「おいおい、だらしねぇなぁ……海のクズどもがよォ!」
ダグが咆哮しながら、水のイルカ《ドルフィンズ》を引き連れてダイアリーの街へ突撃した。水飛沫を上げ、魔法生物たちが後を追う。
「騎士団のダグが来たぞ! やっちまえ!」
海賊の下っ端たちが慌ててショットガンを構え、一斉に引き金を引く。
――バン! バン! バン!
銃弾がダグの身体めがけて飛ぶが、そのすべてが水の盾に阻まれる。
「ぬるいんだよォ! てめぇらの攻撃はァ!」
ドルフィンズを身に纏いながら、ダグは怯むことなく突き進んだ。
すると、瓦礫の向こうから巨体が現れる。全身が角張り、まるで四角い岩の塊のような男だった。
「お前ら、下がってろ」
その声に、海賊たちは慌てて退いた。
「てめぇが俺を楽しませてくれんのか? あぁ?」
ダグがにやりと笑う。相手の男は周囲の空気をクンクンと嗅ぎ始めた。
「……薬物の匂い。これは枯枯草……さては、キメてきたな」
「せいかーい!! 俺を殺せるやつなんざ、この世にいねぇ!」
「哀れな男だな。まさか王国を守る軍にこんな奴がいるとは」
「俺ぁな、愛国者なんだよォ! 国のためなら、何したって許されんだよ!」
ダグは背中の竹槍を抜き、渾身の一撃を叩き込んだ。
――バシィン!
槍が岩男の頬を直撃する。だが、男は微動だにしなかった。
「普通のエルフなら、今ので死んでる。かてぇな、お前、幹部だろ?」
「その通り。ティード海賊団幹部、ガーゴンと申す」
岩のような肉体を持ち、いかなる攻撃にも耐える魔法の使い手——
「岩石化魔法か」
「聞いているぞ、貴様が騎士団最強らしいな」
「だったらどうした」
「ならば、ここで潰すまでだ!」
ドンッ!
ガーゴンの平手打ちがダグの頬を捉えた。
「ぐげぇええ!!」
ダグの身体は吹き飛び、焼け焦げた民家に叩きつけられる。
「残念だったな。最強はこの俺だ」
雷鳴が空を裂いた。
――ズババババッ!
電撃の残光とともに、金髪の剣士・クリスがガーゴンの背後に現れる。
「は、速い……!」
次の瞬間、雷を纏った剣がガーゴンの身体を叩きつけた。
「ぐはぁ!」
ガーゴンが吹き飛び、地面を転がる。
「俺の魔法は“雷化”。雷を自由に纏い、移動も攻撃もできる」
そのとき、上空から羽音が響いた。
「間抜けが。防御に全振りした貴様では話にならんわ、ガーゴン」
バサバサと羽ばたきながら、鳥の姿をした男が舞い降りてくる。
「バードリー……貴様も幹部か」
「五年ぶりだな、クリス。元気そうで何よりだ」
ティード海賊団創設当初からの幹部。鳥に変身する術を使い、空中からの奇襲を得意とする男だ。
「悪いが、再会を喜んでる時間はねぇ。ここで死んでもらう」
「ケケケッ、それでこそ! 速さ比べと行こうじゃないか!」
そう言うや否や、バードリーは空へと舞い上がる。
「飛びやがったか! 反則だろうが!」
「悔しければ、お前も飛べばいい!」
クリスはため息混じりに右腕を天に突き出した。
「来い、
雷鳴が爆ぜ、光の中から雷の鳥が現れる。クリスの雷魔法を凝縮し、具現化された無機の使い魔だ。
※雷鳥とは、クリスが意のままに操る“雷”をまとめて形成した魔法生物である。ダグの《ドルフィンズ》と同様、実体を持つエネルギー体だ。
「おい、金髪、俺の魔法パクんなよ……」
瓦礫の中からダグが這い出てきた。
「勝てりゃ何でもいいんだよ、薬中兵士さん」
「……それもそうだな」
だがその時、瓦礫が爆ぜ、轟音が響く。
――バコォン!!
ガーゴンが再び姿を現す。
「まだだ! まだ終わってない!!」
その不屈の闘志に、ダグは口元を歪めて笑う。
「今度は本気でやる。覚悟しろよ、岩野郎!」
「こちらも同じく、だ!」
雷鳴と銃声、水飛沫と羽ばたきが交錯する——
ダイアリー奪還戦、開幕。