「ああ、おはようございます」
森の中には多くの人がいて、老紳士に挨拶をしていく。
「その子は?」
「あってはならない子です」
「ああ、それは……」
皆それを聞くと納得したように話を終わらせて町の方へ歩いていく。
おそらくこの人たちも皆、生きた人間ではない。
盆入りにこの町を訪れる死者たちだろう。
一見して普通の人間に見えるが、確かな違和感がある。
首が傾いた人、服に血の滲みのある人、凶器が刺さった人……おそらくは致命傷になったものが残っているのかもしれない。
老紳士には目立ったそれはないが、彼の被る帽子は少し大きい。
その下には致命傷となった何かがあるのかもしれない。
「……気になりますか?」
私の思案を見透かしたように老紳士が声をかけてくる。
「い、いや……」
「そう。死んだ者にはその特徴が残るものです。それを見て生者と死者を見分けるものです。あなたは……わかりづらいですが日射病ですね。首の後ろにその名残がある」
おばさんはそれを見て判断したのだろうか……。
「心配することはありません。私たちはこの町に帰ってくることができるのですから。あなたは道理からはずれた迷子です。しっかりとした肯定を踏めば今すれ違った人たちと同じように穏やかに暮らせますよ」
老紳士はこちらに笑いかける。
さっきの恐ろしい顔は私を牽制するためだったのだろうか、今は優しげな顔をしている。
「だったら、あきちゃんと一緒がいい……」
「お友達ですか? 残念ながら生きた人とは……しかし、いずれはその方も亡くなられることですし、その時にでも……」
「あきちゃんは、私なんだって」
それを聞いた老紳士は苦い顔をする。
「……あぁ、片割れの子、ですか」
「なに? 都合の悪そうな言い方をして」
「残念ですが、その方だけは諦めていただきたい。なにしろそれは、あなた自身の肉体ですから。分かれるべきものなのです」
「いやだよそんなのッ!」
「無理を言うのはおやめなさい!」
私はまるで駄々っ子のようにそれを拒絶する。
自分でも自分が抑えられない。
今私を縛っている理性やプライドなんてものはなにもないのだから。
「離してっ! 私は! あきちゃんと行くんだから!!」
無理やり老紳士の拘束を解いた私は走り出した。
祠へと続く森の中をひたすらに走った。
後ろから彼が追いかけてくる気配も感じるし、周りの死者たちもすれ違いざまに私の方へ振り向き追いかけてくる。
それでも私は、振り返らずに走った。