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第37話 魔法陣

 富士見は相田に手を合わせ、今生の別れをした。


「……申し訳ないね。僕の私情に付き合わせちゃって」

「いえ。富士見さんの気持ちが晴れたら、それで大丈夫です」


 そんなことを言っていると、神藤たちの元に根本と柴崎が合流した。


「遅くなって申し訳ありません」

「途中で渋滞にハマってしまいました」

「うん、仕方ないよ。こんな時だからね」


 富士見が言葉を返すと、青島霊園の中心を見る。そこには巨大な龍が、地面からゆっくりと召喚されている。


「さて、あの龍をなんとかしないとね」

「現在、霊的力場の変動が極端に大きくなっています。このままでは限界値を振り切り、陰と陽の世界が融合する現象が起こる恐れがあります」


 上島がタブレットで状況を確認する。


「少しだけ見えてるけど、青島霊園の中心にある交差点で召喚の儀式をしているね。このまま放置していると、あそこで特異点が発生して大変なことになる」


 富士見は儀式の行われている交差点へと歩く。


「ここからでも浄化攻撃をすれば、召喚の儀式を邪魔できるのでは?」


 神藤は富士見の横を歩き、意見を提案する。


「いや。無闇に攻撃をすれば状況がひっちゃかめっちゃかになり、二つの世界の融合より酷いことが起きる可能性がある。ここは慎重に事を運ぶ必要があるよ」

「じゃあどうすれば……」

「そうだね……。方法がないわけではないけど……」


 そういって富士見は神藤たちに作戦を伝える。


「━━これでどう?」

「どうって……、出来るんでしょうか……?」


 神藤は少し困惑した様子で言う。


「まぁ、実際にやってみないことには分からない。でもやり遂げないと、皇居はもちろん、陽の世界も破滅する可能性があるからね」


 そういって富士見は式神を召喚するため、スマホを取り出す。


「ここからが正念場だよ」


 一方で、神無月機関の下級職員が龍の召喚陣を囲んで呪文を唱えていた。それに伴い、龍はゆっくりとだが現世に姿を現している。すでに体の半分ほどは出ているだろう。

 そんな下級職員の元に富士見たちが走ってくる。邪魔者の気配を察知した警戒中の神無月機関の下級職員たちによって、富士見たちの進路は防がれる。


「我が式神よ、我の声に応え、力を顕現せよ!」


 富士見は日本刀を召喚し、下級職員との距離を詰める。そのまま職員との鍔迫り合いが始まった。


「せぇい!」


 それに混ざるように、神藤、根本、柴崎も下級職員に接近して、それぞれ戦闘を行う。

 上島は特殊な攻撃の特性により、一人離れて攻撃を行っていた。4人が戦いやすくなるように、遠距離から支援攻撃をしている。

 富士見が下級職員を倒すと、そのまま地面に日本刀を突き刺す。すると、地面に突き刺さった箇所から光のような線が伸び、アスファルト上に図形を描いていく。

 数分もすれば神藤たちも下級職員を倒すことが出来た。ちょうどタイミングよく、富士見が魔法陣を書き終える。


「よし、次だ」


 富士見たちは龍の召喚陣に対して、半時計回りに移動する。少し移動した所で同じように日本刀を地面に突き刺し、魔法陣を書き込んでいく。

 しかし、当然ながらそれを許さない存在がいる。神無月機関である。

 複数の下級職員がこちらのことに気が付き、続々と接近してきた。


「こいつら一体何人いるんですか!?」

「彼らもまた人間に使役されている霊魂の一種。使役主しえきぬしとの使役関係を断ち切らないことには無限に続くだろうね」


 神藤の言葉に、富士見が答える。神藤は思わず嫌な顔をした。


「とにかく、このまま前進するよ!」


 富士見は2個目の魔法陣を書き終え、下級職員と相対する。

 神藤たちはいとも簡単に下級職員を蹴散らし、3個目、4個目の魔法陣を書いていく。


「あと3個書くよ! もう少しだ!」


 相している間にも、召喚陣を囲んでいる下級職員はブツブツと呪文を唱え続けている。


「すぐ目の前に敵がいるのに、それらを倒せないのはかなり歯がゆい……」

「神藤君の気持ちも分かる。でも、ここで道を外れたら全てが終わりになるよ。もうちょっとだけ我慢してね」


 富士見が魔法陣を書きながら、そのように神藤を諭す。


「もちろんそんなことは分かっています。ちゃんと我慢してますよ」

「それならいいさ」


 そういって5個目の魔法陣も書き終わる。

 すると、魔法陣を書き込む場所に先回りしていた根本と柴崎が戻ってくる。


「すでに敵は見当たりません。このままゴリ押せば行けます」

「ありがとう、根本君。それじゃあ後2個、書きに行こうか」


 そういって残りの魔法陣も書き終える。


「7つの魔法陣による、魔法陣妨害用魔法陣の完成だ」


 先ほど富士見が神藤たちに話した作戦は、この魔法陣を完成させることだった。


「しかし、なんで7つの魔法陣なんですか?」

「いい質問だね。七芒星というものがあるのは知ってる?」

「はい、もちろん」

「七芒星というのは円を7等分した頂点を結んでできる図形だ。でも円を完全に7等分することは出来ない。360°を7で割っても割り切れないからね。でも図形として成立する。故に不可能を可能にする図形と言われているんだ。今回はそこからさらに派生して、逆転作用を持つ魔法陣として構築したんだ」


 そういって富士見は、いつも陰の世界に行くときに使用しているタブレットを取り出す。


「これを使えば、龍の召喚を止められるはず……」


 そういって富士見は、逆転魔法陣の起動ボタンを押した。

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