神藤たちはそれぞれ攻撃体勢を整える。一度上がっていた雨が再びポツリポツリと降り始める。
「セイッ!」
先に動いたのは富士見だった。式神を日本刀に変化させて、勢いよく斬りつける。その攻撃を相田は腕の動きだけで受け流した。
「クッ……!」
富士見は連続して斬りつけるものの、相田はいとも簡単に攻撃を受け流し続ける。
『富士見先生、そんな攻撃で大丈夫なんですかァ……!?』
相田は富士見に対して煽る。だが、その程度の挑発には乗らない。富士見は冷静に、かつ的確に相田が武装している装甲の弱点を探る。
(式神として使役しているなら、使役者の意識が及ばない場所が存在するはず……。その場所を攻撃すれば、あるいは……)
そういう考えを持って富士見は刀を振り続ける。
しかし、そうは長く持たなかった。
『富士見先生が攻撃しないなら、こっちからいきますよ……!』
そういって相田は刀を直接掴み、空いている手で富士見の腹をぶん殴る。
「ヴッ……!」
富士見は苦悶の表情を浮かべる。直後、力が抜けたところを相田に追撃され、吹っ飛ばされた。
『さぁ、次はお前らだ』
そういって相田が後ろにいた神藤たちの方を見る。しかしそこにいたのは上島一人であった。
それを認識した時には、神藤はすでに相田の背後へと回っていた。直刀を振りかざし、背中の装甲にめがけて振り下ろす。
「ハァッ!」
神藤の直刀は当然の如く装甲に阻まれ、ダメージを与えている様子はない。
しかしそんなことは予測出来ている。神藤はすぐさま相田から距離を取った。
『この……ッ!』
相田は振り向きざまに神藤のことを狙うが、すでに距離が離れている。しかも相田の視界には神藤の姿がない。
『どこ行った……!?』
すると、またもや相田の背後に神藤の直刀が入る。これも大したダメージは入らない。
そのような感じで、相田が振り向く度に神藤が背後に回って直刀を振るうということを、複数回繰り返す。
『鬱陶しい……!』
それでも相田は、神藤の攻撃パターンが分かってくるようになっていた。
(ずっと背後を狙う攻撃……。私が振り向いた瞬間に背中を攻撃している。ならば……!)
相田は一瞬だけ神藤のいるであろう方向に体を振る。神藤はそれを見て背後に移動する。
『ここっ……!』
次の瞬間、全力で足を返して、相田は神藤を目の前に捉える。体を回転させた勢いのまま、相田は拳を振るう。
『食らえ━━!』
左の拳を構え、神藤に狙いを定めた瞬間である。両足の膝裏がドッと熱くなるのを感じた。そのコンマ数秒後には鈍い痛みも走る。足に力を入れるのが困難になり、そのまま地面に崩れ落ちる。
相田の視界の端には、富士見が日本刀を振るった姿が見えた。刀の刃先には血のようなものが付着している。
(斬られたのか……!? ほんの一瞬の隙で……!?)
相田は一瞬で状況を理解するものの、完全に防御が出来ない状態になっていた。そこに神藤の直刀が入る。
胸部にある式神装甲に直刀の刃が食い込む。しかしそれでも完全に式神装甲を破壊するには至らなかった。
そして相田は、神藤が上に乗っかるような形で背中から地面に落ちる。
『グッ……!』
気が付けば、神藤の右足は相田の腹部あたりを踏みつけていた。直刀の切先を下にして、相田に突き刺そうと言わんばかりに直刀を持ち上げている。
(こ、こんなところでやられるわけには……!)
相田は腕を動かし、自分のことを踏みつけている神藤の足首を掴む。それに驚いたようで、神藤は視線を自分の足元に移した。
『ふんっ!』
そのまま足首を横に動かす。それにより神藤の体はグルッと動き、地面を転げた。
相田はなんとか立とうとするも、膝裏の関節を斬られてしまっているため、力が入らない。
だがそれでも。
『私の願いを達成するには……! このくらいの障壁など……!』
すると両ひざの裏に、式神武装した時の歪な五芒星が空中に浮かぶ。そしてギャリギャリと嫌な音を立てながら、膝裏に薄い装甲を新たに生み出していく。
「一体何が……?」
富士見と神藤、上島は固唾を呑んで様子を伺う。やがて相田はゆっくりと起き上がった。
『まだ、戦える……!』
「おいおいおい……、両ひざとも斬ったはずだぞ……?」
富士見は目を見開いて、わずかに後ずさりする。
『富士見センセェ……、ここからが本番ですからァ……』
まるで死にぞこないの戦士のような声を出す相田。
「クッ……!」
そう言っていると、さらに相田の体に歪な五芒星が複数出現する。それは両脇、股、両足の踵に出現した。そして先ほどと同じように嫌な音を立てて装甲が追加で生成される。
『今度こそ全身を装甲で固めましたから、どんなに攻撃したところでダメージは入りませんよォ……』
「バーサーカーかよ……!」
神藤が思わず言葉を漏らす。そう、今の彼女は神藤たちを倒すことしか考えていない暴走列車なのだ。