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第17話 常駐

 泙成31年4月18日の夜。神藤は富士見からの電話に出ていた。


『神藤君。今日の事件を受けて、内閣府の危機管理監から神智戦略対策事務室のメンバーを常駐させる命令が下されたよ。明日から1ヶ月程度は事務室で24時間待機することになるんだ。明日出勤する時は着替えを持ってきてね。あと必要な荷物があれば多少持ってきてもいいよ。もともと事務室は公私混同しているような場所だから、私物のパソコンとか持ち込んでも平気だし』

「分かりました……」


 電話を切った後、神藤は少し不安になる。官公庁に缶詰される覚悟はしていたが、こういった緊張状態の中で缶詰されるのは想定していなかったからだ。


「大丈夫かな、俺……」


 ベッドに横になって、神藤は天井を見上げる。それでも何かしていないと落ち着かない。神藤は明日持っていく荷物をまとめるのだった。

 そして翌日の泙成31年4月19日。神藤はスーツケースに4日分の下着とワイシャツ、私服を入れて出勤した。


「おはようございます」

「あ、おはよう」


 返事をした富士見はすでにスーツではなく、紺のジャージを着ていた。


「神藤君、今日から常駐だけど、私服とか持ってきた?」

「え、はい。数着ほどですけど……」

「じゃ、大丈夫だね。一応近くにコインランドリーはあるから、2日に1回くらいは洗濯すれば問題ないと思うよ」

「はぁ……」

「後は簡易的な更衣室もあるから、着替えはそこでね。お風呂に関しても2日に1回くらいだね。我慢できる?」

「問題ないです」

「じゃ、今日から1ヶ月くらい頑張っていこう」


 富士見が盛り上げている所に、上島が入ってくる。こちらはフォーマルなレディーススーツといった感じだ。


「神藤さん、おはようございます」

「おはようございます」


 上島は挨拶をした後、そのまま自分の席に座ってパソコンをチェックする。


「室長。人員増員の件ですが、却下されたそうです」

「あちゃー、これじゃ僕たち三人で対応するしかないね。参った参った」


 タハハと富士見は笑う。しかしテレビを見ながら返した返事なので、深刻さは感じられなかった。

 とりあえず神藤はスーツケースを部屋の隅に置き、事務机の前に座る。

 それから1時間ほど経過した。すでに始業時間を過ぎ、真面目に仕事をしていた時だった。突然固定電話が鳴る。同時に富士見のスマホも鳴った。


「はい、事務室」

「もしもし富士見ですー」


 上島と富士見が同時に電話に出る。そして深刻な表情をした。


「分かりました、すぐに向かいます」

「了解しましたー。すぐ出ます」


 同時に電話を切り、内容を確認する。


「室長、坂下門で事件です」

「こっちもその話だ。神藤君、すぐに出るよ」

「は、はい!」


 そういって三人は車に乗り込み、北に走る。


「坂下門って皇居の門ですよね?」


 神藤は後部座席から、助手席に乗っている富士見に聞く。


「そう。なんでも東京駅方面からトラックが突っ込んできたらしい。今、皇宮警察が対処しているけど、状況は良くないって連絡が来たんだ」

「もしかして神無月機関が関わっているのでは……?」

「おそらくね。でも現状は分からない。そうでないことを祈るばかりだ」


 5分程度で皇居東側の道路へ到着する。すでに周辺は警察車両によって規制が行われていた。富士見は身分証を取り出し、警官に見せる。


「どうぞ」


 すんなりと中に入れてもらえた。坂下門のほうを見ると、1台の車から煙が上がっているのが見える。そしてその先にある坂下門周辺に、昨日見た紫色の結界が見えた。今回はかなり巨大で、しかも形は歪になっている。


「マズいね……。陣取り合戦のように結界が張られている。このままだと宮内庁の庁舎が攻撃されるかも」

「それって、事務室の方針としてはかなり大変では……!?」

「うん、かなりマズい。坂下門でテロが発生している上に、神無月機関が皇居に侵入しているとすると、憲政史上で初めての出来事だ」

「皇居襲撃でも十分インパクトのあるテロ事件です」


 上島が冷静に突っ込む。しかし正直それどころではない。


「とにかく犯人が神無月機関でなくても、僕たちもテロ行為を阻止するために行動するしかない」


 富士見の言う通りだ。今は、この現代日本で最悪になるかもしれないテロ事件を解決し、事態を沈静化させる必要がある。

 神藤は覚悟を決め、坂下門へと走る。

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