ヴェルナの成功と努力は、社交界でも次第に認められるようになっていた。彼女がかつて婚約破棄の屈辱を味わったあの日から数年、いまでは社交界で欠かせない存在となっていた。舞踏会や茶会に招かれるたび、彼女の周囲には人々が集まり、彼女の意見に耳を傾けるようになっていた。

ある日の午後、ヴェルナとエリオットは、領地の発展に関する話題を共有するための会合に招かれた。参加者の中には、かつて彼女を見下していた貴族たちもいたが、今や彼らの態度は大きく変わっていた。

---

会合の最中、ひとりの若い伯爵夫人がヴェルナに話しかけた。

「ヴェルナ様、以前からあなたの領地経営について興味を持っていました。特に、教育と医療の施策は素晴らしいと思います。私たちの領地でも参考にさせていただけないでしょうか？」

「ありがとうございます。」

ヴェルナは穏やかに微笑みながら答えた。「もちろん喜んでお力になりたいと思います。領地ごとに状況は異なりますが、何か具体的なアドバイスが必要であればおっしゃってください。」

「感謝いたします。」

伯爵夫人は深く頭を下げた。「こうして直接お話しできること自体、光栄に思っています。」

ヴェルナの冷静で礼儀正しい態度に、周囲の貴族たちも改めて彼女の人柄に感嘆していた。以前は単なる一人の貴族令嬢に過ぎなかった彼女が、いまや誰もが尊敬する人物となったことを認めざるを得なかった。

---

その一方で、嫉妬心を隠せない者もいた。会合の後半、別の貴婦人が皮肉めいた言葉を口にした。

「ヴェルナ様、あなたの努力は確かに素晴らしいものですわね。でも、すべてが順調だとは限らないのでは？」

その言葉には、暗に彼女の失敗を期待するような意図が込められていた。しかし、ヴェルナはその挑発に動じることなく、穏やかに微笑みながら答えた。

「確かに、物事がすべて計画通りに進むわけではありません。」

彼女は冷静に続けた。「ですが、困難に直面したときにこそ、学びや成長の機会があると信じています。それが私の領地と住民たちを支える原動力になっています。」

その返答に、貴婦人は何も言い返すことができなかった。周囲の貴族たちはヴェルナの賢明さと冷静さに改めて感心し、彼女に対する評価をさらに高めた。

---

会合が終わり、ヴェルナとエリオットは屋敷に戻った。馬車の中で、エリオットが静かに口を開いた。

「今日のあなたの振る舞いは、本当に見事でした。」

彼は穏やかな微笑みを浮かべながら続けた。「あなたの強さと知性が、社交界全体に響いていました。」

「ありがとう、エリオット。」

ヴェルナは少し照れたように微笑んだ。「でも、正直なところ、まだ慣れないわね。人前で話すことや注目を浴びることには。」

「それでも、あなたは自分の言葉で人々を動かす力を持っています。」

エリオットは優しく彼女の手を取った。「それは領地の発展にも、私たちの未来にも大切なことです。」

彼の言葉に、ヴェルナは深い感謝の気持ちを覚えた。彼がそばにいてくれるからこそ、自分が前を向いて進むことができると実感していた。

---

その夜、ヴェルナは書斎で今日の会合を振り返っていた。彼女は、自分の言葉が人々に影響を与えるようになったことを改めて実感し、それに伴う責任を感じていた。

「私はただ、自分の領地を守りたいと思って行動してきただけ。でも、それがこんなにも多くの人に影響を与えるようになるなんて……。」

彼女は独り言のように呟いた。

エリオットがそっと書斎に入ってきて、彼女の肩に手を置いた。

「ヴェルナ嬢、あなたの努力と誠実さが、周囲の人々を動かしているのです。それは何よりも素晴らしいことです。」

「ありがとう、エリオット。」

ヴェルナは彼に微笑みかけながら答えた。「これからも、私たちができることを一つずつ積み重ねていきたいわ。」

---

翌朝、ヴェルナとエリオットは再び領地の仕事に取り掛かった。社交界での立場が変わりつつある中でも、二人にとって最も重要なのは、住民たちとの絆を深め、領地をより良い場所にしていくことだった。

「社交界で何を言われようとも、私たちのやるべきことは変わらないわ。」

ヴェルナは力強く言った。「住民たちの未来を守り、希望を与えること。それが私たちの使命よ。」

「その通りです。」

エリオットは微笑みながら頷いた。「あなたと共に、この領地をさらに発展させていきましょう。」

二人は未来への希望を胸に、次なる挑戦に向けて歩み始めた。

---