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第20話 ニュース

 神藤たちが事務室に戻ってきて数時間。すでにテレビやネットのニュースでは皇居襲撃のニュースが速報で報じられていた。


「やっぱりおおごとになってきたなぁ」


 富士見はおやつである一口サイズの小さなバウムクーヘンを食べながら、テレビのニュース速報を眺める。

 ニュースでは今回のテロ事件の詳細を説明していた。


『今回のテロ事件の詳細が明らかになってきました。トラックを用意した犯行グループは、運転席と荷台に分乗し、東京駅の丸の内駅前広場を出発。そのまま皇居外苑の内堀通りである都道301号線から皇居前広場に侵入。ここで荷台に乗っていた犯行グループのうちの数人が降りて、トラックはそのまま坂下門に突入したと思われます。その後、坂下門を突破した犯行グループは宮内庁庁舎に侵入し、複数の宮内庁職員に怪我を負わせたとのことです』


 この辺りは、警視庁が公式に発表している内容に則しているだろう。

 スタジオでは、今回の犯行は公安にマークされている宗教団体が起こしたとか、かなり組織だったグループだったのではとか、少々見当違いな論議も交わされた。


『皇居でのテロ事件は過去幾度となく引き起こされていますが、それはどれも皇居に侵入するものではありませんでした。今回の事件は、明確に皇居の中に侵入しており、とても許されるものではありません』


 その解説を聞いた富士見は、少し驚く。


「あれ? このテロって憲政史上初のことじゃなかったっけ?」

「軽く調べると、いくつかの事件がヒットします」


 上島がパソコンを操作しながら、そのように言う。


「あれぇ、僕の記憶違いだったかなぁ」


 富士見と上島は呑気にそのような話をしている。

 一方で神藤のほうは、自分のスマホで関連ニュースを検索し、若干ヒヤヒヤしていた。今回の事件は、一般の人々には深く関係しない陰の世界に関係するものだ。もし超常現象や異能が存在することを知った時には、一般人の価値観は根本から大きく揺らぐことになるだろう。

 そのような懸念を払拭するためにも、神藤は必死になってニュースを追いかけ続けていた。


(もし何かマズいものでも発掘されたら……。巷で囁かれている都市伝説が嘘じゃないとしたら……。その時、日本中で何が起きるか分からない……。それを未然に防ぐためにも……!)


 神藤はニュースの端から端まで、SNSのコメント一つに至るまで必死に探す。その時、神藤の肩が叩かれる。そこには富士見がいた。


「神藤君。僕たちの存在が明らかになるかどうかっていうのは重要じゃない。重要なのは、日本の国体を維持することだ。そのために、皇居の絶対防衛と皇族方の身の安全を守るのが最優先だ」

「今回は皇居の絶対防衛に失敗しましたが」

「上島君、それは言わない約束だよー?」


 そういって富士見は笑っている。それは神藤からみれば、ヘラヘラしているようにも見えた。


「何が言いたいかっていうと、そこまで深刻にならなくていいってことだよ」


 富士見は神藤の背中を軽く叩くのだった。


「さて。今日の終業時間は終了だけど、昨日の夜にも話した通り、ここに常駐するため僕たちは家に帰れない。一応自由時間にするけど、勤務表上では働いていることになるから、いつでも外に出られる用意だけしててね」

「はい」


 神藤は、事務室のある庁舎の狭い更衣室で動きやすいジャージに着替える。高校生の時に使っていた体操着だ。結局これが一番気楽なのだ。

 事務室に戻ってきた神藤は、富士見からあるものを渡される。


「これ、経費で落とした寝袋ね。原則として全員床で寝ること。ソファで寝て、寝返り打った時に転げ落ちたりしたら危ないからね」

「分かりました」

「よし。じゃあゲームでもする?」


 富士見は神藤をゲームに誘う。神藤は断ろうともしたが、心のどこかにある「異能がバレるかもしれない」という感情に押しつぶされそうになっていた。それを解消するためにも、神藤は誘いに乗ることにした。


「いいですよ。何やります?」

「おっ、乗り気だね。じゃあマルオスゴロクパーティでもしようか」


 そうして神藤と富士見は数時間ほどゲームに熱中した。

 時刻は20時。そろそろゲームにも飽きた頃合いだ。


「晩御飯食べた?」

「おにぎり2個食べましたけど」

「上島君は?」

「すでにいただきました」

「じゃあ僕だけ食べてないのか。じゃあ何か適当に買ってくるから、寝ちゃっててもいいよ」


 そういって富士見は事務室を出る。神藤はその言葉に甘え、寝袋を広げて就寝の準備をする。

 説明書を見ながら格闘すること10分。なんとか寝られる準備が整った。


「では先に寝ます」

「どうぞ」


 上島に許可を貰い、神藤は寝袋に入った。今日の疲労はなかなか取れないだろうが、眠れないよりかはマシだろう。神藤はゆっくり眠りの底に落ちていった。

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