「そんなの……、不可能ですよ……」
神藤は思わずうなだれる。
「不可能ではないことは、神藤君が一番よく分かっているはずだよ。神藤君の家系では、4人ほど神格化された人がいたんじゃない?」
「それは文字だけの神格化であって、本当に神になったわけじゃないですよ!」
「……それもそうだね。でも一人だけ、本当に神になった人がいるじゃないか」
「……それは」
その時、白金の龍神が咆哮を上げ、上空へと登っていく。
「時間がありません。我々二人の命を使い捨ててもらっても構いません。神藤さん、どうか神としてアレを倒していただけませんか」
根本がそのように言う。柴崎も同調していた。
「神藤君、僕も自分の命を捨てる覚悟はある。これはもう神藤君にしか出来ないことなんだ」
富士見の後ろで、上島も頷く。
彼らの覚悟を聞き、神藤は覚悟を決めざるを得なかった。
(確かに、自分自身の霊的存在を神と等しくする祝詞は知っている。でもそれは、おいそれと使っていいものではない……。それに、祝詞を上げた本人と力を分け与えた人々がどのようになるかも全く分かっていない点では、現代では禁術に近い存在だ……。それを気軽に使うなんて……)
それでも神藤の中で葛藤が起きる。神になれるほどの強大な力ということは、それだけ代償も大きいことだ。そんなものを簡単に使うなど、言語道断である。
(だけど、自称神が本当に神だったとしたら……。俺がそれに立ち向かわないといけないことになる……。どんな犠牲でも払ってでも、神の行動を止めなければ……。この世界は混沌に逆戻りする……。俺は……!)
神藤はさんざん迷った挙句、覚悟を決めた。
「……分かりました。自分が、神になります」
「ありがとう、神藤君。何か出来ることは?」
「皆さんの異能の力を吸い取って、自分の霊的存在を神レベルにまで押し上げます。これをすることで皆さんの異能は空っぽになり、これまで通りに力を行使することはできなくなりますが……」
「大丈夫、そのくらいは覚悟できてるよ」
「では自分の肩に手を置いてください」
そういって神藤は、4人に背中を見せる。4人は神藤の言葉通りに、肩に手を置いた。
「人の子の、神器の
すると、神藤の手元に神職が使う笏とお祓い棒━━正式名称「大幣」━━が出現する。
神藤は大幣を空中に立てかけ、笏を体の前に持って二礼する。
そして祝詞を上げた。
「かくも現世に漂う霊よ、八百万の神々に、使えて
祝詞を上げている最中ではあるが、富士見たちの霊力とも言える何かが、彼らの手を通じて神藤の中へと流れ込んでいく。
「
すると、神藤の体に変化が現れる。髪は白く変色し、体が今よりもスラッとしていく。神藤の体の周りには気のような白いオーラが纏い、やがて体の奥底から力が湧いてくる感覚がするだろう。
そして神藤の視界には、あらゆる霊魂の情報が見えるようになった。
それと同時に、声が聞こえてくるだろう。
『人の子だった
「あなたはどなたでしょう?」
『我は
「近衛……。もしかして、私の先祖の方でしょうか?」
『いかにも。神格化した近衛家のうちの一人である。よくぞ神に近い地位まで登りつめた』
「ありがとうございます。しかし、私にはやらねばならないことがあります」
『その通りだ。あの龍神を倒さねば、
「偽の神……?」
『そうだ。正確に言えば、神の名を語る使者と言えるだろう。力は神と等しいが、奴の地位は神とは等しくない。その点で言えば、
「私はまだ、神と等しいわけではないのですね……」
『そうだ。神と等しくなる方法については、奴を倒した後に話すとしよう。奴を倒し、現世を平安することが先である。今の道也ならば、奴を倒せるだろう』
「はい」
神藤は後ろを振り向く。富士見たちに話をしようと思ったのだ。
しかし富士見たちは地面に倒れていた。まるで急に意識を失ったかのように。
それを見た神藤は、少しだけ悲しい気持ちになる。
(でも、思ったほど悲しくはない。私が神に近い存在になったからだろうか……)
神藤は視線を上げる。
(富士見さんたちのためにも、私は奴を倒さなければならない)
空中に立てかけてあった大幣を手に取り、神藤はフワッと浮き上がった。
『頼んだぞ、道也よ』
神藤のことを、永藤は見送るのだった。