目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

ep2.6 グリッチ利用は犯罪です

―――パッパラー♪

『新人傭兵ミッションEX 新規クラン結成 達成』


 軽妙なファンファーレと共に、魔王とマオ双方のゲーム画面にミッション達成のメッセージが表示された。

「また何かミッションが達成されたようだな……EXと書かれているが、これはなんだ?」

 魔王はメッセージにさっと目を通すと、ついさっきクリアしたフレンド登録ミッションとの表記違いを目ざとく指摘したのだった。

「おっ、よく気付いたっすね。EXはエクストラの略称で、後発プレイヤー向けに後から追加されたミッションなんすよ。」

 そう言いながらマオは再びミッション一覧を開き、ミッション種別タブの中からEXを選んで絞り込み検索を行い、その中からいくつかピックアップして選択してミッション内容の詳細を表示し、さらに解説を続けた。

「このゲームは元々日本だとあまり流行っていなかったっすけど、運営体制が刷新されたここ一年で、日本人ユーザーもかなり増えているっす。そこで新規にゲームを始めた後発プレイヤーに向けて、いわゆるスタートダッシュキャンペーンの一環として追加されたのがEXミッションっすね。」

 彼女はサービス開始当初から当ゲームをプレイしている最古参プレイヤーなので、後発向けの応援キャンペーンは当然対象外であった。しかし彼女は運営告知をちゃんと読むタイプの几帳面なゲーマーなので、キャンペーン内容は一通り把握しているのだった。


 マオは開いていたEXミッションの詳細情報を閉じると、今しがたクリアしたミッションに話題を戻した。

「それはさておき、報酬ゲットっす。ぽちっとな。」

 そう言いながらマオはメッセージ下部の報酬受け取りボタンをクリックした。するとメッセージウィンドウは一度閉じて、以下の様に再表示された。


『クランの共用武器庫に下級歩兵用標準装備一式×12が配備されました』


 メッセージを読んだマオは[クラン武器庫へ]と書かれたボタンをクリックしてメニューを開き、今しがた配られた報酬を確認しつつ、さらに解説を続けた。

「このミッションでは最低限対戦を始められる装備品の一式がもらえるっす。12人分の装備が配備されるのは、作ったばかりの最低ランクのクランに所属可能な最大人数が、分体単位の12人までだからっすね。」

「なるほど。すぐに対戦を始めたい場合には、最優先でクリアすべきミッションと言うわけだな。」

 魔王の言葉に頷いたマオはさらに続けた。

「そうっすね。クラン結成には最低二人必要だから、ぼっちだとできないのがネックっすけど、ソロプレイヤーは大人しくチュートリアルミッションをやるのが吉っす。チュートリアルを一通りこなせば、戦闘時の操作法や都市施設の利用方法なんかが、ガイド付きで覚えられるっすからね。」

 一般論としてチュートリアルの有用性を語るマオだったが、はっと何かを思いついた様子で魔王に向き直った。

「ああ、そうは言っても、ルシファーにはベテランの私が適宜教えるんで、チュートリアルを飛ばしても問題ないっすよ。」

「うむ、引き続きよろしく頼む。」

「もちろんっすよ。初心者支援は古参のたしなみっすからね。」

 魔王からの率直な要請に対し、マオは先輩風を拭かせながら若干ドヤった笑顔で応じたのだった。


 自身の有用性を提示したマオは、その言葉が口先だけではないと証明するために、チュートリアルからは知る事の出来ない、ちょっとした小話をしようと考えついた。

「ちなみに個人の武器庫ではなく、クランの共用武器庫に配備された装備品は、『傭兵組合』からのレンタル品扱いなんで、改造や売却、トレードはできない仕様っすね。クランを乱立して報酬の装備を売却して稼ぐ、みたいなことはできない様に対策されてるんすよ。」

「ほう、その口ぶりからすると、過去にその様な行為が実際にあったのか?」

 マオが妙に具体的にミッション報酬の悪用法とその対策について語ったので、魔王はその真意を思索し、それが実際に起きた出来事だったとの仮説に至ったのだ。

 これにマオは大きく頷くとともに答えた。

「そうなんすよ。ゲームを始めたばかりの新人なら普通にプレイするよりも稼げちゃうっすからね。このグリッチはミッション実装後すぐに発覚したんで、即座に対策されて、現在のレンタル設定での装備支給って形になったんすよ。」

「なるほどな。ところでグリッチとは何だ?」

 魔王は仮説が正しかったことに満足したが、新たに湧いた疑問を投げかけた。

「グリッチはゲーム用語で、ゲーム製作者が意図していない挙動や仕様の穴、あるいは明確な不具合、いわゆるバグを利用したプレイを指す言葉っすね。修正されていないグリッチ利用はテクニックの一種と言い張るバグゲーマーも居るっすけど、一人用のオフゲーのバグを個人で楽しむだけならまだしも、こと対人対戦要素のあるオンラインゲームに於いては、その主張は到底認められないっすね。真面目にプレイしている人が割を食う様な理不尽は、ゲームそのものと運営組織の信頼性に関わる問題っすからね。過去にはグリッチを放置したせいで多くのプレイヤーが萎えて引退し、凋落の一途を辿ったタイトルがいくつもあるっす。グリッチ利用は出るところに出れば半分犯罪なんすよ!」

 グリッチ利用をはじめとしたチート行為は偽計業務妨害に当たる可能性があるため、半分と言うか100%犯罪であるが、それはさておき、珍しく怒りを露わにして語気を強めて恨み節を利かせるマオなのだった。

 それは彼女が過去に遊んでいたゲームが実際にその様な事態に陥り、サービス終了の憂き目に遭った実体験に基づいていたので、真に迫ったリアルな慟哭であった。


「話が逸れたっすけど、このゲームの運営はバグ修正やグリッチ対策がしっかりしているんで、そう言う心配はないっすよ。……さてと、気を取り直して、支給品を装備したら、いよいよ対戦モードをプレイしてみるっすかね。」

 ただのゲーム用語解説のつもりが、うっかり熱が入り過ぎてしまったと気付いたマオは、いったん落ち着くために支給された装備品の確認に戻ったのだった。

 これに魔王もうんうんと頷きながら答えた。

「そうだな。余は何も知らぬゆえゲーム史探訪も興味深いが、元より対戦目当てであったからな。」


 次回、戦闘開始。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?