龍に乗った自称神は、上空1000メートルまで登り、地上を見下ろす。
『この全てが我の物になる……。実に楽しみだ』
自称神がそのようなことを言っていると、何か強烈な違和感のような物を感じ取るだろう。
自称神が下を覗くと、そこには龍に向かって上昇している神藤の姿があった。
『ちっ……、人間風情が。神と同じ力を得たところで、我に勝てると思っているのか?』
神藤は自称神のいる場所まで昇ってくると、そこで改めて相対する。
「自称神よ。あなたがしていることは人道に反する。今すぐ龍を解放し、この世界から去っていただきたい」
『貴様は何を言うておるんだ? 我はこの世の神である。この世界をどうするかは最初から我が決めてよいのだ。貴様が口出しする理屈などない』
「いや、ある。私は人間であり、今まさに神の地位へと上がろうとしている者。八百万の神々の一翼を担う者である」
『八百万だと? 馬鹿も休み休み言え。神は我一人であり、我のみが神と名乗って良いのだ。そこに貴様のいる場所などない』
「そういうあなたこそ、神の名を使って人々を騙している外道ではないか? 唯一神アルグレウードをかたる二十四使徒の一人、アリスタルテルのエクドよ」
『……バレているのなら仕方ない』
自称神、もといアリスタルテルのエクドは、空中から槍のような物を取り出す。それを神藤のほうへと突き出す。
『今こそ我が神となり、この世界を完全に支配するのだ……!』
そういってエクドは、龍を操って神藤へと突撃する。それに対して神藤は、笏を使ってバリアを展開した。
バリアと龍が衝突し、激しい閃光が辺り一帯に光り輝く。
神藤は大幣を頭上に掲げる。すると神藤の頭上に、巨大な木槌のような物が出現する。神藤は大幣を振り下ろす。それに合わせて、巨大な木槌が龍に向かって振り下ろされた。
『ちぃ……!』
エクドはバリアに衝突するのを止め、一旦回避に専念する。しかし蛇のように、先ほどまでいた場所に龍の体が残っていることもあり、尾のほうが木槌の攻撃を食らってしまう。
龍は悲鳴を上げていないが、それでもダメージを負ったことでバランスを少し崩す。
『クソッ……! あんな奴に殺されるとかナシだぞ……!』
エクドは悪態をつきながら、次の一手を考える。
『この攻撃はどうだ!?』
槍の先が光り輝く。エクドはそれを神藤の方へと突いた。すると、槍の先端から光線が発射され、神藤の方へと真っすぐ飛翔する。
「無駄だ」
神藤は再びバリアを使用して、その光線を防ぐ。光線は四方八方に飛び散った。
「その程度の攻撃か? なら今度はこちらから行く」
神藤は巨大な木槌を消滅させ、大幣を構える。すると大幣自身が、まるでSF作品に登場する光の剣のようになった。神藤はその状態でエクドへと急接近する。
『貴様の動きは見えているぞ!』
エクドは槍で光の剣を受け止める。
『貴様はそんなに神になりたいのか!?』
「それは違う。人間を守るために神の力を手に入れただけだ」
『それは人間のエゴによる欲求拡大に過ぎない! それこそが神を見下す下劣な人間の考えだ!』
そのまま数度、鎬を削る打ち合いをする。
「ならば、あなたはなぜ神と名乗った? あなたにも人間の傲慢さがあったのではないのか?」
『我の力は崇高で純粋な物である! 地上に這いつくばっている生物たちとは違うのだ!』
「しかし、あなたも元をたどれば人間だ。同じ人間ならば、あなたの力も傲慢と等しくなるだろう」
『違う違う違う違う……! 我は唯一の力を持つ、この世界でただ一人の神なのだ!』
すると槍の力が増幅し、神藤の左肩を突き刺す。
「ぐっ……!」
幸いにして痛みはあまり感じなかった。おそらく人間を辞めている証拠なのだろう。
しかし、突き刺された影響で神藤は体のバランスを崩す。
『神殺しは我のものだぁー!』
神藤に向かって、エクドが槍を投擲する。槍はそのまま真っすぐ神藤のほうへと飛んでいく。
(このままだと死ぬ……!)
直感的にそう思った神藤は笏のバリアを張ろうとしたが、左肩を突き刺された影響なのか左腕に力を入れられない。すなわち、無防備な状態なのだ。
このままでは槍に突き刺されて死んでしまう。
そんな時だった。
地上から極太の光線が飛んできて、槍に照射される。その瞬間、槍は蒸発して霧散した。
『何……!?』
光線が収束し、槍は完全に消えていた。神藤はその光線を発射した人物が誰であるか、即座に理解した。
「まさか……」
しかし、今はエクドを倒すのが先である。神藤は体勢を立て直して一気に急上昇し、大幣の光の剣を巨大化させる。
「はぁっ!」
そのまま龍の首ごと、エクドを斬った。光の剣によりエクドは蒸発し、龍は首を斬られたことにより白金から黒色に変色して活動を停止した。
龍の首からは、頭部と共に人間には見えない「龍の血」が大量に溢れ出てくる。それは四方八方に飛び散り、地上にしみ込んでいった。
「なんとかなったか……」
神藤が地上の青島霊園に戻ると、そこには倒れたままの富士見、上島、根本、柴崎の姿があった。
『彼らは自身の力と命を道也へ与えた。それにより道也は神に近い存在となったのだ。これは仕方のないことである』
神藤の横に、永藤がいつの間にか立っていた。
「はい。十分に理解しています」
そういって神藤は大幣と笏を置き、彼らに対して手を合わせた。
『しかし、大変なのはこれからである。龍はもともと災厄を呼び寄せる存在。この世に顕現しただけでも人間の世界に災いが降りかかるが、今回は龍の血が大量に地上に降り注いだ。より強力な災いが降りかかることになるだろう』
「それでも、人々は乗り越えることが出来るでしょう。私はそう願っています」
『……そうだな』
こうして泙成最後の一日は過ぎ去り、時代は囹和へと移り変わっていく。