことを……?」

「それは今から調べるんだ」


 そういって富士見はジャケットを羽織る。


「自分たちの足で探す。僕たちに出来ることを地道にやっていこう」


 こうして神藤たちは、先に上がった八幡神社を尋ねる。境内に設置されている防犯カメラの映像を見せてもらい、神藤は陰の世界を見る力━━霊視で何が起こっていたのかを確認する。

 その結果、どの神社でも本殿に近づく人物がいて、本殿から何かしら霊的な物体を回収している様子が映っていた。

 それを確かめるべく、筑火八幡神社にて陰の世界に入り、本殿を調査した。


「これは……。本殿にて祀られている御霊の霊的力場が通常想定値より減少しています」

「一体どういうことでしょう?」


 神藤は富士見に聞く。


「神社での霊的力場の変動については、神藤君のほうがよく分かっていると思うよ」


 富士見に言われ、神藤は少し困った顔をした。そしてその質問に応える。


「……おそらく、本殿に祀られている御祭神の霊力の一部を吸い取った、ということでしょうか?」

「その通り。過去にはこういう御祭神の霊力を奪って犯罪に使う手口があってね。最近はめっきりなくなったと思ったんだけど、ここにきて神無月機関が組織的に何か準備しているんだと思うよ」

「一体何をするつもりなんでしょうか……?」

「うーん、僕がいた時には計画されてなかった何かをしているのは確実なんだけど……」


 そういって富士見は悩む。


「とにかく、今回の事件は我々の注意を反らすための偽装工作であり、本当の目的は御祭神の霊力を奪うことにあった、ということですね」

「そういうことになるね。いやぁ、面倒なことになったなぁ」


 そんなことを言いながら三人は陽の世界に戻る。戻ってきたとたん、富士見のスマホがけたたましく鳴る。


「原田君からだ。……はい富士見です」

『大変ですよ室長!』


 スピーカーモードでもないのに、原田の叫び声が聞こえてくる。


「なになに? 一体なにが起きたの?」

『雷門前で神無月機関と思われる連中が騒動を起こしているらしいんですよ!』

「えー……?」

『とにかく、今は室長の作ったデジタル結界でなんとか凌いでいるんで、急いで来てください!』


 そして一方的に切られた。


「……話聞こえてた?」

「……はい」

「じゃ、いこっか」


 こうして三人は急いで浅草へと向かうのだった。

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