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第25話 集団

 宙を舞う悪霊が一斉に神藤たちに襲い掛かる。


「せいっ!」


 富士見は襲い掛かる悪霊を1体ずつ丁寧に斬る。あっという間に囲まれてしまうが、それをワタシブネの根本と柴崎が一緒になって対処する。

 上島は十字架を拳銃のように使い、どんどん悪霊を撃ち落としていく。

 神藤は直刀に霊魂退散用の祝詞を付与し、どんどん斬っていく。富士見よりもアクロバティックに悪霊を斬っていくことで、どんどん悪霊を昇天させていった。

 だが、一発で悪霊を撃退することは出来ないようで、ほとんどの悪霊はダメージを負った状態で再び神藤たちに襲い掛かっていた。


「これはキリがないねぇ……!」

「相当怨念が強い悪霊のようです」

「これ、倒しきれるんですか……!?」

「倒しきる以外にも道はあります」


 神藤の疑問に、柴崎が答える。


「神無月機関が使用した魔法陣を破壊できれば、陰の世界と繋がった悪霊は供給源を断たれて消滅するはずです」

「なら自分が行きます!」


 そういって神藤が、相田のいる魔法陣のほうに走ろうとする。しかし悪霊が神藤の行く手を阻む。


「どちらにせよ、この悪霊の数を減らさなければ、魔法陣を破壊するのは困難です」

「面倒だな……!」


 神藤は悪霊を斬りつつ、少しずつ前進する。しかし前進すればするほど、富士見たちから離れることになるため、神藤は悪霊の取り囲まれることになる。


「神藤君、離れるのは危険だ!」

「ちっ……!」


 神藤は直刀を頭上に掲げ、祝詞を上げる。


「この地に残る霊魂よ、今こそ御霊は根の国向かえ!」


 直刀の先から衝撃波のようなものが発せられる。衝撃波に触れた悪霊は麻痺したように動きが鈍くなる。

 その間に神藤は、悪霊を斬りつつ勢いよく前進する。相田のいる魔法陣との距離が近づいてくる。

 だが、そこに立ちはだかる者がいた。相田と共に魔法陣で悪霊召喚の儀をしていた職員である。よく見ると、彼らは宮内庁でも見た操られた霊魂であった。

 下級職員は操られているとは思えないほどの身のこなしで、神藤に攻撃を加える。


「ちぃ……!」


 神藤は少しずつ後退しながら下級職員の猛攻を防ぐ。しかし下がれば下がるほど悪霊からの攻撃も飛んでくる。


(マズい……、このままじゃ悪霊の攻撃に曝される……!)


 神藤の攻撃手段というのは、直接攻撃と浄化攻撃の2種類に大別され、そこからさらに細かく分類される。しかし防御手段はほとんど存在しないと言っても過言ではない。悪霊からの攻撃は想定されていないというのが実情だ。

 つまり今の神藤には、悪霊の攻撃を防ぐ手段はそんなにないということである。


(だが……!)


 神藤は体を捻り、直刀を大きく振り回す。

 すると直刀から斬撃が飛び、周辺にいた数体の悪霊に命中する。命中した悪霊はそのまま浄化された。


「フッ! フッ! フッ!」


 神藤は連続して斬撃を浴びせる。これにより、下級職員と悪霊を遠ざけることに成功した。

 その間に、富士見たちが神藤と合流する。


「神藤君、一人で無茶して突っ込んじゃ駄目だよ」

「すみません……」

「でも悪霊の数もだいぶ減ってきたね。今なら突撃しても問題ないよ」


 そういって富士見は一歩前に出る。


「上島君、一発かましちゃって!」

「はい。アダラエムによる福音書16章24節」


 タブレットが音声読み上げをする。


『父は、「私のために父、母、兄弟、姉妹、家、畑を捨てた者は、永遠の炎で焼かれることになるだろう」とおっしゃられた』


 十字架を掲げると、その中心から獄炎が噴きだす。火炎放射のように噴きだす獄炎は、宙を舞う悪霊に向かって襲い掛かる。

 悪霊が獄炎に包まれると、まるで熱せられた水のように蒸発していく。十数体ほどを一斉に排除することに成功した。


「ふん、ここまでは想定の範囲内です。ですが、ここからはそうは行きませんよ」


 そういって相田は手元のスマホを操作する。

 すると、そこから赤黒い霊魂が出現した。


「さぁ、行きなさい。貴様のあざなは憤怒怒号の壊界鬼かいかいき


 かろうじて人の形を保っているような、まるで鬼のような見た目の霊魂。壊界鬼は怒り狂った調子で神藤たちに向かって雄叫びを上げる。

 その雄叫びとも威嚇とも取れる声は、一瞬にして神藤たちの周りにいた悪霊を蒸発させる。


「これはまた大変なヤツが出てきたね……」

「以前複数の八幡神社から盗まれた御祭神の霊力を、あの壊界鬼から検出しました。おそらく、浅草で発生した無人魂と同等の存在です」

「それじゃあ、前回のように浄化すれば問題ないですね?」


 神藤の言葉に、富士見は少し躊躇いのようなものが見えた。


「いや、今回は状況が少し違う。何より、相手がデカい」


 根本が答える。

 そう、前回の無人魂は神藤たちと同じくらいの大きさだった。だが今回は全高5メートルを優に超えている。前回と同様の手が通用するとは限らない。


「それでも僕たちがやらないといけないよね……!」


 そういって富士見は、式神を日本刀からボクシンググローブに変化させる。


「行くよ……!」


 神藤たちは改めて体勢を整える。

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