今度は上島が先に攻撃を仕掛ける。
「父は全てにおいて我々を超越した存在である」
すると弾丸のような光線が、怒涛のように大石に襲い掛かる。
当然の事ながら、大石は腕を使って胸部を中心に防御する。それを見た神藤と富士見は、一斉に大石に襲い掛かった。
（とにかく動きを止めるのが先。となれば、狙うは足回り……！）
神藤は今までと同じような思考で、大石の動きを封じるために走る。大石の脚が目の前に迫ってきた。
「はぁっ！」
神藤は左足のアキレス腱を、振り向きざまに斬る。しかし、ただ単純に斬っただけでは駄目である。大石の体は自動再生するため、出血も何もなしにどんどん肉体が復活するのだ。
それを突破するには、連続で攻撃を加えるしかない。
「うらうらうらうら！」
右足のアキレス腱をめがけて、連続して斬り込んでいく神藤。ついでに特殊な攻撃も入れる。
「悪しき魂蔓延る現世、照らせ全ての輝きよ、中つ国より
その祝詞を上げると、直刀が青白く光り輝く。それを使って大石の体へ斬り込むと、傷の表面に結界のようなものが張られ、肉体の再生が出来なくなった。
『ぬぅっ』
体の異変に気が付いた大石は、神藤のことを捕まえるべく腕を伸ばそうとする。しかし、腕を伸ばせば上島からの攻撃をまともに食らうことになる。大石は体を捩じって、上島からの攻撃を背中で受け止め、神藤と正面から対面する。
「そこっ！」
そのチャンスを見ていたのが富士見であった。富士見は足に式神を付与し、高く跳躍する。その勢いのまま、富士見は背中から右肩にかけて斬りあがった。
しかし多少の出血はするものの、それでもすぐに再生してしまう。
『すばしっこい奴らめ……！』
大石は、一度富士見のことを無視して、先に神藤のことを攻撃する。右足はアキレス腱が斬られていて踏ん張れないので、左足を軸にした状態で右足を鞭のように無理やり振るう。
鞭のようにしなった右足の攻撃は、勢いよく神藤へと向かっていく。
『死にさらせぇ！』
しかしそれでも神藤は冷静だった。神藤は直刀を体の真正面に持ち、やや前方に倒す。その状態で大石の攻撃を待ったのだ。
すぐに大石の右足が直刀に触れる。すると、直刀が触れた部分から右足が切断され、そのまま右足が通過するごとに直刀が自動的に斬っていく。さらに先ほどの祝詞の効果もあり、切断した場所は結界が張られ、再生できない状態になる。
最終的に右足は縦に切断され、もはや足として機能しなくなった。
『こいつ……っ！』
「そんなによそ見してたら大変なことになるよ」
いつの間にか富士見は大石の左肩に乗っていた。そのまま日本刀を振るい、うなじに深く刀を食い込ませる。しかし、それだけでは傷が開いただけで、特にこれといったことはない。
そこで富士見は体に食い込ませたところから刀を捻り返して、肉を抉り取る。これでうなじの肉、脊髄の一部が露出した。
『ぐぅ……！』
思わぬ深手を負ったことで、大石の意識は少し混濁する。肉体が再生するとはいえ、さすがに人体の重要な部分に傷を負えば、それだけ行動に制限がかかる。
その意識がぐらついたところで、神藤は目的の攻撃に入った。
胸部の刺青に傷を入れる。その目的のために、胸部の肉体を斬り剥がすのだ。幸いにも、富士見の攻撃により大石の体は前傾し、今にも倒れそうである。
神藤は倒れこむ大石の胸元に移動し、祝詞を上げる。
「悪しき霊魂この世に栄えず、絶えず根の国向かうべし」
そしてそのまま、直刀を胸に向けて構えた。
大石が倒れ込み、直刀が刺青に突き刺さる。しかし鉄のような金属音がした。刺青は直刀の侵入を阻んだのである。
「なっ……！」
神藤に大石の体重がのしかかる。軽く見積もっても300kgを超えるほどある重量が神藤にのしかかるのだ。
「ぐおぉぉぉ……！」
神藤はなんとか耐えようとするものの、腕にかかる300kg超の重量は耐えられない。神藤はそのまま、大石の体の下敷きになった。
「神藤君！」
大石の肩から降りた富士見は、神藤が押しつぶされた場所に駆け寄る。
「神藤君、大丈夫！？」
富士見が大慌てで大石と地面の隙間を覗く。すると、隙間から青白い光が漏れているのが分かるだろう
それをよく見てみると、大石の地面の隙間に神藤がいるのが見えた。
「神藤君！」
「うぅぅぅ……！」
神藤は直刀を無理やり回転させ、胸に刻まれている刺青を切り取ろうとする。しかし重さによって、それがかなり困難だった。
その時、大石のうなじの傷が再生し、大石の意識は完全に戻る。
『くそ……、この俺が後手に回るとはな……！』
そういって大石は立ち上がるために腕を突き、上体を起こした。
その瞬間、神藤は動く。直刀が自由に動かせるようになったため、いとも簡単に大石の胸元にある刺青を斬り剥がすことができたのだ。
それにより大石の刺青は、一部が欠損した状態になり、不完全になる。
『ぐっ……、グハッ……』
大石の体から瘴気が発生し、そのまま蒸気のように霧散していく。それに合わせて大石の体はどんどん縮小していった。
やがて神藤と同じくらいの身長の男性になる。
「これが、大石……？」
「常日頃から陰の世界の瘴気を使っていたようだね。でも刺青にしていた曼荼羅の形が崩れたことによって、その力すら失ったみたいだ」
富士見は大石の体をひっくり返す。胸元にあった刺青は完全に効力をなくし、ただの刺青と化していた。
「このまま警察に引き渡してもいいけど、二度とこの曼荼羅を使えないように書き換える必要があるね」
そういって富士見は式神をペンに変化させ、刺青の上から何かを書き加える。
「ここをこうして……、こうすれば効力は反転するはず……」
そして完成した。刺青の効果を無効化する文字だ。
「もう大丈夫ですかね？」
「うん、あとは大石を警察に引き渡すだけだね」
そんな話をしていると、根本と柴崎が負傷した状態で戻ってきた。
「富士見さん、大丈夫でしたか？」
「僕は大丈夫だけど、君たちのほうが大丈夫じゃなさそうだね」
「さすがに堪えました」
「さすがにね？ この後病院行こうか」
そうして一行は今回の事態の収束のために動こうとした。
その時、上島がタブレットを見て驚愕する。
「室長……、龍の霊的力場が急上昇しています……！」
「なに……？」
見上げれば、そこには龍がいる。だが完全な姿にはなっていない。
「一体何が……」
神藤が呟いた時、何か背中がゾクッとするような感覚があった。
