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第26話

 「このまま……何もせずに待ってろってのか……?」


 目の前に雪がいる。それなのに、ただ黙って見ていることしかできない。俺はじりじりと歯噛みしていた。


 「気持ちはわかる、恋人をすぐにでも助けに行きたいのじゃろう。わしも同じじゃ」

 コロウが低く言った。

 「だが、船にはティードがいる。命が惜しければ、騎士たちが敵を殲滅するまで待つんじゃ」


 隣では、クライスが天に剣を掲げ、力を蓄えていた。


 チャキン……。


 突然、クライスの動きが止まった。構えが変わる。


 「どうしたんだよ?」


 「……誰か来る」

 コロウが呟く。

 「空から、強いのが」


 「な、なんか来るのか……!?」

 俺は慌てて拳銃を抜き、前に構えた。


 「悠、下がれ」

 クライスが前に出て、剣を構える。


 ヒューン――


 スタッ。


 空から降り立ったのは、忍者姿の男と、あの魔女だった。


 「お前……俺の呪い、早く解けよ!」

 俺は思わず叫んだ。


 「君を狙いに来たんだけど、王様と銃ジジイも一緒とはね」

 ヴェンデッタは楽しげに笑った。


 「簡単にはいかんようだな」

 ジャックが二刀流の短剣を抜いた。


 「いいか、忍者はさほどでもないが、魔女には気をつけろ。魔法の腕は桁違いだ」

 クライスが低く告げた。


 「……俺が強くない、だと?」

 ジャックの目が細くなる。


 「私は忍者をやる。コロウ、お主は悠を守りつつ、魔女を引き受けろ」


 「無茶を言うわい」

 コロウが苦々しく返した。


 「行くぞ」

 ジャックが跳ねる。


 キィン!


 短剣が閃いたが、クライスは剣でそれを受け止めた。


 「この程度か。海賊団の幹部とはがっかりだな」

 クライスは鼻で笑い、

 「ふんっ!!」


 そのままジャックを左手で掴み、地面ごとぶん投げた。


 「あなたはステルス向きでしょ? 正面から王様に挑んで勝てるわけがないわ」

 ヴェンデッタがクスリと笑う。


 「この場所を選んだのは貴様だろうが! ヴェンデッタ!」

 ジャックが怒声を上げる。


 「ふふふ、あなたがここで死んでくれれば、新しい船長候補が減って助かるのよ」


 バァン!


 銃声が響いたが――


 「無駄よ、お爺さん」

 ヴェンデッタは影のようにすり抜けた。


 「なるほど、投影か」

 コロウが渋く言った。


 「ご名答。本体は船よ」

 ヴェンデッタはにやりと笑った。


 その瞬間――


 ザクッ!


 ジャックが馬車の御者の首元を切り裂いた。


 「こっちだぁ、王様ァ!」

 運転席に乗り込むと、馬車を走らせた。


 「乗ってやる、その勝負」

 クライスが地を蹴る。


 ダダダダッ!


 馬車と並んで全速で走るクライスを見て、俺は目を見張った。


 「マジかよ……走って追いついてる……」

 「油断するな。来るぞ」

 コロウが俺をかばうように前へ出る。


 「――呪法ツンドラ

 ヴェンデッタの杖が光った。


 ズバァン!


 紫色の魔法光線がコロウを襲うが、彼は紙一重でかわした。


 「オイ! こっちだッ!」

 俺もたまらず引き金を引く。


 バン! バン! バン!


 だが――


 「無駄だって言ったでしょ? 本体は“船”だって」

 ヴェンデッタは影のように消えて笑った。

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