ディオール領主城の執務室で、セリカは一冊の報告書に目を通していた。その中には、最近ディオール領内で耳にするようになった噂が詳細に記されていた。
「エル・ドライド…」
セリカはその名前に興味を抱いた。エル・ドライドはかつて隣国で文官として名を馳せた人物だった。その才能は多くの貴族たちに高く評価され、領主の片腕として数々の実績を残してきた。しかし、ある日突然、その領主と対立したという理由で追放されたというのだ。セリカの持つ報告書には、彼が追放された経緯や、その後の行方についてのエル・ドライド情報が書かれていた。
「優秀な文官だったにもかかわらず追放されるなんて、普通ではありえないわ」
その噂はすぐにセリカの好奇心を引き立てた。エル・ドライドの才能が本当なら、彼をこのディオール領に引き込むことができれば、領地改革の大きな助けになるかもしれない。彼の経験や知識を活かせば、これまで取り組んできた改革を一層加速させることができるはずだ。しかし、彼が本当に追放されたのだろうか?セリカはその噂に一抹の疑念を抱いていた。
「実際には、自ら領主を見限って去ったという話もあるのね…」
報告書を読み進めると、彼が単なる反逆者ではないことが明らかになった。エル・ドライドは冷静な判断力と鋭い洞察力を持ち、その冷徹さからかえって領主との対立を引き起こしたらしい。彼自身がその領主に見切りをつけ、国を去ったというのが実際のところだった。
「なるほど、彼はただの追放者じゃない」
セリカは報告書を閉じ、目を輝かせた。エル・ドライドという男は単なる追放者ではなく、自らの意思で離れた人物だった。そのような人物がディオール領内にいるというのは、彼女にとって大きなチャンスだ。彼の冷静さと知識は、これまでの改革に足りなかった要素を補うかもしれない。セリカはすぐにエル・ドライドについてのさらなる情報を集めるよう指示を出した。
「彼を呼んでみる価値があるわ」
彼女の思考はすでに次の段階へと進んでいた。セリカは、エル・ドライドを領主城に招待し、彼の意見を直接聞いてみようと決意した。彼のような人物がこの領内にいるなら、利用しない手はない。どんな理由であれ、彼がディオール領に移り住んだのは事実だ。それが偶然であっても、彼を自分の仲間に引き入れ、領地運営に参加させることができれば、ディオール領はさらに飛躍するだろう。
エル・ドライドのこれまでの経歴を調べていくうちに、彼の性格についても徐々に明らかになっていった。礼儀正しく、文官としての能力は極めて高いが、感情に左右されることなく、冷徹なまでに論理的な思考を持つという評判が多かった。そして、彼は一度信頼を失った相手に対しては容赦なく切り捨てる冷酷さも持ち合わせているという。
「礼儀正しいけれど、まるで氷のように冷静な男か…」
セリカはその噂を聞いて、自分と彼との対話がどのようなものになるのか想像を巡らせた。エル・ドライドは単なる部下や協力者ではなく、ある種の挑戦者のような存在かもしれない。彼女がこれまでに関わったどの人材とも異なるタイプの人物であり、その冷静さと知識は貴重な資源だと感じていた。
「彼がこの領内にいる以上、放っておけないわ。私が直接会って、彼の力を引き出してみせる」
セリカは自信を持ってそう決意した。彼を仲間に引き入れることができれば、ディオール領の未来は大きく開けるだろう。領地改革をさらに推し進めるためにも、彼女はエル・ドライドとの対話に臨む決心を固めた。
セリカの指示により、エル・ドライドへの招待状がすぐに手配された。彼がどのように反応するかは未知数だったが、セリカは確信を持っていた。彼のような人物が無視するはずがない。少なくとも、彼の興味を引くことには成功するはずだ。
数日後、エル・ドライドから返事が届いた。それは簡潔で礼儀正しい文面だったが、彼がセリカの招待を受け入れ、領主城に赴くことを了承する内容だった。セリカはその報告を聞いて、微笑んだ。
「やっぱり、来るわね」
彼女はその日を心待ちにしながら、エル・ドライドとの対話に備えて資料をまとめ始めた。彼との対話がどのようなものになるか、予測するのは難しいが、彼の知識と経験がこのディオール領の発展に役立つと確信していた。
セリカにとって、エル・ドライドという男との出会いは、領地改革の新たなステップになるかもしれない。そして、この挑戦的な出会いが、彼女自身の成長にもつながると信じていた。