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第22話 遭遇

 泙成31年4月21日。

 神藤たちは、この日も都内の見回りに出かけていた。


「今日は新宿駅から高田馬場駅辺りを見回りしていくよー」


 富士見はいつも通りの様子で助手席に座る。上島はいつものように無言で運転し、神藤は後部座席で窓の外を眺めていた。

 新宿御苑辺りを通過した所で、都道305号線を北に走る。

 周辺には色のついた霊魂や、人くらいの大きさの霊魂がいるものの、そこまで有害なものではない。

 そんなことを思いつつ、大久保二丁目の交差点で止まった時だった。

 突如耳をつんざくような叫び声が周囲に響き渡る。車の中にいるのに、腹に響くほどの猛烈な音だ。


「な、なんだぁ!?」


 車は止まっていたため全員無事だが、本能が「ここにいてはいけない」と叫んでいる。


「一旦車から降りるよ!」


 富士見の指示で、三人とも車から降りる。そしてそのまま近くの建物の影に隠れた。

 すると、地面が揺れるような感覚がする。地震とは違った、揺れが一定間隔で発生する感じ。巨大な何かが歩いてきているような物だ。


「上島君、力場の反応は?」


 富士見が小声で聞く。


「強力な力場の変動を確認しています。この変動量は、過去に見たことないほどです」

「ずいぶんと厄介な霊魂が現れたな……」


 富士見はどのように行動するか考えている。

 すると交差点のど真ん中に、問題の霊魂が現れた。それは霊魂と言っていいのか分からないほど巨大であった。周辺のビルに匹敵するほどの巨大な人型で、神藤たちからは足の一部しか見えていない。

 その霊魂はゆっくりと地面に手をつき、神藤たちが乗っていた車の前でかがむ。そして顔面に相当する部位を車に近づけて、ジッと見つめるような動作をしていた。


(これ、このままじゃ見つかるのでは……?)


 どうやら匂いを嗅いでいるような動作をし、頭部を神藤たちのいる方へと動かしていく。そして神藤たちが隠れている建物のすぐ近くにまで接近してきた。


(マズい……!)


 三人とも絶体絶命の危機に陥る。

 その瞬間、巨大な霊魂よりも遠くのほうで霊力が変化する感覚がした。その変化の仕方は、陰の世界にいる人間のようだった。

 巨大な人型の霊魂は神藤たちの方から顔面を背け、霊力が変化した方向へと動く。


「助かった……?」


 富士見がそのように呟く。

 その瞬間、建物の奥から聞こえるはずのない声が聞こえてくる。


「まだ完全には助かっていません」


 神藤たちが振り向くと、そこには白色の狩衣を着た男性がいた。


「あ、あなたは……?」

「おいおい説明します。まずはこちらへ」


 そういって建物の壁に手をつく。するとその壁が揺らめき、一種のワームホールのような状態になった。


「さぁ、この中に飛び込んでください」

「いや、でも……」

「早く。アレに見つかってもいいのですか?」


 怪しむ富士見に対して、男性はすぐにでも入るように催促する。

 富士見は意を決して、ワームホールに突っ込んだ。上島も無言でワームホールに突っ込む。


「えっ、うぅ……。クソッ」


 神藤も覚悟を決めてワームホールに体を突っ込んだ。

 ワームホールの先は、どことも言えないような白い巨大な空間だった。全方向から柔らかい日差しが降り注ぎ、空間の中には多くの人々が行き交ったり椅子に座って本を読んでいたりしていた。


「なんだこれ……?」

「霊的力場がわずかに反転しています。通常の空間ではありません」


 富士見と上島はすでに到着しており、この不思議な空間について調べていた。

 神藤がここに到着した後、狩衣の男性もやってくる。


「ここは……?」

「我々の本部です」


 神藤の疑問に、後ろから男性の声が聞こえてくる。男性はピシッとしたスーツに身を包んでおり、シルクハットをかぶっていた。さらに手には意匠の施された杖もある。


「本部……?」

「自己紹介が遅れました。私はワタシブネという組織の長をしています、九条と申します。あなた方を助けた彼は荒木と言います」


 九条は自分のことと、神藤たちのことを助けた男性の自己紹介をする。


「これはご丁寧にどうも。我々は警視庁の捜査員です」


 富士見はナチュラルに嘘を吐く。


「それは違いますね。あなた方は大日本八島国の内閣府直属の組織、神智戦略対策事務室の事務員兼実働部隊の富士見玄さん、上島優さん、そして今月配属された神藤道也さんでしょう?」


 神藤たちの身元が完全にバレている。そのことを感じ取った富士見は、上島と神藤の前に出る。


「何故我々のことを知っているのです? このことは政府の特定秘密保護法によって隠匿されてるはずです」

「それは当然です。あなた方が所属している事務室は、我々の組織から切り離して内閣府に作った、いわば我々の組織の子会社みたいなものなのですから」


 聞いたことのない新事実が発覚した。

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