「このまま……何もせずに待ってろってのか……?」
目の前に雪がいる。それなのに、ただ黙って見ていることしかできない。俺はじりじりと歯噛みしていた。
「気持ちはわかる、恋人をすぐにでも助けに行きたいのじゃろう。わしも同じじゃ」
コロウが低く言った。
「だが、船にはティードがいる。命が惜しければ、騎士たちが敵を殲滅するまで待つんじゃ」
隣では、クライスが天に剣を掲げ、力を蓄えていた。
チャキン……。
突然、クライスの動きが止まった。構えが変わる。
「どうしたんだよ?」
「……誰か来る」
コロウが呟く。
「空から、強いのが」
「な、なんか来るのか……!?」
俺は慌てて拳銃を抜き、前に構えた。
「悠、下がれ」
クライスが前に出て、剣を構える。
ヒューン――
スタッ。
空から降り立ったのは、忍者姿の男と、あの魔女だった。
「お前……俺の呪い、早く解けよ!」
俺は思わず叫んだ。
「君を狙いに来たんだけど、王様と銃ジジイも一緒とはね」
ヴェンデッタは楽しげに笑った。
「簡単にはいかんようだな」
ジャックが二刀流の短剣を抜いた。
「いいか、忍者はさほどでもないが、魔女には気をつけろ。魔法の腕は桁違いだ」
クライスが低く告げた。
「……俺が強くない、だと?」
ジャックの目が細くなる。
「私は忍者をやる。コロウ、お主は悠を守りつつ、魔女を引き受けろ」
「無茶を言うわい」
コロウが苦々しく返した。
「行くぞ」
ジャックが跳ねる。
キィン!
短剣が閃いたが、クライスは剣でそれを受け止めた。
「この程度か。海賊団の幹部とはがっかりだな」
クライスは鼻で笑い、
「ふんっ!!」
そのままジャックを左手で掴み、地面ごとぶん投げた。
「あなたはステルス向きでしょ? 正面から王様に挑んで勝てるわけがないわ」
ヴェンデッタがクスリと笑う。
「この場所を選んだのは貴様だろうが! ヴェンデッタ!」
ジャックが怒声を上げる。
「ふふふ、あなたがここで死んでくれれば、新しい船長候補が減って助かるのよ」
バァン!
銃声が響いたが――
「無駄よ、お爺さん」
ヴェンデッタは影のようにすり抜けた。
「なるほど、投影か」
コロウが渋く言った。
「ご名答。本体は船よ」
ヴェンデッタはにやりと笑った。
その瞬間――
ザクッ!
ジャックが馬車の御者の首元を切り裂いた。
「こっちだぁ、王様ァ!」
運転席に乗り込むと、馬車を走らせた。
「乗ってやる、その勝負」
クライスが地を蹴る。
ダダダダッ!
馬車と並んで全速で走るクライスを見て、俺は目を見張った。
「マジかよ……走って追いついてる……」
「油断するな。来るぞ」
コロウが俺をかばうように前へ出る。
「――
ヴェンデッタの杖が光った。
ズバァン!
紫色の魔法光線がコロウを襲うが、彼は紙一重でかわした。
「オイ! こっちだッ!」
俺もたまらず引き金を引く。
バン! バン! バン!
だが――
「無駄だって言ったでしょ? 本体は“船”だって」
ヴェンデッタは影のように消えて笑った。