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第31話 ゲオルグ・ルートヴィク・フォン・トラップ1



数か月が過ぎ、学校の教育方針に少しずつ変化が見え始めていた。新任教師のマリアは、もともと平民出身ということもあり、生徒たちにとって親しみやすい存在だった。彼女の着任後、特に平民の生徒たちは、貴族や教師に対する距離を少しずつ縮めつつあり、学校全体に新たな風が吹き込まれているようだった。


そんなある日、セリカは公爵邸で書類を確認していた。そこへ、来客を告げる使用人が訪れる。「お嬢様、マリア・フォン・トラップ様がお見えです。」


セリカは少し驚いたが、すぐに微笑んで、「通してちょうだい」と応えた。マリアが直接訪ねてくるのは初めてだったが、その訪問には何か重要な意図があると感じ取っていた。


ほどなくして、簡素な衣装ながらも堂々とした雰囲気のマリアが現れ、深々と頭を下げた。「お嬢様、突然のご訪問をお許しください。」


「いえ、わざわざありがとうございます。どうぞ、お座りになってください。」セリカは手で示しながら、マリアを座らせた。


マリアは少し緊張した表情を見せつつも、目を見開いた。「やはり…あなたがセリカ公爵令嬢で、学校に通っている『セリカさん』だったとは…驚きました。どうして、あの学校に?」


セリカは微笑みを浮かべて答えた。「マリア先生もご存知の通り、あの学校にはまだ多くの問題があるわ。外からだけでは実情が見えてこないので、自分の目で確かめるために通っているの。」


マリアはその答えに感心した表情を浮かべ、少し頭を垂れた。「お嬢様がそこまで情熱を注いでくださるとは…噂以上の方ですわ。私が平民だったこともあり、生徒たちに公平に接することを大切にしていますが、お嬢様のような信念には頭が下がります。」


「ありがとうございます。でも、形式ばった言葉遣いは気にしなくていいわ。今日はどんな御用かしら?」とセリカは促すように尋ねた。


マリアは少し緊張をほぐし、口を開いた。「実は、お嬢様の教育改革の支援ができる人材を紹介させていただきたく思い、伺いました。私の夫、ゲオルグ・ルートヴィク・フォン・トラップでございます。」


セリカは興味深そうに眉を上げた。「ご主人を…?」


「はい。彼は平民出身の私との結婚にも全く偏見を持たず、人を身分や出自で判断しない誠実な人です。仕事の面でも非常に有能で、学校の運営に必要な実務にも長けています。お嬢様のお力になれると確信しております。」


セリカは静かに考え込んだ。ゲオルグという人物が、ただの紹介だけではなく、実際に学校運営を支える存在となる可能性に思いを馳せた。公正で実務的な観点から運営を支える人材は、今の学校には必要な存在だ。マリアの推薦があるなら、信頼に足る人物であるに違いない。


その時、そばで話を聞いていたドライドが軽く咳払いし、言葉を添えた。「お嬢様、ゲオルグは私も存じておりますが、彼の誠実さは確かなものです。平民出身のマリア殿と結婚するにあたり、身分への偏見を一切持たず、周囲にも揺るぎない信頼を得ている人物です。」


「なるほど、そこまで誠実な方なら、一度お会いしたいわ。」セリカはすぐに決断を固め、真剣な眼差しでマリアを見つめた。「ぜひ、ゲオルグ様にお会いしたいと思います。」


マリアはその言葉に安心したように微笑んだ。「お嬢様にお力添えできることを、夫も喜ぶと思います。近いうちに、お会いする機会を作らせていただきます。」


セリカはその言葉に頷き、さらに思いついたように言葉を加えた。「ただ、お願いが一つあります。学校では、私を『平民セリカ』として扱ってください。これは、学校の実情をより深く理解するためのものですから。」


マリアは一瞬驚いたものの、すぐに理解し、頷いた。「承知しました。お嬢様の決意、改めて尊敬いたします。」


この訪問により、セリカは学校運営のさらなる改善に向けて、大きな一歩を踏み出すことになる。ゲオルグの起用が実現すれば、学校改革は一層推進され、目指していた理想に近づいていくだろう。



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