煌びやかなシャンデリアの光が大広間を照らし出し、音楽と笑い声が優雅に響いていた。舞踏会は華やかさを極め、貴族たちのきらびやかな衣装がまるで花々が咲き誇るように会場を彩っていた。アルヴィス侯爵令嬢ヴェルナも、その一人として舞踏会に出席していた。彼女は深紅のドレスに身を包み、気品あふれる姿で人々の注目を集めていた。
ヴェルナはこの夜を楽しみにしていた。婚約者であるセザール・レイフォード侯爵家の嫡男が、自分を紹介するために舞踏会を主催すると聞いていたからだ。だが、その期待は無情にも裏切られる。
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「皆様、少しお時間をいただけますか。」
セザールが舞台の中央に立ち、周囲に響き渡る声で語りかける。その端正な顔には自信に満ちた笑みが浮かんでいた。
「本日は、この場を借りて大切な発表をさせていただきます。」
会場中の視線が彼に集中する中、ヴェルナは誇らしげに彼を見つめていた。彼が自分を婚約者として正式に紹介することを信じて疑わなかったからだ。
だが、セザールの口から出た言葉は、ヴェルナの期待を一瞬で打ち砕いた。
「私はこの度、リリアン・ハーヴィー嬢と婚約することを決めました。」
その瞬間、会場がざわめきに包まれた。人々の視線が一斉にヴェルナに向けられる。彼女の目は見開かれ、体が硬直した。
「セザール様……?」
思わず声を漏らしたヴェルナの目に、彼は一瞬も視線を向けず、リリアンの手を取って微笑んだ。
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リリアン・ハーヴィーは、セザールの隣でまるで勝ち誇ったように微笑んでいた。華やかなドレスを身にまとい、その若々しい美しさで人々の目を引いていた。だが、ヴェルナにはその笑みが嘲笑にしか見えなかった。
「なんということ……。」
会場の片隅で呟く声が聞こえる。周囲の貴族たちが囁き合い、嘲笑を浮かべる者もいた。
「アルヴィス侯爵令嬢、婚約を破棄されたのね。」
「まあ、リリアン嬢の方が魅力的だものね。」
その言葉の数々がヴェルナの胸をえぐる。屈辱と怒りが込み上げてくるが、彼女はその場で感情を表に出すことを許さなかった。高貴な貴族の令嬢として、どんな時でも冷静さを保つことが求められる。
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ヴェルナは深呼吸をし、周囲に静かに微笑みを浮かべると、会場を離れることを決めた。
「ヴェルナ様、大丈夫ですか?」
側近のクラリッサが心配そうに駆け寄ってくる。
「ええ、心配しないで。少し疲れただけよ。」
ヴェルナは落ち着いた声で答えたが、その内心では怒りと悲しみが渦巻いていた。
彼女は自分のプライドを保ちながらも、心の中で決意した。
「こんな屈辱、絶対に忘れないわ。彼らに必ず代償を払わせてやる……。」
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屋敷に戻ると、ヴェルナは自室に駆け込み、扉を閉めた。そこで初めて、涙を流す。ベッドに顔を埋め、嗚咽を抑えることができなかった。自分が信じていた人間に裏切られたという現実が、彼女を深く傷つけていた。
だが、涙が枯れるころには、彼女の中に新たな感情が芽生えていた。それは、復讐心だった。
「セザール、リリアン……あなたたちが築いたものを、全て壊してみせる。」
ヴェルナは涙を拭い、鏡の前に立つと、自分自身に語りかけるように決意を固めた。
「私はもう、泣いているだけの令嬢ではない。自分の力でこの屈辱を晴らしてみせるわ。」
彼女の瞳には、かつての弱さは消え、冷たく鋭い光が宿っていた。ここから、ヴェルナの反撃の物語が始まる。