宙を舞う悪霊が一斉に神藤たちに襲い掛かる。
「せいっ!」
富士見は襲い掛かる悪霊を1体ずつ丁寧に斬る。あっという間に囲まれてしまうが、それをワタシブネの根本と柴崎が一緒になって対処する。
上島は十字架を拳銃のように使い、どんどん悪霊を撃ち落としていく。
神藤は直刀に霊魂退散用の祝詞を付与し、どんどん斬っていく。富士見よりもアクロバティックに悪霊を斬っていくことで、どんどん悪霊を昇天させていった。
だが、一発で悪霊を撃退することは出来ないようで、ほとんどの悪霊はダメージを負った状態で再び神藤たちに襲い掛かっていた。
「これはキリがないねぇ……!」
「相当怨念が強い悪霊のようです」
「これ、倒しきれるんですか……!?」
「倒しきる以外にも道はあります」
神藤の疑問に、柴崎が答える。
「神無月機関が使用した魔法陣を破壊できれば、陰の世界と繋がった悪霊は供給源を断たれて消滅するはずです」
「なら自分が行きます!」
そういって神藤が、相田のいる魔法陣のほうに走ろうとする。しかし悪霊が神藤の行く手を阻む。
「どちらにせよ、この悪霊の数を減らさなければ、魔法陣を破壊するのは困難です」
「面倒だな……!」
神藤は悪霊を斬りつつ、少しずつ前進する。しかし前進すればするほど、富士見たちから離れることになるため、神藤は悪霊の取り囲まれることになる。
「神藤君、離れるのは危険だ!」
「ちっ……!」
神藤は直刀を頭上に掲げ、祝詞を上げる。
「この地に残る霊魂よ、今こそ御霊は根の国向かえ!」
直刀の先から衝撃波のようなものが発せられる。衝撃波に触れた悪霊は麻痺したように動きが鈍くなる。
その間に神藤は、悪霊を斬りつつ勢いよく前進する。相田のいる魔法陣との距離が近づいてくる。
だが、そこに立ちはだかる者がいた。相田と共に魔法陣で悪霊召喚の儀をしていた職員である。よく見ると、彼らは宮内庁でも見た操られた霊魂であった。
下級職員は操られているとは思えないほどの身のこなしで、神藤に攻撃を加える。
「ちぃ……!」
神藤は少しずつ後退しながら下級職員の猛攻を防ぐ。しかし下がれば下がるほど悪霊からの攻撃も飛んでくる。
(マズい……、このままじゃ悪霊の攻撃に曝される……!)
神藤の攻撃手段というのは、直接攻撃と浄化攻撃の2種類に大別され、そこからさらに細かく分類される。しかし防御手段はほとんど存在しないと言っても過言ではない。悪霊からの攻撃は想定されていないというのが実情だ。
つまり今の神藤には、悪霊の攻撃を防ぐ手段はそんなにないということである。
(だが……!)
神藤は体を捻り、直刀を大きく振り回す。
すると直刀から斬撃が飛び、周辺にいた数体の悪霊に命中する。命中した悪霊はそのまま浄化された。
「フッ! フッ! フッ!」
神藤は連続して斬撃を浴びせる。これにより、下級職員と悪霊を遠ざけることに成功した。
その間に、富士見たちが神藤と合流する。
「神藤君、一人で無茶して突っ込んじゃ駄目だよ」
「すみません……」
「でも悪霊の数もだいぶ減ってきたね。今なら突撃しても問題ないよ」
そういって富士見は一歩前に出る。
「上島君、一発かましちゃって!」
「はい。アダラエムによる福音書16章24節」
タブレットが音声読み上げをする。
『父は、「私のために父、母、兄弟、姉妹、家、畑を捨てた者は、永遠の炎で焼かれることになるだろう」とおっしゃられた』
十字架を掲げると、その中心から獄炎が噴きだす。火炎放射のように噴きだす獄炎は、宙を舞う悪霊に向かって襲い掛かる。
悪霊が獄炎に包まれると、まるで熱せられた水のように蒸発していく。十数体ほどを一斉に排除することに成功した。
「ふん、ここまでは想定の範囲内です。ですが、ここからはそうは行きませんよ」
そういって相田は手元のスマホを操作する。
すると、そこから赤黒い霊魂が出現した。
「さぁ、行きなさい。貴様の
かろうじて人の形を保っているような、まるで鬼のような見た目の霊魂。壊界鬼は怒り狂った調子で神藤たちに向かって雄叫びを上げる。
その雄叫びとも威嚇とも取れる声は、一瞬にして神藤たちの周りにいた悪霊を蒸発させる。
「これはまた大変なヤツが出てきたね……」
「以前複数の八幡神社から盗まれた御祭神の霊力を、あの壊界鬼から検出しました。おそらく、浅草で発生した無人魂と同等の存在です」
「それじゃあ、前回のように浄化すれば問題ないですね?」
神藤の言葉に、富士見は少し躊躇いのようなものが見えた。
「いや、今回は状況が少し違う。何より、相手がデカい」
根本が答える。
そう、前回の無人魂は神藤たちと同じくらいの大きさだった。だが今回は全高5メートルを優に超えている。前回と同様の手が通用するとは限らない。
「それでも僕たちがやらないといけないよね……!」
そういって富士見は、式神を日本刀からボクシンググローブに変化させる。
「行くよ……!」
神藤たちは改めて体勢を整える。