「ふ……あぁ。ん……寝ちゃってたんだ」
あきちゃんは一晩中私と一緒に寝ていてくれた。
身体を壊した時の特権みたいで、なんだかすごく嬉しかった。
だから、今も隣であきちゃんは寝ている……はずだったのだが。
「……あきちゃん?」
私の隣はもぬけの殻だ。既に起きた? あの寝坊助ぶりだったのに?
もしかすると、具合が悪かった私のために早起きして、昨日と逆にコーヒーを入れてくれているのかもしれない!
そう思うと少し嬉しくなって私はベッドから出た。
「あきちゃ~ん? 早起きだね? 私のためってことー?」
声をかけてみるが、返事はない。
死角にいるのかとも思ったけれど、浴室やトイレを覗いてみてもどこにもいない。
もしやと玄関を見てみると、靴がなかった。
「……朝ごはん、買いに行ってくれたのかな?」
そう思いしばらく待ったが、彼女は一向に帰ってこない。
「なにか……あったのかもしれない」
嫌な予感がした私はコテージの外に出た。
「はぁ……はぁ……」
コテージから管理事務所までは相応の距離がある。
走って向かったがあきちゃんの身を案じて緊張しているからかやけに苦しく感じた。
「あの……はぁ……朝、ここを通った人、いませんでしたか?
」
管理事務所に入るなり、そこにいた人に声をかけた。
コテージ群は柵に囲まれており、この管理事務所の門を通らない限りは外に出られないようになっている。
必然的に監視カメラに映るようになっているのだ。
「あ、現在ご旅行でコテージをご利用中の団体の方ですか」
朝から爽やかな笑顔で受付のお姉さんが応対してくれた。
「そうです……そ、それで……朝、気づいたら連れの子がいなくて……」
「何時頃とかわかりますか?」
「えっと……朝起きてからいなかったから……6時より前のはずです。それで待ってみたんですけど帰ってこなくて……」
現在は午前8時。ちょっと出かけたにしては長すぎるのだ。
「わかりました。確認してみますね」
それから数分後、カウンターのパソコンに向かい合っていた受付のお姉さんが顔を上げる。
「あ、いました。5時頃に外に出てますね」
「5時……何があったんだろ……」
「帰ってないとなると少し不安ですね……その後の動向は流石に私共にもわかりかねますので……」
「そうですよね……ありがとうございました」
「いえ、お連れ様、ご無事だといいですね……」
その言葉は私の胸をひやりと撫でる。
はやく……見つけないと。
私は浮月町の方へ向かった。
「はあっ……はあっ……あ、あきちゃ~ん! どこ~! あきちゃ~ん! ……はぁ……はぁ……」
私は声を上げながらあきちゃんを探した。
しかしそのどこでも彼女の返事が上がることはなかった。
「う……うぅ……どこにいっちゃったの……あきちゃん……」
歩き疲れてうなだれていると、不意に後ろから声をかけられる。
「あれ? 霧江さんじゃん」
それは同じ会社の男の人だった。
「なになにどうしたのー? こんな場所でジョギング? 結構ストイックだよね霧江さんってー」
こんな時に茶化されたくない。適当に話を切り上げてしまおう。
「……わ、私……あき……篠宮さんを探してるんです。彼女を見つけたら戻るんで……ご心配なく……」
「……篠宮さん?」
「はい……ですから……」
「篠宮さんって……ダレ?」
何の含みも無さそうな顔で、彼はそう言い放つ。
「……は?」
「いやいや、え?」
篠宮さんは明るくてみんなの輪の中にいるような人だ。
特に男の人なんかはみんなあきちゃんにデレデレしていたはず……知らないなんてことあまりないんじゃないか。
「篠宮……篠宮 明穂です!」
「あ、あぁ~……はは、そうかそうか。うん、霧江さんそういえばアレだもんね。……ごめんね!今回の旅行はひとりでゆっくりしたいよね……」
「な、なんですか……なんなんですかッ!」
「あ~悪かったって! じゃあごゆっくり!」
そう言うとばつが悪そうな顔をしながらその男は去っていった。
どういう意味? 私をまるで……狂人みたいに……。
「……どうでもいい。あんなひと……あきちゃんを……探さないと……」
ふらふらとした足取りで私は再び歩き出した。