前回、マオは自身の武器弾薬類の搭載可能重量が過積載エラーの出る最大でも11.3㎏、過重ペナルティを避ける場合は5.3㎏しかないことを確認した。なので、それを踏まえてまともに運用可能な装備構成の選定を始めたのだった。
「主武装は部隊内で共通にした方が取り回しがいいんで、ルシファーと同じくアサルトライフルを使うとして、弾数120発は最低限確保したいっすから、本体の初期装填状態30発に加えて、装弾数30発のスペアマガジンを3個持って、全弾数120発で考えていくっす。」
「ふむ、なぜ120発が基準となるのだ?」
魔王は先刻マオの本アカウントを借りて、トップランカー層とのフリーマッチ対戦を体験しているが、初心者である魔王は大概瞬殺されていたため、幸か不幸か弾切れを経験していない。故に、一戦闘に於いて、実際の所どの程度の弾薬が必要なのか把握していないのだった。
これに対してマオは、主に自身の対戦経験に基づいて応えた。
「弾数120発って言うのは明確に基準があるわけじゃなくて、私の経験則っすね。アサルトライフルやカービンをメインで運用した際、タイマンあるいは同数程度の分隊での遭遇戦を行う仮定っすけど……一戦闘での個人消費弾薬は平均して20から30発程度、多少長引いてもリロードを一回挟んで60発を撃ち切る前には決着する場合が多いっす。一戦闘ごとに補給に戻るとして、ここで弾切れしていたら補給線まで戻る間の安全確保に支障を来たすっすから、スペアマガジンが追加で1個は必須で、さらに余裕をもってもう1個、合計3個あればまず困らない印象っすね。」
魔王はその話を聞いてから自身のアバターの装備構成に改めて目を通し、スペアマガジンが5個装備されているのを確認した。
「なるほど。余の場合は積載荷重に余裕があるから、追加弾倉は最低限ではなく、少し多めに持っているわけだな。」
マオはこれに頷きつつ答えた。
「そうっすね。あからさまに不要な量を持ち歩く必要はないっすけど、切り詰め過ぎて弾切れを起こしたら、目も当てられないっすからね。」
魔王の疑問が解決したところで、マオは再び自身の装備選定へと戻った。
「話を戻すっすけど、ライフル本体が4㎏、マガジン1個の重量が0.5㎏なんで、スペアマガジンを3個持つと1.5㎏、ライフル本体と合わせると5.5㎏っすね。さっき確認した通り、私のアバターがペナルティ無しで持てる武器弾薬の最大重量が5.3㎏っすから、この時点で既に過重ペナルティが掛かってしまうっす。改めて数値で確認すると予想以上に酷いっすね。スペアマガジンを1つ減らせば一応ペナルティを回避して運用できるっすけど、サブ兵装無しで全弾数90発だと流石に心許ないっすから、あちらを立てればこちらが立たずって奴っす。最終的にどっちを優先するかは、結局試してみての比較っすかねぇ……」
マオは魔王に状況説明するために逐一口に出しながら、一つ一つ装備を選択して予測総重量を表示し、それに合わせて順次解説していった。
ここで魔王はまた一つ疑問を感じたので、講師役を務めるマオに向かって手を挙げて意思表示した。
「少し気になったのだが、よいか?」
「なんすか?」
マオが聞き返すと魔王は質問に移った。
「うむ、先ほど部隊内で主武装を統一した方が取り回しがよいと言っていたのは、弾薬類を共有できるためだと理解したのだが、合っているか?」
「そうっすね。」
マオが頷きつつ肯定すると、魔王もまた頷き返してさらに続けた。
「であるならば、積載荷重に余裕がある余が追加弾倉を持ち歩き、逐次必要なタイミングでマオに渡せばよいのではないか?」
魔王の提案は実のところ的を射ていたが、マオが想定している装備構成の必須条件は魔王の考えるそれとは少し異なっていた。
「部隊を組む前提ならそれも一つの手ではあるっすけど、単独で完結した装備構成にしておかないと、一対一の対戦に使えないっすからね。この後ルシファーと対決するならなおの事っす。」
「言われてみればそうだな。」
魔王は馴染みのない部隊編成にすっかり気を取られて、マオとの対戦の約束が頭から抜けていたので、改めてその点を指摘されて、マオの装備選定の必須条件に納得したのだった。
さて、散々時間をかけて装備構成を検討していたマオだったが、本来ゲームの仕様上使い物にならない貧弱幼女アバターを、実戦に耐える形で運用しようという無謀な試みなので、百聞は一見に如かずのコトワザ通り、試してみなければわからないとの結論に至った。
故に、試作装備構成の試用を兼ねて、いよいよ魔王と対戦をすることにしたのだった。
「なにはともあれ、この装備構成でひとまず決定して、試しに対戦してみるっすよ。」
そう言うとマオは装備の一括変更を行い、さらに装備プリセットの2番目の枠に現在の状態を保存した。
魔王もそれに倣ってプリセット登録しつつ、マオからの対戦の要請に待ちわびたとばかりに不敵な笑みを浮かべた。
「ふっふっふ、ようやくか。どうにもマオのアバターは戦闘に不向きなようだが、遠慮なく勝ちにいかせてもらうぞ。」
「望むところっすよ。」
魔王の相手の弱みを突く気満々の大人げない真剣勝負宣言に対して、マオもまた多少の不利条件があろうと、先達として初心者には負けられない矜持があったため、やはり大人げなく返り討ちにする気満々で、これを受けて立ったのだった。
こうして、互いに譲れない戦いへと挑まんとする大きなお友達の二人は、組合本部受付ロビーを後にして、決戦のステージたる本部併設の屋外演習場へと歩を進めたのだった。