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第23話

 「ただいま戻りました、陛下」


 高身長の金髪の青年が、礼儀正しく告げた。整った顔立ちと涼しげな目元、どこか近寄りがたい空気を纏っている。


 続いて、制服姿の短髪の少女が、伸びをしながら間延びした声を上げる。


 「ふわぁ〜、ただいまですぅ〜」


 クライス王が玉座から彼らに目を向けた。


 「ちょうど良いところに来たな。お前たちの話をしていたところだ」


 少女はぱっと顔を輝かせて、こちらに歩み寄ってくる。


 「おぉっ!君が悠くんだね!? ウォーク能力者の人間さん!」


 その無邪気な笑顔に、思わず身構える。


 「おい、人間。カノンから離れろ」


 金髪の剣士が低く鋭く言い放った。


 「こいつが勝手に寄ってきたんだろうが」


 「カノン、そんな家畜の元に近寄るな。臭いが移る」


 その言葉に、悠の中で何かがはじけた。


 「おい金髪……殺されてぇのか? あ?」


 「だったらどうする。丸腰の貴様に、俺が倒せるか?」


 悠はポケットに手を突っ込み、吠えた。


 「死にてぇみたいだな……繋がれぇ!」


 突如、空間が裂け、ゲートが出現する。向こう側から、ものすごい勢いでトラックが突進してきた。


 「うわぁぁぁぁあああ! なんなんだよぉぉー!!」


 運転手の悲鳴も虚しく、トラックは金髪の剣士へと突っ込んで——


 轟音と共に王室の床が爆発的に揺れた。


 煙の中、金髪の男は一歩も動かず、無傷でそこに立っていた。


 「ふん。この程度か。世界を繋ぐ力を持つ人間とやらは」


 「……あはは、さすがに殺せねぇか」


 場の空気がぴりつく中、制服の少女が慌てて割って入る。


 「お、おちついてよ! 二人とも! 喧嘩してる場合じゃないでしょ!?」


 彼女は剣士に寄り添い、その様子を気遣うように尋ねた。


 「どしたの? つらいことあった? 貴方のお話、いっぱい聴きたいな」


 剣士は目を細め、ようやく表情を緩めた。


 「あぁ、すまん。少し気が張っていたようだ」


 悠がクライス王に向き直る。


 「で、こいつらも騎士団ってやつか?」


 「その通りだ。雷鳥の魔法を操るクリスは、極めて高い機動力を誇る剣士。そしてカノンは、まだ学生ながら剣の腕は一級品だ」


 「クリスが失礼なこと言ってごめんね。私はカノン! あなたとも仲良くしたいな。よろしくね!」


 悠は苦笑しながら応じた。


 「こっちも悪かったよ。……にしても、綺麗な顔してんな。学校じゃモテるだろ?」


 「うん、まぁ。でも私にはクリスがいるから! それにね、わたし“男”なの!」


 「……は?」


 信じがたい。どこからどう見ても、顔も体も声も、完璧に女の子だ。


 「カノン! そんな奴と話すな! 戻ってこい!」


 「はぁーい」


 カノンは駆け寄り、クリスの右腕にぴたりと寄り添った。


 悠は思わずため息をつく。


 (まともなのは、あのハゲの医者くらいか……)


 「こいつらが我がアルタイル騎士団だ」


 王の宣言と共に、空は不穏に揺れ始めた——




 王都上空。


 鳥の姿をした男の背中に、忍者のような装束の男が乗っている。


 「ほぉ……攻めてくるか」


 「ケケケ、船長に報告せねばな、ジャック」


 「戦争か……待っていたぞ。この忍術で奴らを蹂躙してくれる」


 「やめておけ。お前の技は戦には向かん」


 「ふふふ……あなどるな。私は鍛錬を重ねてきた。探偵は必ずこの手で仕留めてみせる」




 ──港町ダイアリー。


 風を切り、鳥と忍者が海賊船へと舞い戻る。


 「ただいま戻りました、ティード様」


 甲板に降りると、彼らは恭しく跪いた。


 「……今はやめろ。ワイン飲みすぎて気持ち悪いんだ……うえぇ」


 ティードは口元を押さえながら顔をしかめる。


 「ティード様、敵はこちらに向かっております」


 「私にお任せください。あの忌々しい探偵、今度こそ始末してみせましょう」


 「女、こっちに来い」


 声が凍りつく。下着姿で首輪をつけた少女が、視線を伏せて立っていた。


 「……」


 「来いと言ってるんだ」


 ぎり、と睨みつけると、少女はとぼとぼと近づき、ティードに腕を引き寄せられた。


 「貴様は人質だ。探偵に手出しをさせんためにな。だが、問題はクライスだ……奴はたとえ貴様が死んでも構わず攻撃してくるだろう」


 「……やめてよ。お願い……家に帰して……」


 ティードは冷笑を浮かべた。


 「俺にとってもこの戦いは賭けだ。勝てば運が良い」


 「俺の暗黒砲か、クライスの光魔法か……」


 「どちらが上か、楽しみだ」


 そう言って、男はワインを手に、上機嫌で笑った。


 そして——


 “海の決戦”が、いま幕を開けようとしていた。

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