人類、特に日本は未曽有の危機にさらされていた。
謎のテロリストによる国会議事堂の襲撃、そして破壊。
しかもそれが通常国会開催中に起きたのである。
人的被害はなかったので国家の運営に影響はないものの、その衝撃は全世界に伝播した。
世界各国で犯人の擦り付け合いが起こり国際情勢の緊張が高まりを見せるが、日本を攻撃する動機は有れどその犯行を決定づける証拠は何もない。
また一部テロリスト集団が事後承諾的に犯行声明を出したものの、いつもの事かと無視されるのだった。
国家間の易のない論争に決着が付く見込みはない。
なぜなら魔王はどの国とも関係のない異世界からの来訪者だからである。
しかし国家首脳レベルの会議では、そのような荒唐無稽な事実が受け入れられるはずもないのだった。
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首脳レベルでは意味のある議論がなされることはない。
しかし全人類が無策に時を費やしているわけではなかった。
魔王の姿や凶行の一部始終は、現場に居合わせた報道関係者と野次馬により多数の映像が記録されている。
その真偽や犯人の正体・目的についてはSNSや匿名掲示板を中心に、遊び半分で議論が巻き起こり、様々な憶測が飛び交っていた。
ネット住民の間では、他国あるいはテロリストからの攻撃という、一番現実的な線は早々に切り捨てられた。
それでは面白くないからである。
宇宙人説、未来人説、世界大戦時に製造された悲劇の改造人間説等、事実とは無関係な新説が面白おかしい根拠や論証と共に乱立したのだが、そこには真面目に状況を整理して議論している者たちも少なからず存在していた。
国会の記録映像と犯人と話をした国会議員の証言を元に考証が進められ、ネットの大勢では最終的に異世界からの魔王の犯行であると結論付けられた。
普段は何の役にも立たない議論をしているネット住民達だが、この異常事態にあっては皮肉にも彼らだけが、荒唐無稽な事件の真相にたどり着いたのである。