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第18話 テロ

 坂下門の外では、トラックが煙を吐いていた。その横で数人の皇宮護衛官が倒れている。


「大丈夫ですか!?」


 神藤が真っ先に護衛官に近づく。しかしそれを富士見が止める。


「神藤君。僕たちの仕事は警官の救護じゃなくて、神無月機関のテロ犯を止めることだよ」

「……っ!」


 神藤は事務室の方針を思い出す。皇居の絶対防衛と皇族の方々に危険が及ばないようにすること。初日に言われたことだ。

 神藤は険しい表情をするものの、すぐに切り替えて皇居の中へと走る。

 そんな皇居の中。坂下門のすぐ近くにある宮内庁の庁舎では、富士見の予感が的中していた。


「ヤハズとカタバミは向こうの制圧を。スギナとジョオンは私と一緒に上の階を制圧します」


 神無月機関の相田が、機関の下級職員と共に宮内庁庁舎の中を歩く。大体の宮内庁職員は混乱しながらも逃げており、彼女らに向かってくるのは警備員か根性のある職員だけだ。


「そこの不審者! 止まりなさい! 止まれ!」


 警備員が警棒と催涙スプレーを準備し、手の空いている職員が刺股を構える。

 しかし、そんなものは最初から見えてないかのように相田は歩く。


「クソッ!」


 警備員が催涙スプレーを噴射する。それは下級職員の顔面に吹き付けられたが、特に苦しんでいるような様子はない。


「やぁ!」


 そこに刺股を持った職員が突きを入れる。

 だが、下級職員は刺股の先端をがっちりと掴んで受け止めた。ジュラルミン製の部材がへし折れるほどの腕力だ。


「ひぃ……!」


 職員は思わず刺股から手を離してしまう。

 相田を含めた神無月機関の連中は、顔に空気清浄の結界を張り、四肢に式神を付与していた。術者に対してかなりの負担がかかるやり方だが、普段から訓練しているのか平気そうだ。

 そしてそのまま警備員や職員に接近し、胸元を掴んで壁に叩きつける。こうして職員やら警備員やらを蹂躙していき、庁舎内は倒れた人々しか残らなかった。


「こんなものですね……。ずいぶんとあっけなかったですが」


 その時、相田たちが装備していた結界がゆっくりと消滅していき、手足に纏わせていた式神が消えそうになる。


「ふむ。身体負荷が大きい上に、皇居敷地内の影響がかなり大きいですね。さすがは大日本八島国の祭祀王の居所。通常の結界も強い」


 相田は懐から札を取り出す。


「こういう儀式もデジタル化できればいいんですが、アナログに勝るものはないですね」


 札を地面に置こうとした時である。


「そこまでだ!」


 そこへ富士見、上島、神藤が到着する。すでに三人はそれぞれの武装をしており、臨戦態勢は整っていた。


「あら、富士見先生。昨日ぶりですね」

「相田君。君のやっていることは陰陽の力を抜きにしても、日本犯罪史上最悪のことだ。国の最重要施設、しかも皇居を狙ってテロをするなんて……。罰当たりもいいところだ」

「富士見先生、これは必要なことなのです。この国の国民は信仰心を失いすぎた。だから私たちで目覚めさせる必要があるのです」

「そんな必要はない。国民は十分にそれぞれの信仰心を持って生活している」

「えぇ、そうですね。個々の信仰心は十分でしょう。しかしそれが全体の調和を乱しているのです。弱りきった信仰心に乱れた調和。一体誰が修復するのでしょう?」

「それでも日本は今まで成り立ってきた。その事実に変わりない」

「これまで以上に立派な国にしてあげますよ」


 そういって相田は、持っていた札を床に叩きつけようとした。


「させない!」


 神藤は直刀を振るい、斬撃を飛ばす。その斬撃は細かく誘導されながら札へと向かっていき、そして札を真っ二つに切る。


「くっ……!」


 札を切られたことで状況が悪くなったと判断し、相田は一度その場を離れて階段を駆け上る。


「待て!」


 神藤は相田を追いかけようとするが、それを下級職員が阻む。


「どけっ……!」


 神藤は直刀を振るって応戦する。幾度となく斬りつける攻撃をするものの、武装した式神によって受け流されたり、受け止められたりする。

 神藤も攻撃のパターンを変化させつつ、斬りつけを続ける。


「神藤君! 伏せて!」


 富士見からの指示。神藤は考える間もなく、床に伏せる。その瞬間、神藤の直上をレーザー光線が走る。

 光線は下級職員二人に命中し、文字通り蒸発した。


「あの戦闘員、どうやら操られた霊魂のようですね」

「げげ、そんな高度なことも出来るのかぁ……」


 そういって富士見と上島が、神藤の元に駆け寄る。


「神藤君、大丈夫だった?」

「はい」

「僕たちも相田君の後を追おう。もしかしたら屋上に行ったかもしれない」


 そういって三人は階段を駆け上がる。


「屋上なんていけるんですか?」

「分からない。だけど、屋上に行けば逃げ道も確保できるでしょ?」

「確かに……」


 階段を登り廊下を突き進むと、屋上へと通ずる階段を見つける。すでに階段の先にある扉はこじ開けられており、相田が屋上に向かったことを意味していた。

 三人が屋上へと出ると、すでに相田は何かを床に置いて結界を展開し呪文を唱えていた。


「悪霊を祓い、今こそ元の世界に戻るべし」


 スマホから虎の式神を召喚し、相田の足元にあった結界を破壊。そのまま屋上を飛び出して、坂下門周辺を覆っていた陰の世界が流入した大規模結界を収束させる。


「これで異能は使えなくなったはずだよ、相田君」

「……そうですね。陰陽の力は使えなくなりました」


 相田は立ち上がり、右手を顔の左側に持ってくる。


「ですが、まだ悪霊は消え去っていません」


 すると、相田の右手の中に書かれていた五芒星が光り、相田の前に赤黒い瘴気が集まってくる。


「さぁ、行きなさい。生霊の怨念、奈落獄ならくごく


 やがてどす黒い人型となったそれは、ゆっくりと神藤たちに向かっていった。

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