作戦会議
「作戦は――こうだ」
クライス王が玉座に腰かけたまま、重々しい口調で口を開いた。
「……雪を取り返せるなら、なんだってやる! 話してくれ!」
俺が前のめりに叫ぶと、クライスは静かに首を振った。
「まず、君は前線には出るな」
「……は?」
言われた瞬間、耳を疑った。
「君のウォークの力は、極めて危険かつ強力だ。使い方によっては、戦況を180度変える可能性がある」
コロウが続ける。
「おそらくティード側も、同じくウォーク能力者であるガウスを前線には出さないだろうな。簡単に失うには惜しい駒だ」
心の中で舌打ちした。せっかく、奴らを一人残らずなぶり殺す絶好の機会だと思ったのに。どいつもこいつも、俺の中の怒りを知らない。
エルフどもの絶望に染まった死に顔を、じっくりと――拝めると思ったのに。
「ふはは、お前、今とんでもねぇこと考えてただろう?」
笑いながら声をかけてきたのはダグだった。
「……え? なんでわかった。もしかして、それも魔法か?」
「いやぁ、すまねぇな。ちょっと一般人に意地悪しちまっただけだ」
カチン、と来た。
「どいつもこいつも……俺を雑魚扱いしやがって。そんなにすげぇ力を俺が持ってるってんならよ、使い方の一つくらい教えてくれてもいいだろ。いいか? 俺はまだお前ら人喰い種族を信用してねぇからな」
俺は指を突き立てて言い放った。
「いざとなりゃ、もう一回世界を繋いで――俺の世界の警察隊をお前らにぶつけてやるよ!」
その時、静かにコロウが言った。
「……お前に、力や魔法の使い方を教える時間が、もうないのだ」
クライスが言葉を継ぐ。
「ティードは、すでに港町ダイアリーを占拠している。王都にまで被害が及ぶのも時間の問題だ」
メントが一歩前に出て、真面目な顔で語る。
「ティード海賊団は近年、急速に勢力を伸ばしています。今や彼らの暴走を止められるのは、一国の軍でも難しい……」
クライスの声が、ひときわ低くなった。
「だが、ダイアリーを襲った最大の理由は――君だ」
「俺……?」
「ティードたちは、君の存在を恐れている。ウォークの力を持ち、かつその凶暴性……いつ、どんな形で牙をむくか予測できない。だからこそ、君を確保しようとした」
「……確保?」
「ガウスが死んだときの“補欠”として、君を冷凍保存するつもりだった。だが――その計画は、君がダイアリーで泥棒を捕まえた事件で狂った」
クライスの目が、俺の瞳を射抜いた。
「君は、あまりに“凶暴”だったのだ。彼らにとって、管理不可能な存在だ」
「それで、町ごと占拠したってのか?」
「最後に君が目撃された場所であるダイアリーを、あいつらは包囲した。ウォークの力をコントロールされる前に、“排除”しようとしたんだ」
「でも、もう遅かった」ダグが口を挟んだ。
「俺があの時助けなきゃ、お前バラバラにされて海に流されてたぞ。二度と生き返れねぇようにな」
……そんな、あぶねぇ話だったのか。
「……わかった。で、結局俺は、何すりゃいいんだよ」
「君はコロウと共に動いてもらう。彼は見た目こそ老いているが、銃の腕は超一流だ。いざとなれば、必ず君を守る」
コロウが無言で小さく頷いた。
「そして、前線にはこの私と、騎士団が出る」
「王様も戦うのかよ」
「クライスはめっちゃ強いぞ。ティードとタイマン張れるレベルでな」ダグが笑う。
「我が騎士団には、ダグとメント。そして今は不在だが――クリス、カノン、カイラという者がいる」
「カイラは今、ハミット王国で王子の護衛任務に就いている。今回の戦には戻れんだろうな」
その時――
ガチャリ
重々しい音とともに扉が開き、スーツ姿の若い金髪の男と、制服を着た短髪の少女が姿を現した。