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第40話 激闘

 数秒の間、神藤たちと大石はにらみ合う。

 先に動いたのは大石だった。


『ヴォォォ!』


 野太い叫び声を上げながら、10メートル程度の距離を一瞬で詰めてくる。神藤たちの目前で右腕を上げ、振り下ろそうとしていた。

 それを神藤たちは散開しながら回避する。振り下ろされた拳がアスファルトにめり込み、人間より大きなクレーターを作った。それだけで大石のパワーが絶大であることを物語っているだろう。


「はっ!」

「ふんっ!」


 根本と柴崎が、互いに反対方向から同時に攻撃を仕掛ける。2方向以上からの攻撃というのは、人間にとって対処するのが困難だからだ。しかも根本は、大石の左後方から攻撃を仕掛けようとしている。目のついていない方向を感知するのは、人間には不可能な芸当だ。


『むぅん!』


 しかし、大石は二人の攻撃を同時に受け止める。柴崎の攻撃は右手で、根本の攻撃は左ひじで受け止めたのだ。


「何っ!」

『甘いぞ! そんな攻撃で俺を倒せると思うのか!?』

「思ってないですよ!」


 そこに神藤が大石の足元に潜り込み、複数回斬り刻む。左右の脛、ふくらはぎ、くるぶしを斬り刻むことで、大石の動きを封じようとしたのだ。

 しかし、確実に斬ったにも関わらず、傷口から出血の一つもない。むしろ時間が経過するごとに傷口が塞がっていく。


「クッソ! やっぱり人間辞めてる!」


 傷口の再生を見た神藤は、改めて大石の異常性を確認する。神藤が攻撃した時に、根本と柴崎は一度大石から離れ、体勢を整える。

 それを確認した神藤も、一度下がるために移動しようとした。

 その時、大石の足が予備動作もなしに動き、神藤のことを蹴り上げる。神藤はそれを反射的に直刀で防いだが、それでも10メートルほど吹っ飛ばされた。


「神藤君!」


 神藤が地面を転がったのを見て、富士見は神藤の心配をする。

 しかしそんな暇はなかった。


『他人の心配をしている場合か?』


 いつの間にか富士見に接近していた大石は、両手の拳で連続殴打を行う。富士見は式神をグローブに変化させて、大石の連続攻撃を同じく殴打で防御する。


『オラオラどうした富士見ィ! お前に実力はそんなもんかぁ!?』

「こんなもので悪かったな……! 組織にいた頃は激務で理性が壊れてたし……!」


 そうは言いつつも、今のところ大石と互角に戦っている。だが、だんだんと富士見が押されていく。大石の一発一発が重く、その攻撃を相殺出来ていないのだ。

 その時、大石は不意打ちで強力な蹴りを入れてくる。それに対処しようとして富士見はガードするものの、その衝撃で吹き飛ばされた。


「富士見さん!」

「柴崎! 今はコイツに攻撃をするんだ!」


 根本は富士見のことを心配しつつ、大石に向かって走る。根本は拳を握り、渾身の一撃を大石に叩き込む。

 大石はそれを腕でガードする。鈍重な音が響く。


「か、固い……!」

『なかなか良い攻撃だ。だがそれだけで通用すると思うなよ!』


 大石は空いている腕で根本のことを薙ぎ払う。そうして背中ががら空きになった所に、柴崎が攻撃を仕掛ける。


「はぁっ!」


 しかし、その攻撃も大石は見切っていた。背中に目が付いているような動きで回避を行う。

 そんなことをしながら、根本と柴崎は交互に攻撃を仕掛けていく。その全てを大石は防いだ上で、反撃もしてくる。根本と柴崎は苦戦していた。

 そんな中、神藤は上島と一緒に富士見の様子を確認する。


「室長、無事ですか?」

「いつつ……。骨にヒビ入ったかも……」

「富士見さん。あんなヤバい奴、どうやって倒すんですか?」

「神藤君は心配してくれてるの?」


 そんな軽口を叩きつつ、富士見は立ち上がる。


「方法がない訳ではないんだけど……。胸に書かれている刺青分かる?」

「はい」

「アレを一部でも破壊すれば大石の狂暴化は解けるはずだよ」

「なるほど……。それで、どうやって胸元まで行くんですか?」

「それは……、これから考える」

「マジで言ってます?」


 神藤は思わずツッコんでしまった。


「正直対処方法がそれくらいしかないんだ。大石の体は無限の再生力を持ち、永遠の命に等しい生命力を持っている。それを解除するためには、あの曼荼羅━━刺青を物理的に破壊するしかないんだよ」

「ですが、物理的に破壊するってどうやって?」

「簡単な方法だと、皮膚を抉って刺青を欠損させる、とか」

「そんなもので大丈夫なんですか……?」

「他に方法がないからね」


 そういって富士見は、グローブ型の式神を日本刀に変化させる。


「そのためには、ここにいる皆の力が必要だ。神藤君、上島君、手伝ってくれるかい?」

「もちろん。それが最終的に国民の力になるのなら!」

「当然です。それが私たちの仕事ですから」


 3人は大石の方を見る。根本と柴崎が大石相手に善戦していたが、疲れているのか先ほどよりもキレがない。


「それじゃあ行くよ!」


 富士見と神藤が駆け出し、上島は十字架を構えた。

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