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第3話 3、水城の両親に会ってみる

車は薄暗い中を海岸線を目指し走って行く。


「ねえ、裸で抱き合うだけでいいからさ」


「駄目ですう〜、抱き合って終わるわけ無いでしょ?発情期みたいな顔して」


「誰が発情期?!18だよ?成人なのに、なんで駄目なんだよ!

僕ってそんなに魅力無い?!」


「だから〜、3月まで待ちなさいって。

バレたら学校に迷惑かけるでしょ?生徒と先生って関係がまずいんだって」


「じゃあ学校やめる!」


「何言ってんの、もうすぐ卒業なのに。

3年間ガマンできたのはお利口さんだよ。僕は担任になって、毎日会えて嬉しかった。

何しろ魅力的な君の笑顔は教室でもひときわ輝いて見えたからね」


カアッと顔に火がついた。彼は本当に口が上手い。

彼が結婚詐欺なら、僕はきっと全財産失う。


「ハンバーガー、どこがいい?」


「モス。一番高いの」


「はいはい、お好きなものをどうぞ、王子様」


もう、ほんとにケチ!


それから僕らは、ハンバーガー買って海へ向かった。

海は思った以上に真っ暗で、そして思った以上にゴミが流れ着いてて浜辺に降りるのは危ないからと防波堤に並んで座りハンバーガーにかぶりつく。

ちっとも思ったようにロマンチックじゃない。

釣りのおっちゃんがチラリと見て、通り過ぎて行く。


「何が釣れるのかな?」


「釣りなんてしたことないし、興味も無い」


「ご機嫌斜めだねー」


「わざとここ選んだでしょ?」


「襲われるの怖いもん」


「誰に?!」


「隣の彼氏〜」


「ぼっ、僕は襲わないもん!」


クックックッと、何だか1人楽しそうだ。

そして、ふと真面目な顔でつぶやいた。


「今から80まで生きるとしてさ、62年間だよ?

結論早すぎない?」


「何の?」


「籍入れるとかさ、結婚と違って取り返しがつかないから」


僕は卒業したら、結婚は出来ないから彼の養子になって籍入れたいと話していた。

保留と返されたけど、僕は凄く真面目だ。


「もう、僕の親にはカミングアウト済んでるんだ」


「えっ?なんで?」


「お風呂でお尻にバイブ入れてるとこ見られた」


「バッ!……プウッククククク、アハハハハハハ!!!」


メチャクチャ笑って、足をバタバタする。

そんなに受けなくてもいいじゃない、僕は死ぬほど恥ずかしかったんだから。


「ひいーーーはああ、マジ?マジで?」


「そっそんな馬鹿笑いしなくても。ほんと恥ずかしかったんだから!

LGBTって聞いたことあるけど、まさか自分の息子がって、めっちゃガッカリされた。

好きな人いるって言ったら、つき合う時は、遊びじゃなくてちゃんと籍入れろって……


僕はずっと水城と暮らしたいし、一緒に悩んで欲しい。

爺さんになっても、助け合いたい」


「いいね、そう言う告白は何度聞いてもいい」


呟くように言って、暗い海を見つめハンバーガーに食いつく。

波の音が、耳に心地いい。

でも彼は、嬉しいのか、迷惑なのかちっともわからない。


「僕はあなたと一緒に成長したい。僕の成長を見ていて欲しいんだ」


「ふうん……なかなか詩的だ。100点だな」


「もう!真面目な話してるのに」


「僕も真面目だよ」


噓ばっかり。

2人見つめ合うと、立ち上がった。


「じゃあ、帰ろうか」


ほんと、あっさりしてんなあ。


「うん」


ゴミを袋に入れて、車に乗った。

水城は確かに話を真摯に聞いてくれる。

でもそれは、どこか先生のようで時々不安になる。


何だかおしゃべりするのも気が重くて、走っているうちにいつもと違う道を通っているような気がした。


「どこ行くの?……まさか、ホテルですか〜」


ワクワクして聞いてみる。


「まあ、似た様なとこ」


1時間くらい走って、隣の市に行くと、山手の方に走り始めた。

どこに行くのか、お楽しみ。

山小屋とか別荘?

と、その先に見えてきたのは、随分大きな家だった。


「ここどこ?」


「僕の実家」


「えーーーー!!なんで??!!」


「両親に紹介するから」


「なんで??!!」


「だって、卒業したら僕の籍に入りたいんでしょ?

勝手に出来ないよ、相続もあるし」


お、お、大人だっ!!


僕はガクブルだったけど、話しはしてあったらしくて、すんなり挨拶出来た。

お父さんは土建業のようにがっしりしてるけど、趣味は農業らしい。

農業大好きで、家族は農業の話になるとゲンナリしてる。

お母さんは朗らかで、僕には麻都なら麻ちゃんでいいわね!って、早速麻ちゃんって呼び始めた。


彼にはお兄さん2人とお姉さんもいて、末なので後継ぎの心配はいらないので好きにしろだった。

それぞれ沢山子供がいる大家族だ。

敷地に離れがあって、ご飯はみんなでがしきたりらしい。

気持ち悪くないのかなとか思ったけど、彼の叔父さんもそう言う性癖だったので、理解は出来ると言われて、その日は彼の実家に泊まった。


彼の部屋は離れで、学生の頃のまま何でも置いてある。


「叔父さんも男の人が好きって、凄いね、だって随分前の話でしょ?」


「そうだね、でも僕はその叔父さんに手ほどき受けたから何とも言えないな」


「セックス、したの?」


「いや、麻都と昔したのと同じ。僕は叔父が嫌いだったからひどく不快で、親に言ったら家から追い出されて、そのあとガンで死んじゃった。

ちょっと優しくしとけば良かったかな?」


色々あったんだなあ。

家族が多いと色んな人がいるんだ。


「みずちゃん、ご飯は食べたの?」


渡り廊下から声がして、彼がドアから顔を出し、バーガー食べたからと返した。

広い家だ、何してるんだろう。


「不動産いっぱい持ってて、土地を貸してるんだ。

だから、オヤジが死ぬともの凄い税金がかかる。

だからさ、子供の頭数増えるのは、うちとしては悪いことじゃないんだ」


「ふうん、普通、財産奪い合うんじゃないの?」


「税金対策が需要なのさ。ある一定になるとね。

うちは不動産はあるけど、税金払う為に土地を売らなきゃいけない。

だからほどほど名義を分けようって言ってる。

みんな会社とか持ってるし、家は食う分の農業もやってるし、働いてるからほどほどもらえばいいんじゃない?

そんながっついてる奴いないから」


そ、それは金持ちの余裕って奴??


離れでちょっと期待したけど、夜もやっぱり何にも無くて、しばらく昔のゲームして遊んで、僕をベッドに寝かせると、水城は床に布団敷いて寝た。

朝方水城に電話があったけど、僕は眠いのでそのまま寝てた。


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