「本当の願いって何なのよ……こっちはその“願い”が分からないから苦労してんだわ!!」
放課後の教室で一人、塁(中身・美里)は机に突っ伏していた。
管理者の言葉が脳内でぐるぐるしている。
(晴翔に“本当の願い”を思い出させろ、って言うけど……攻略対象じゃないどころか、弟ポジですらルート存在しなかったんだけど!?)
「兄ちゃん?」
そんな時、ドアがそっと開いて、晴翔が顔を覗かせた。
「購買のシュークリーム、まだあったから買ってきた。兄ちゃん、好きでしょ?」
「……っ、ありがと晴翔……推しじゃなくても、あんたは天使……!」
「???」
無垢な笑顔に、一瞬だけ全てを忘れそうになる塁だが、ふと彼の手元にある古びたノートに目が止まる。
「それ、何?」
「これ? たぶん小学校の頃のやつ。ロッカーの奥から出てきたんだ」
ページをめくると、幼い字で書かれた「将来の夢」やら「大切なもの」が並んでいた。
その中に、一枚だけ……明らかに他とは雰囲気の違うページ。
『世界が変わっても、あの人と一緒にいられますように』
「……晴翔、これ書いたの覚えてる?」
「え……? いや、全然……そんなの書いたっけ……?」
笑ってごまかす晴翔。しかしその目は、一瞬だけわずかに陰る。
(思い出せていない……これが“記憶のカケラ”? もしかしてこの世界が“バグってる”せいで、本当の願いごと消えてるのかも……)
すると、空間が一瞬だけ揺れる。
「っ……やば、ルート進行がまた乱れた?」
塁のスマホに、あの白ローブ管理者からの通知が届く。
『ヒント:記憶の欠片を三つ集めよ。願いは過去に宿る』
「……記憶の“カケラ”を探す、ね。はいはい、ゲーム的お使いミッションきたー!!」
けれど次の瞬間、スマホが再び振動。
『追伸:建人、君に気持ちが傾いてるっぽいよ? 推しに攻略される未来、回避する気ある?』
「ギャアアアアアア!!」
夕暮れの教室に塁の叫びがこだました――。