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第4話 遊びに行こうよ!

 月末は、色々提出書類整理が忙しい。

ずっとパソコンとにらめっこで頭が痛い。

あー、会いたい、会いたい、美里に会いたい。

会わないと、どれだけあいつがストレスの中で救いになってたかがわかる。俺の心の女神(仮)よ、俺の隣にいてくれ。

顔を上げて、隣を見る。同僚がストレスまみれの顔で怪訝な顔をした。


「お前さ、彼女出来ただろ、くっそムカつく。」


「悪いな、幸せですまない。」


「ムカつくーーー !! 」



それが終わって無事に月も明けた頃、ヤギがLINEくれた。

昼の仕事辞めて、夜の仕事も他の部署に行くらしくて、少し時間が出来たらしい。


〈どこか行かないか? 俺も今後まとまった休み取れるなんてないと思うからさ〉


「どこかって、金のかからないとこかな? そうだ、思い切って聞いてみようかな? 」


〈一泊する? 〉


無理だろうけど、まだ再会して付き合いは浅い。親睦深めるには泊まりは最高だけど、俺の理性が爆発しないか心配だけど。


〈いいよ、支度金貰ったから〉


えーーーーー !! マジか、来た!


こんな返事が来るなんて、思わず俺は顔が真っ赤になった。


〈支度金? なんだそれ? 〉


〈次の仕事のだよ、近場の温泉どう? 〉


「ああ! いいねえそれ! 仕事で改装を世話した旅館、いいとこだったな。」


〈あかつき温泉の旅館どう? 俺がおごるよ〉


〈ちゃんと払うよ、じゃあ今度の土曜? 金曜から行く? 〉


〈いいね、金曜から2泊しようぜ。休み取って予約しとく! 〉


〈あ、待って、2泊目、俺が知ってるとこに泊まろう。食事買ってさ〉


〈いいよ、金曜だけ予約しとくな〉


アプリを閉じて、思わずその場でくるくる回る。周りの冷たい視線を浴びて、服を直し背中をしゃんと伸ばした。

まあ、男2人で温泉とか、この年でどうだろうと思う。

まるで、恋人同士じゃ……


「恋人? 」


ボッと顔が赤くなった。

ヤギの後ろ姿が目に焼き付いている。

凄く、 なんか凄く、色っぽい。

あいつが夜の仕事の制服のスーツ着てドーナツ屋来たときは、俺はもう、舞い上がってなに喋ったのか覚えてなかった。

まあ、絶対言えないけど、俺はあいつに惹かれてる。絶対言えないけど。


休み時間終わって、部署に戻ってると同僚に声をかけられた。


「三井、部長が呼んでたぞ。」


「え? 部長が? 」


「はは、お前なんかした? 」


いや、そんな覚えはない。

無いけど、結果的になんか起きたのかもしれない。ドキドキしながらデスクに急ぐ。

すると、隣の会議室に呼ばれた。


「お前、[[rb:八田 > はった]]班が取り組んでるリゾートホテルの土地買収知ってるよな。」


「あ、ああ、はい。そりゃあ知ってますよ、大きいプロジェクトですから。」


「それが上手く行ってないんだ。眺望のいい、肝心の場所が取れなくて困ってる。」


「どういうことです? 」


「お前、鳥嶋高校の56期だよな。」


「え、ええ。」


「谷木美里って知ってるか? 」


「 え?! 」


それ、ヤギの名前じゃないか?


「さあ、ちょっと覚えてないですね。」


「そうか~、説得頼もうかと思ったんだが、親から別荘継いでるんだよ。

住んでないからさっさと売ってくれればいいのに、頑として話も聞こうとしない。

借金まみれの貧乏人なのに、頑固で話も聞いてくれんらしい。

思い出したら声かけてくれ。」


貧乏人か、嫌な言葉だ、ムッとした。


「はい、わかりました。」


会議室出て、自分のデスクに戻る。

ヤバい、調べられたら一発でわかる。

きっと担当は卒業アルバム手に入れてる、俺の名前を確認したんだ。


そう言えば、昔夏休みに別荘も行ったことある。

あいつの家は旧家で、家はデカいがとにかく古くて住みにくいとぼやいてた。

遺産は不動産ばかりで、大卒すぐの彼は相続税に苦しんでいて、訪ねた俺はあいつのためにプランを練った。

持て余した家を俺の会社に売り、税金払って建設中のマンション買って、残りの支払いは20年で返すという、無理のないものを提案した。


俺は自信を持って、相談に乗って仕事した。

のに、会社は倒産、マンションは実態の無い物だった。


目の前が真っ暗になった。


あいつに謝ろうと家に行ったけど、すでに債権者による取り壊しの工事が始まって、凄いスピードでタワマンが建った。

俺はハメられたんだと怒りがわいた。

でもあいつ、別荘いまだに持ってたなんて一言も言わなかったし、売れば借金なんてすぐに返せるのに……


『あいつらの、思い通りになんかするものか。』


あの言葉……


そうか、思い出の家を、残った思い出を、放棄したくなかったのか。

また奪われ、壊されて建つのだ。今度はホテルが。

俺は、どうしたらいい?


「おい、三井。」


八田の声に、ドキッと心臓が跳ねた。


「ちょっと来いよ。」


「今忙しいんだ。」


「忙しくないだろ? いいから来い。」


仕方なくついて行く。廊下の自販機コーナーだ。誰もいないのが余計辛い。

遠慮無く責められる。

そしてここは、閉鎖してないだけ聞いてる奴もいるし参戦者が増える。

前の会社が倒産して入った俺と違って、八田は大学同期でも卒業後すぐ入社した先輩だ。


「お前、知らないそうだな。谷木のこと。」


「知らないね。」


座れと言われ、ベンチに座る。

八田は俺を見下ろして立っている。嫌な状況に、まるで尋問されてるようだと思った。


「これ、見ても知らないって言うのかよ。」


八田がポケットから、数枚の写真を出し俺の横に放った。

それはドーナツ屋で楽しそうに話している、俺とヤギの写真だった。


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