「麻ちゃん、大学卒業したら何になりたいの?」
一緒に朝食食べていると、水城のお母さんが僕に聞いて来る。
食堂は大きなテーブルで、ビックリするほど人数が多い。
「えと、えと、ゲーム関係の仕事に就きたいです」
「まあ!今の人はハイテクねえ、ねえパパ」
「うむ、目標があるのはいい物だ。
でも思った道に進めないからと、腐るんじゃねえぞ」
「はい、今は大学の授業について行けるかが、ちょと怖いです」
パパさんが、キョトンとして、大きな声でハッハッハッハと笑い出した。
真っ白い短髪にがっしりした身体で豪快な人だ。
「素直でいい子だ、だがお前さんのような奴は騙されやすい。
まあ、こんな事を言うのも何だが、知らない奴に声かけられてもついていくなよ」
急に子供扱いされて、僕の顔が真っ赤になった。
恥ずかしくてうつむくと、隣の水城のお姉さんが、バンといきなり背を叩いてくる。
「下見るんじゃ無いよ!人間は前を向くもんだ」
「は、はい」
何だか、お姉さんも豪快。
2番目のお兄さんが、身を乗り出して聞いてきた。
「畑仕事はどうだい?たまに手伝って貰えると嬉しいけど」
「手伝います、大丈夫です。
爺ちゃんちを手伝いに行ってたんで、小さな耕運機だったら使えます」
「えっ?!」バアッと全員がこちらを向いた。
「「 本当かい?!助かるよ!! 」」
見事に、全員の声が合った。見ると目がキラッキラしてる。
うう、爺ちゃんありがとう。
こんな所で役に立ったよ。
そうホッとしたのもつかの間、後々僕はその趣味の規模にため息付くんだけど。
まあ、家族も付き合うの大変だなあって。
「あら、こんな時間。早く支度しないと」
「みずちゃん、写真撮るからスーツ着て頂戴。
麻ちゃんは学生服ね。
ハイハイ、みんなもほどほどオシャレして。
髪結いさんと着付けも呼んだから、女性陣は着物着ましょ?こんな時しか着る機会無いし」
「ちーちゃんも着るー!七五三の時の〜」
「はいはい、じゃあ急ぐわよ」
「え?なんかあるの?}
「まあまあ、いいから服着て」
水城のお母さんは、ホクホクして何だか嬉しそうだ。
奥からキャッキャと楽しそうな声が上がり、学生服に着替えて居間にちょこんと御座ってると、着物姿のお姉さんや娘さんたちが出てきた。
お父さんは、羽織袴で何ごと?って思う。
やがて電話がかかり、お兄さんが裏の車庫から一番でかい真っ黒でピカピカのバンに乗って家から出た。
「ママー、仕出しは11時半だよね」
「パパさん、写真屋ちょっと遅れるって」
「遅れるだ〜?海渡!お前様子見てこい!」
「うす!」
何だか慌ただしくて、良くわからず水城のところに行く。
「何があるの?」
「結納」
「え?なに?誰の?」
教えてくれない。ケチ
そうしているうちに、何故かうちの家族がやって来た。
「やーよくおいで下さいました」
「いや、立派な御邸宅で。
今日はお世話になります」
「どうぞどうぞ、いや残念ながらお互い孫の顔は拝めませんが、好きなもん同士でくっつくのはめでたいもんです」
「あらやだ、パパ、おめでたい日に」
「おお、すまんすまん、はっはっはっは!」
苦笑するお父さんとお母さんが玄関で靴を脱ぐ。
僕は信じられずにその顔をのぞき込んだ。
「なんで?」
「結婚って認められて無くてもな、ちゃんとしましょうって、こちらの方が仰ったんだ。
お前は卒業したら籍入れたいんだろう?」
「寂しくなるけどね、こちらも親戚付き合いしていきたいって言って下さったから」
寂しげな顔でいたお母さんが、身を起こすと僕の手を握ってニッコリ囁いた。
「だって、大学でどうせあんた家でるし、学費向こうが持ってくれるって!
アパート借りる必要も無くなったし、めっちゃ助かるう〜ってわけよ!おめでと!」
そっか〜、そう言うことか〜
お父さんも僕の頭ポンとたたいて奥へと案内される。
僕は、そうやって水城と結納みたいな事をして、入籍と式は家族でホテル会食となり、日取りも決まった。
水城は公立の学校やめて、お義父さんの知り合いの私学の教師として迎えられることになってるので、今の校長には話す必要ないでしょとなった。
変に憶測されるのもいやだし、同性結婚なんてまだ一般的じゃないし、何よりまだ僕は在校生だ。
あとは僕の卒業待ち、それまで目立たないように気をつけようと話し合った。