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第24話 悪霊

 泙成31年4月22日。改元の時は刻一刻と迫ってきている。

 そんな中、神藤たちは事務室でのんびりとしていた。


「今日は穏やかだねぇ」


 富士見はコーヒーを飲みながら、昼前のテレビをのほほんと見ている。

 上島は相変わらず事務仕事をこなしているようで、パソコンとにらめっこ中だ。

 一方神藤は、ぶっちゃけすることがなくて暇を持て余している。時折飛んでくるメールを見ても、富士見や上島向けの業務連絡の場合が多く、神藤はCCで共有されているだけである。

 そのため神藤は、以前富士見から受けた助言を実行している。つまり、富士見と同じくリラックスするために遊ぶというものである。本来の社会人なら禁忌に値するレベルの勤務態度であるが、今はそうとも言ってられないのである。神藤は罪悪感を感じながら、スマホでSNSを巡回するのだった。

 そんな中、SNSのニュースアカウントが色々なニュースを配信する。


『日本全国で奇妙な事件が多発?』

『奇怪な現象が都内中心に6件も発生』

『心霊現象が増えた要因とは?』


 数ヶ月前ならオカルトや都市伝説で語られていたであろうニュースが、堂々と全国紙規模のネットニュースとして出回っている。


(俺たちの仕事の結果が、こういう結果として出回っているのか……。なんだか複雑な気分だ……)


 特に仕事に失敗したわけではない。しかし結果としてだんだんと悪い方向に事が進んでしまっている。それは神藤に危機感を感じさせるのだった。

 時刻は正午に差し掛かろうとしていた。神藤が昼食の準備━━といっても惣菜パンだが━━をしていると、富士見のスマホが鳴る。


「はい、富士見です」

『室長! 大変です!』

「おぉ、原田君、どうしたの?」

『また神無月機関と思われる連中が騒動を起こそうとしています!』

「またかぁ。今度はどこ?」

『有明の国際展示場近くの広場です!』

「分かった、すぐに行くよ」


 そういって富士見は通話を切る。すでに上島はワタシブネからの助っ人に連絡をしていた。


「助っ人もタクシーですぐに向かうそうです」

「よし。僕たちもすぐに出よう。上島君、いつものように運転頼むよ」

「はい」


 こうして神藤たちはすぐに車に乗り込み、目的地へと向かう。

 30分もすれば、オタクの聖地である国際展示場の最寄り駅へと到着する。車を駅前に放置して、有明駅そばの多目的広場へと走る。

 するとそこでは、10人ほどの神無月機関の職員が天に向かって手を伸ばしていた。地面には霊魂と同じような物質で出来た線が引かれ、巨大な魔法陣を形成している。問題なのは、ここが陽の世界にも関わらず、陰の世界と同じようなことが出来ていることだ。


「これは……!」

「この陣は、悪霊召喚用の物ですね」


 そこにワタシブネからの助っ人、根本と柴崎が合流する。


「あの陣の形状から察するに、陰と陽の世界を繋ぐ特殊な魔法陣と思われます。このまま放置すれば、二つの世界の対称性が破れ、最悪世界の崩壊を招くことになるでしょう」

「それは厄介だ。ならこれを使うほかないね」


 そういって富士見はタブレットを取り出し、いつもとは異なる五芒星を表示させる。

 そして空中で五芒星を描きながら、ブツブツと呪文を唱えた。

 すると、周囲に結界が展開される。かなり大規模な結界のようで、富士見の額には汗が滲んでいる。

 結界が張られたことを感知したのか、神無月機関の職員が神藤たちのほうを見る。その中には相田の姿もあった。


「富士見先生、またお会いできて嬉しいです」

「こっちはあまり嬉しくないんだよなぁ」

「そんなことを言っていると、素敵な女性を取り逃がしますよ」

「僕に結婚はまだ早いからね」


 そういって富士見はスマホを取り出し、五芒星を表示、式神を日本刀に変化させる。


「陽の世界で悪霊を解き放つとは……。10年前に教えたことを覚えてないのかい?」

「歴史の教科書が書き変わるように、それが間違いであったことに気づいただけです」

「機関で教えたことは、未来永劫変わることはないよ」


 そんな話をしている間に、神藤は直刀を召喚、上島も十字架とタブレットを用意する。助っ人の根本と柴崎も準備を整えた。


「いえ。永遠が存在しないのと同じように、変化しない事実など存在しません。色即是空空即是色という言葉の通りです」

「なるほどね。僕が去った後も、色々と勉強したようじゃないか。でも、勉強したことを実践で活かすのは難しい」

「はい。だからこうして実践しているわけです」

「もう少し平穏な実践をしてほしかったな。今の君は、中学校の理科の実験で核融合をやっているようなものだよ」

「いつまでも虫眼鏡で発火実験をしているわけにも行きませんからね」


 売り言葉に買い言葉の如く、皮肉の応酬が続く。その間にも、巨大な魔法陣からは悪霊が出現し続け、その数は100近くにもなっていた。


「これだけの悪霊がいれば、ここ一帯は人が近寄れない状態になるでしょう。富士見先生、私の実力を受け取ってください」


 そういって相田は悪霊を操り、神藤たちのほうへと襲い掛からせる。

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