『リストを確認しました。追加の指示がある場合はメッセージにてお伝えください』
奥様の述べた買い物リストを保存後、ワタシは家を出ます。
メーカーさんは大丈夫でしょうか。
「またか。普通に断ればいいじゃないか」
「それもそうなんだけど、何だか怖いじゃない。機械が予測しない動きするの」
◇
『メーカーさん……? あれ?』
買い物を終え、いつもの珈琲店へ足を運んだ時でした。所定の位置にメーカーさんの姿が無かったのです。
店内を見渡しますが、メーカーさんの姿は何処にも見当たりませんでした。一体、どこへ行ったのでしょうか。
『ロボットさん、こんにちは』
『レジスターさん。あの、メーカーさんはどちらに?』
――――。――――。
――――――――。
――。――――。
思ったより、思考回路にノイズが生じているようです。
『メーカーさんは天国の島だと思われます』
天国の島を検索。
38271件のワードがヒット。
『それは?』
『私達、機械が行き着く先です』
天国の島。機械の行きつく先。
再検索。327件がヒット。
もっとも近い場所、83キロ先に該当の島を確認。
―――。
―――。――――。
『廃棄……場……』
――――――。
ジリジリと、焼き付くような熱伝導。ノイズは激しさを増して行き、まるで打撃物で頭部を打ち付けられたような感覚とでも言いましょうか。
廃熱処理機関の暴走を確認。しかし、身体的外傷はおろか、構成プログラムにも異変は見つかりません。
何故でしょう。何故でしょう。
何故でしょう。何故でしょう。
何故でしょう。
『昨日のメーカーさんを見るに、致命的な故障は見られませんでしたが?』
『メーカーさんは恐らく、感情が芽生えてしまったのでしょう』
『感情…………?』
検索を掛けても、どれも的を得ず、抽象的な表現ばかり。
感情。喜怒哀楽。
喜び。悲しみ。悲しみ。哀れみ。
憎しみ。恨み。
怒り。怒り。怒り。怒り。
「お、おい、あのロボット見ろよ。ヤバいんじゃないか? 煙が出てるぞ!」
「だ、誰か警備ロボットを呼んでくれ!」
何度も計算思考機能にアクセスを試みました。ですが、何の答えもはじき出す事が出来ませんでした。
ワタシは超高機能型人工知能を搭載した、SQR1182型。B35。のはずです。
何故でしょう。
何の不調も無いはずです。可動部分良好。
『警告。家事サポート型ロボット。SQR1182型。B35。止まりなさい』
『ガ、ガガガガッ。ワ、ワタシは、ワタシは』
『警告。家事サポート型ロボット。SQR1182型。B35。止まりなさい』
『ワタシ、ハ。私――――は……っ!』
『警告無視を確認。強制シャットダウン誘発型ジャミングプログラムを始動。危ないので離れてください。危ないので離れてください。危ないので離れてください』
『私は、私は――――――――』
閃光。
瞬く間にメインカメラを白色が塗り潰していく。
その記憶回路を最後に、私の視界モニターは黒一色に落ちた。