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第3話

会場は一瞬にしてざわめき立った。

「つまり……」オークションの司会者が驚きながら尋ねた。


男性は説明した。

「失礼、私は風間家の秘書です。風間様のご指示により、今日は琴音様がご所望の品物はすべて無制限で落札させていただきます。」


「風間家?琴音さんと同じ世代なら、風間家の唯一の後継者?北区で有名な御曹司の?」


「女性には興味がないはずでは?なぜ琴音さんのために?」


周囲の囁き声が絶え間なく続いた。桐谷琴音は一瞬驚きの表情を浮かべ、その後喜びに変わり、やがて抑えきれない得意げな表情になった。


「風間様はどちらにいらっしゃいますか?直接お礼を申し上げたいのですが。」


「風間様は現在不在でございます。お会いできる時が来れば、自然とご挨拶に伺われるでしょう」


「そうですか…ありがとうございます。」


桐谷琴音はようやく美月の方に視線を向け、勝者の喜びに満ちた目で言った。

「お姉様、まだ続けますか?」


そして無邪気そうにさらに言った。

「あ、そういえば、風間様が買ってくださるんですもの。この業界で、風間様ほどのお金持ちの人は他にいないでしょう?お姉様、大丈夫ですか。」


美月の顔色が一変し、深山一真の方を激しく睨みつけた。

彼は桐谷琴音を優しい眼差しで見つめていた。


その後のオークションはまるでドラマのようだった。


桐谷琴音が品物に目を向けるたびに、秘書は手を挙げる。


そのルビーのネックレス、ティーセット、さらには開始価格が八千万円の絵まで、すべて桐谷琴音のものとなった。


美月は思わず立ち上がり、とうとう我慢できなくなって秘書に問い詰めた。

「風間様は、一つも残さず買い占めるおつもりですか?」


秘書は深山一真を慎重に見て、彼が微かに頷いたのを確認すると、


「すみません、美月様。」秘書は冷たく答えた。

「これはすべて琴音さんへの贈り物です。風間様は琴音さんが今回のオークションを楽しんでいただけることを望んでおり、他の方々の気持ちは考慮しておりません。」


美月は嘲笑い、指を握りしめた。


彼女は深山一真を見たが、彼は気にせず桐谷琴音を見続けている。


深山一真、いい加減に…。


本当に、いい加減にしなさい!


オークションが終わると、桐谷琴音は名流や貴婦人たちに囲まれ、皆にちやほやされていた。


美月はその偽りな光景を耐えられず、速足で会場を離れた。


車に乗ると、運転手に言った。「「夜行」までお願い。」

自分を麻痺させるためにアルコールが必要だ。


ところが、車のドアが閉まる直前、桐谷琴音が入り込んできた。

「お姉様、クラブに行かれるの?最近、私もちょっと退屈していたの。私も連れて行ってよ!」


美月が彼女を車から追い出そうとしたその時、深山一真は無表情で車のドアを押さえ、運転手に命じた。

「発車させろ。」


車の中で、桐谷琴音は今日のオークションについて興奮気味に話し続けた。


「一真さん、どうして風間様は私にこんなに優しくしてくれるんでしょう?面識もないのに。」


深山一真の声は驚くほど優しかった。「君が好きだからだ。」


桐谷琴音は目を大きく見開き、顔を赤くした。「一真さん、からかわないでください!」


「男同士だから、彼の気持ちがわかる。」彼は真剣に桐谷琴音を見つめながら言った。

「お金のあるところに愛もある。琴音、可愛いから、君を好きになるのも当然だ」

「じゃあ……一真さんも私のことが好きなんですか?」桐谷琴音が突然尋ねた。


深山一真は一瞬固まったが、言おうとしたその時、美月が冷ややかに割り込んだ。

「イチャイチャするなら、外に出なさい!これは私の車よ!」


桐谷琴音はすぐに目を潤ませた。。

「ごめんなさい、お姉様。うるさかったですね。静かにします。」


美月は彼女に構わず、窓の外を見つめた。


窓ガラスの反射で、深山一真が桐谷琴音を見つめる眼差しが優しさと温かさに満ちていることがはっきりと見えた。その一方で、自分に向けられる視線は冷たく、嫌悪に満ちていた。

 。

彼女は自嘲的に笑った。


偽りの仮面に騙される哀れな男だ。


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