「夜行」の灯りが揺れる中、美月は首を傾け、三杯目のウィスキーを流し込んだ。
アルコールが喉を焼き尽くすように感じるが、心の中に渦巻くモヤモヤは消えない。
ダンスフロアの中央で、美月は細いヒールを響かせて激しく踊っていた。
赤いドレスがひらひらと翻る中、ふと視線を横に向けると、深山一真がカウンター横に立っていた。
本来なら美月の傍にいるはずなのに、今は一歩も桐谷琴音から離れずに守っている。
桐谷琴音は何かを言っていたらしく、彼女は深山一真近づけ、唇が彼の耳元に触れそうになっていた。
その冷徹な男が、桐谷琴音に近づかれるたびに、耳先がほんのり赤くなる。
美月は冷笑を浮かべた。
振り向くと、美月の周りはすでに若い男たちに囲まれていた。
「美月さん、飲みに行こうか?」
「LINE交換しませんか?」
「ずっと会いたかったんだ、美月さん。噂以上に美しい。」
美月は追い詰められ、動けなくなった。
断ることもできず、男たちはどんどん寄ってきて、なかには彼女の腰に手を回す者もいた。
「深山一真!」美月はもう我慢できず叫んだ。
その時、彼はようやく彼女の困っている様子に気づき、眉をひそめて人混みをかき分けて歩み寄った。
黒いスーツが彼の筋肉を際立たせ、一目で周囲の若者たちはしぶしぶ後ろに退いた。
「申し訳ございません。困っているところ、気づけませんでした。」深山一真は美月に向かって低く言った。
「知らなかった?」
彼女は一歩近づき、紅い唇がほぼ彼の顎に触れる。
「それとも、知りたくなかった?」
彼女の息がふっと近づき、深山一真は喉を一度ごくりと鳴らして後退りながら言った。
「お嬢様、酔っています。」
「安心して、私が嫁に行けば、桐谷琴音の世話は存分にさせてあげるわ。」
美月の声は、その時、舞台から突如として響いた叫び声にかき消された。
スタッフが鉄の檻を持ってきて、中には二匹の犬が興奮しながら歩き回っている。
「今夜の特別ショー!」司会者が興奮して叫んだ。
「ブラックストリームVSレッドファイヤー、ベット受付開始!」
美月は眉をひそめた。
「夜行」ではこうした血生臭い闘犬ショーがよく行われているが、彼女はそれが嫌いだった。
立ち去ろうとしたその時、鉄檻が「ギシギシ」と音を立て、錠が緩んで開いた。
その一瞬!
大きな犬が檻の扉を押し開け、人々に向かって猛然と突進してきたーー!!
周囲の叫び声が響く中、美月は深山一真が即座に反応したのを見た。彼は桐谷琴音を必死に抱きかかえ、震えるように安全通路へと向かっていた…
その同時に、 涎のついた獣の牙が美月の目の前に迫っていた。美月は恐怖に凍りつき、その場に立ち尽くして動けなかった…
「アァ……」
激しい痛みが全身を走った
血が噴き出し、美月は地面に崩れ落ちた。
すると、その犬が再び彼女に飛びかかろうとした時!
「バン!」
銃声が耳をつんざき、鼓膜が痛む。犬がその音に反応して、地面に倒れた。
彼女が最後に見たのは、深山一真が銃を持って桐谷琴音を守る背中、
そしてグルグル回って暗くなっていく天井だった。
消毒液の匂い。
美月は激しい痛みの中で意識を取り戻し、最初に目にしたのは白い天井。
脚が鉄板で焼かれたように熱く、息をするたびに傷が引き裂かれる。
彼女は辛うじて顔を動かし、目の前の光景がまだ完全に目を覚まさない頭に再び衝撃を与えた。
病室のドアの前で、桐谷琴音は深山一真の胸に顔を埋め、泣きながら言った。
「一真さんは姉のボディーガードなのに、どうして私を守ってくれたの……私が来なければよかったのに…」
男の骨ばった手が彼女の背中を軽く叩き、その声は驚くほど優しかった。
「琴音お嬢様、そんなに自分を責めないでください。」
「何度生まれ変わっても。」
彼は少し言葉を切り、指先で彼女の顔の涙を拭った。
「俺は必ずあなたを守ると選びます。」
「どうして?」桐谷琴音は涙を浮かべて彼を見上げた。
深山一真は彼女を見つめ、抑えきれない想いが瞳に滲んでいる。
「俺は…」