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第21話

……目が覚めた時、俺は豪華な寝台の上に横たわっていた。


 天蓋付きのベッド、絹のシーツ、窓から差し込む暖かな光。それらが、この場所が病室ではなく、王宮の医務室であることを物語っていた。


 「今度は……どこだよ」


 ぼそりと呟いた声に応えるように、引き戸が音を立てて開く。


 「おおお、目が覚めましたか」


 入ってきたのは、黒いスーツにマントを羽織った丸坊主の男だった。眼鏡をかけたその顔には笑みが浮かんでいるが、どこか得体の知れない気配を漂わせている。


 「私はメント。王室付きの医者です。目覚めて早々申し訳ありませんが、クライス王がお呼びです。ご案内いたします」


 メントは礼儀正しく頭を下げ、引き戸を押さえて待っていた。


 ……なんだ、このハゲ。ついて行けばいいんだろ? けど――


 彼の耳を見た瞬間、俺の中で警戒心が一気に跳ね上がった。


 ――尖っている。


 アリスと同じ、こいつは間違いなく“人間を喰う”側のエルフだ。


 ……もう迷わない。この世界で雪を救うためなら、たとえ誰であろうと、殺してやる。


 俺はポケットに手を入れ、ナイフを探る――


 ……ない。ナイフも、拳銃も、すべて取り上げられていた。


 「……!」


 その瞬間、メントが足を止め、こちらを振り返った。


 「変な気は起こさないことです。あなた方の世界など、我々にかかれば――二分で滅びますよ」


 声色は穏やかだが、その言葉は氷のように冷たかった。


 「ご安心を。我々はあなたを喰うわけではない。……たとえ、あなたが“人間の家畜”であろうと、ね」


 俺は無言で唾を飲み込んだ。


 長い廊下を抜け、大きな扉の前にたどり着く。鎧を着た兵士が恭しくその扉を押し開けた。


 まばゆい光が差し込む玉座の間。奥にある高い椅子――そこには、昼寝でもしていたのか、頬杖をついた男がだらしなく座っていた。


 青のスーツに赤いマント、整えられた髭。男はゆっくりと目を開けた。


 「んあぁ……?」


 間の抜けた声を漏らしながら、男は俺に視線を向けた。


 「彼がアルタイル王国の王、クライス王だ」とメントが紹介する。


 「……あれが、クライス王かよ」


 「すまんすまん、昼寝が好きでね。仕事のないときはほとんど寝ているんだ」


 クライス王はあくび混じりに言いながらも、俺の目をじっと見据えた。


 「ふむ……君が“世界を繋ぐ力”を持つ人間か」


 「よう、元気そうだな」


 声がして、部屋の陰からダグとコロウが現れた。


 「無事のようじゃな」コロウが頷く。


 「じいさん、あんたが事情を話してくれたのか?」


 「ああ、そうだ」


 「――クライス王。教えてくれ。この“力”は、いったいなんなんだ」


 クライスは立ち上がり、玉座から降りながら語り出す。


 「我々はその力を“ウォーク”と呼んでいる。世界と世界を繋ぐ力だ」


 「……ティードの目的は、そのウォークの使い手同士に子を産ませること。だがこの力はエルフには発現しない。だから奴らは、人間の世界から女や子供をさらっていたのだ」


 頭の中で何かが繋がった。トンネルで俺を襲ったあの男――


 「ティードの配下に“ガウス”という人間がいる。彼もウォークの使い手だ」


 間違いない。あの時のヤツだ。


 「なぜ君たち人間にウォークの力があるのかは、我々にも分からない。だが、君の力は――間違いなく、この戦いの鍵になる」


 「……言いたいことは分かった。それで? 結局、何が望みだ」


 クライス王の声が、静かに、だが力強く響いた。


 「――我々に力を貸してくれ。ティード海賊団を、共に潰そう」

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