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第38話 上級

 逆転魔法陣を起動させると、召喚陣の周りに書いた7つの魔法陣妨害用魔法陣が光り輝く。それらが光の線によって七芒星の形に形作られていった。

 そして七芒星が完成すると、召喚陣と共に青色へと光り、やがて光が消えてただの線と鳴る。

 それに伴い、龍の体は現在出現しているところまでで断ち切られ、不完全な状態で空中に放出される。腹に響くような野太い鳴き声が周囲に響くが、それを感知出来るのは異能を持っている神藤たちだけである。


「よし、成功したね。上島君、反応はどう?」

「召喚陣周辺の霊的力場は急速に数値を減少させています。龍が存在するので正常な数値には戻りませんが、先ほどよりはマシです」

「なら大丈夫そうだね。龍も不完全な状態だし、このままにしておけば陽の世界に希釈されるはずだよ」


 富士見と上島がそのような話をしていると、先ほどまで龍を召喚していた神無月機関の職員が一斉にこちらを見る。どうやら召喚陣を護衛していた下級職員とは、異能の気配が異なる。


「この感じ、なかなか手強そうですね」


 根本が戦闘の準備をしながら、そのように言う。神藤も直刀を構える。


「こっちの方が強そうだね。さしずめ神無月機関の上級職員って言ったところか」


 富士見もタブレットを仕舞い、戦闘準備を整える。

 すると、上級職員の一人が呟く。


「全ての母たる蛇龍の召喚を阻止するとは何事か……。貴様らを敵とする……」


 そういって上級職員は、霊魂の一部を使ってダガーナイフのような物を召喚する。


「これは厄介なことになりそうだ」


 富士見は式神を日本刀に変化させ、上級職員と相対する。

 上級職員はダガーナイフを逆手に持ち、一斉に襲い掛かってきた。

 上島が十字架を掲げ、言葉を発する。


「ローダ記1章14節」

『あなたが死んだ場所で私も死に、共に葬られる覚悟があります。もし生き別れるようなことがあれば、父の言葉により私は罰せられることでしょう』


 十字架から弾幕のように光線が乱射される。上級職員はそれをダガーナイフで防御したり、身のこなしで回避する。

 そこに合わせるように、神藤、富士見、根本、柴崎が攻撃をするために突撃していく。


「せいっ!」


 神藤は直刀を突き出す。しかし、あまりにも愚直すぎる攻撃であったため、簡単に回避される。

 だがそこで待っていたのは、富士見による日本刀での攻撃だ。地面を削りながらの攻撃は、上級職員の肩に命中する。

 そのまま神藤と富士見が交互に斬撃を繰り出していく攻撃が始まる。神藤が前に出て斬り込めば、富士見が神藤の脇から刀で突き刺す。富士見が横に薙げば、その上から神藤が縦に斬り込む。

 一人では困難なレベルの攻撃を、二人で分担して攻撃していく。その手数でどんどん上級職員を追い込んでいく。

 上級職員は次第に傷を負っていき、最終的には神藤による心臓の突き刺しによって絶命した。

 その一方で、根本と柴崎も協力して上級職員を相手にする。


三木司華理みきしかり

呉奴裳怒頭ごどもどず


 呪文を唱え、上級職員を派手に吹き飛ばしていく。そして吹き飛ばされた上級職員に対して、上島が次々と光線を浴びせていった。


「師は父と同義である」


 単発の短い光線が一発ずつ発射され、上級職員を攻撃していく。

 複数人による波及攻撃は功を奏し、ずいぶんとあっさり上級職員を倒すことに成功した。

 上級職員はその場に倒れるものの、神藤は血の一滴も流れていないことに気が付く。


「出血の痕がない……。この職員たちも霊魂なのか?」

「いや、その可能性は低い。僕の直感では彼らも人間のはずだ」

「じゃあなんで……」


 そこに上島がタブレットを操作しながらやってくる。


「おそらくゾンビの一種なのでしょう。彼らの体から微量ながらも陰の世界の瘴気が発生しています」

「そうなると……。ちょいと失礼」


 富士見は上級職員のうちの一人の体を触診する。胸ポケットに触ると、何かあったような顔をする。

 スーツの内ポケットから取り出したのは、極薄のスマホであった。そこには背景が赤色になっている歪な漢字のようなものが表示されている。


「うん、これは死体だね。彼らはゾンビかキョンシーになってて、命令を遂行していただけだよ」

「そうなんですね……。でも倒したから霊魂として消えるはずですよね?」

「それはこのスマホが関係している。このスマホに表示されているお札との接続を切らない限りは、いずれ復活して活動を再開するはずだよ」

(ワイヤレスイヤホンか何かか……?)


 神藤はそのように考えるものの、なんとなく理解した。


「さて、これの切断方法はっと……」


 そういって富士見がスマホの画面に触れようとした時だった。


『そこまでだ』


 本能が危険と判断するような低い声。それを聞いた富士見はスマホを投げ捨てて、その場から離れる。

 スマホが地面に落ちる前に、巨大な手がスマホをキャッチする。


『やはり上級とはいえ、命の残骸だな。なんと弱い存在か……』


 彼は巨大だった。身長は2メートルを超えるほどの巨体で、ガタイもかなりガッシリしている。


「……あんた、まさか大石か?」


 富士見は臨戦態勢を取りつつ、質問をぶつける。


『そうだ。久しぶりだな、富士見』


 何かの因縁がぶつかり合う。

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