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第39話 再度

 富士見に大石と呼ばれた男性は、周辺を見ながら溜息を吐く。


『なんだ、上級職員まで蹴散らされたのか』

「申し訳ないけど、僕たちの手で倒させてもらったよ」

『しかし、まだ接続が切れてないようだな』


 そういって極薄スマホを操作する大石。

 その間に、神藤は富士見に声をかける。


「富士見さん、あの人誰なんですか?」

「僕が神無月機関にいた時の指南役だよ。その時から神無月機関を牛耳っていたから、今は組織長のような存在だと思う」

「実質ラスボスってことですか」

「そういう認識で問題ないよ」


 そんな話をしていると、大石は極薄スマホから目を離してこちらを見る。


『国家公務員となった今はかなり贅沢な生活でもしていると思ったが、案外そうでもないようだな』

「そうだね。正義の味方は見返りを求めないのが一般的だからね」

『正義のヒーローのつもりか。いつまでその威勢が続くかね?』


 大石は自分の懐からスマホを取り出し、何か操作する。すると、その辺に倒れていた上級職員の体がギギギと音を立てながら起き上がる。


『上級職員を再起動させてもらった。これでこいつらはまだ戦える』

「マジでキョンシーじゃん……」


 神藤は直刀を構え直しながら、上級職員と相対する。

 そのような状態の中、富士見は大石の前に立つ。


「大石、もうこのようなことは止めよう。すでに皇居でのテロ事件で公安にも目をつけられている。もう昔のようにはいかないんだ」

『お前に俺の何が分かる? 昔のようにはいかない? だったら昔と同じようにさせてやる』

「もう何もかも無駄に終わる。僕たちだって心穏やかに新しい時代を迎えたいんだ」

『神無月機関に終わりなどない。56億7千万年後の途方もない未来まで生きながらえるのだ』


 そういって大石は纏っていた外套を勢いよく脱ぐ。外套の下は素肌であり、胸部には円を基調とした刺青が施されていた。


「アレは……なんだ?」


 その刺青をよく見ようとした神藤の横で、富士見と根本、柴崎が驚いている。


「それは……! 弥勒菩薩の浄土成就西方変相曼荼羅じょうどじょうじゅせいほうへんそうまんだら……! なぜそれを体に……!」

『これを体に刻んだら、永遠の命を得られる代わりに最大の絶望を味わうのだろう? そんなもの迷信に決まっている。逆に俺が弥勒様としてこの世に権現してやろう』


 そういって大石は、スマホを胸部の刺青に当てる。すると刺青が紺色に怪しく光り輝き、やがて大石の様子をおかしくさせる。


「来るよ! 構えて!」


 富士見が警告する。すると先ほどまでグラグラと動いていた上級職員が一斉に襲い掛かってきた。


「くっ……!」


 神藤は一人の上級職員に噛みつかれそうになったものの、直刀でなんとかガードする。しかし、先ほどよりもパワーもスピードも段違いに向上している。


「なんなんですか、こいつら!」

「おそらく大石の曼荼羅に影響を受けている! 大石自体を排除しないと、上級職員はどんどん狂暴化するよ!」


 そういって富士見は刀を振るいながら、上級職員と戦っている。


「室長。観測によれば、現在刺青から龍と同種のエネルギーが流出しています。このままでは龍の肉体の構成が進み、場合によっては龍の力を大石という男が乗っとる可能性があります」


 上島はタブレットで現状を冷静に報告する。


「やっぱり……。陰と陽の世界を融合させる計画は、大石が主導していたんだ……」

『その通りだ』


 大石がそのように答える。いつの間にか大石の肉体は肥大化しており、身長も3メートル近くまで伸びていた。


「なんだよアレ……。人間辞めてるじゃんか……」


 柴崎が上級職員の攻撃を受け止めながら、大石のほうをチラ見する。


「このまま放置すれば、どのみち俺たちの負けになるな」


 根本が上級職員の腹部を殴りながら、何か思案する。


「富士見さん、ワタシブネに協力を要請します。このままでは我々に勝ち目はありません」

「そうだね……。根本君、お願いしてもらってもいい?」

「もちろんです」


 そういって根本はポケットからスマホを取り出すと、上級職員の攻撃を躱しながら電話をかける。


(すごいスタイリッシュな電話のかけ方だな……)


 神藤はそんなことを思う。しかし、今は上級職員を退けることが最優先であり、他のメンバーを気にしている場合ではないのだ。

 神藤は目の前にいる上級職員の行動を制限するため、四肢を切断することにした。


(まず左足……!)


 一度直刀の柄頭で上級職員のことを殴り、よろめかせる。バランスを取っている隙に神藤は素早く上級職員の左脇に移動し、通り抜けざまに左足のアキレス腱を斬る。

 これにより片足の動きを封じることに成功した。


「うらっ!」


 上級職員が倒れこむ所を狙って、神藤は肩周りに複数回斬り込む。これで腕を動かすことも困難になった。

 そのまま右足のアキレス腱も斬ったことにより、うつ伏せの状態になった。背中に足を置き、動けないように体重をかける。


「ご苦労さん」


 そういって神藤は上級職員の首を斬った。跳ね飛ばされた首は少し転がり、やがて煙のように静かに消え去った。体も同じように煙となり、残ったのは衣服のみである。

 他のメンバーの状況を確認すると、上級職員との戦闘は終了しつつあった。それぞれ動けないような封印状態にさせているか、完全に消滅させている。


「富士見さん、ワタシブネへの連絡が完了しました。すぐに来てくれるそうです」

「それは助かるね」


 そういって富士見は大石のことを見る。


「大石。そろそろ決着をつけよう」

『望むところだ』


 大石も変身が終わったようで、荒く息を吐く。見た目は野生に生きるゴリラのようだ。

 神藤は今一度、直刀を握りなおす。

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