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第32話 『奇跡だってぇ、起きたっていいじゃないかってぇ』

 俺の目の前には、ボロボロだけど、それでも生きている彼女が居た。


「良かった……マジで、よかったあ……!」

「ごめんなさい、天堂さん。私、本当に……」


 弱弱しい声。

 それでも、声が聞こえる。

 生きてる声が。


 ぴこん。


 俺のスマホが鳴る。

 いや、正直なところめっちゃ鳴ってたけど無視してた。


 一番上の表示に笑う。

 警察官の方を向き、


「すみません。これ以上騒がないですし、事情も説明しますから。少しだけ」


 叫んでいた危ない奴と思っていたのが丁寧にお願いし始めて驚いたのか、少しだけならと許可してくれた。


 俺はスマホを開き、いつもの操作をする。俺にかかれば見なくても一瞬だ。


『楚々原そおおおだあああ! 聞こえてるか! お前ぜったい死ぬなよ! 死んだらぜったいぜったい許さないかんな! お前は! アタシのライバルだかんな! がんばれV!』


 加賀ガガがいつも通りのクソガキムーブで叫んでる。

 しかも、他事務所のVに名指しで死ぬなって、あーあ、きっとアーカイブは消されて、死ぬほど切り抜き作られるだろうな。


「くうちゃん……!」


 そーだは前世の名前で呼んじゃってるけど今くらいいいだろ。

 俺は、次を開く。


『お願い、聞いて。私は、信じてもらえないかもしれないけど、全ての頑張るVtuberの味方なの。だから、負けないで。頑張って。……弟の為にも。がんばれブイ』


 うてめ様の凄くいいお言葉をてめーらに送っている。

 ウテウトの為は余計だけど。


『あの……! さなぎは、えらそうなこと言えないですけど……! でも! さなぎもVtuberさんに救われたから……楚々原そーださん! いきてください! つらいことくるしいこといっぱいありますよね……? さなぎもそうでした。でも! でも! さなぎはがんばるから! いっしょにがんばりませんか!? がんばれーV!』


 さなぎちゃんの浄化されるほどのピュアな言葉が。


 多分ガガあたりが何かやって、皆が賛同してくれたんだろう。

 それぞれがメッセージをゲリラ配信で送っていた。


 そして、それはVtuberからVtuberへ、もしくは、ファンへ、そして、ファンから他のVtuberと伝わり、今、恐ろしい程の数のVtuberが配信を始めてくれているようだ。

 情報が錯綜しているせいか訳も分からずVtuberを応援してる人たちもいるみたいだ。


『つののこ! 声上げろ! てめーらに負けてられないでしょ! がんばれV!』

『しお分足りないわよおお! ノエの為に汗かけ、あんたたち! がんばれぶーい!』


『うてめ様がおっしゃってるなら、しいどだって! どこのどなたか分かりませんが! 負けないで! がんばって! 私も、しいどもがんばりますからああ! えっと、あ、がんばれぶい!』


 今、多くの人が、自分のVtuberへの思いを語ってくれているらしい。

 そして、『他のVtuber』へのメッセージも。


『アタシはっ! 諦めないからっ! アンタも絶対諦めるなっ! アイツがいなくてもっ! がんばるからっ! アイツの言葉はアタシの中にあるからっ! がんばれVッ!!』


 お前もかよ。同じ事務所の配信また見るようになったんだな。

 ありがとな。れもねーど。

 コメントも呟きも、すごい。


〈がんばれV!〉

〈がんばれぶい〉

〈がんばれV〉

〈頑張れV〉

〈Good Luck V!〉

〈ガンバレブイ!〉

〈がんばれV!!!〉



 てぇてぇなあ。


 てぇてぇよなあ!


 そして、ツブヤイッターでは、トレンド二位が、【楚々原そーだ】、一位が、


「がんばれV……!」


 楚々原そーだの締めの言葉。

 『明日もいい日になりそーだ★』の後に、必ず入れてた締めの言葉。


『私、本当にVtuberになれて嬉しいんです。だから、同じVtuberの人にもエールを送りたいんです。だから、お願いします。入れさせてください、最後に、がんばれVって』


「がんばれV……がんばれV……!」


 楚々原そーだはそう繰り返し呟きながら泣いていた。

 けど、きっと終わりじゃない。

 彼女はまだ終わりじゃない。


 何回だってやり直せる。

 俺はそう信じてる。

 だから、


「がんばれ……V……!」


 心を込めてその言葉を彼女に送った。

 彼女は笑って、返事してくれた。


「はい……!」


 彼女はきっと、大丈夫。

 高松うてめも認めたウテウトの耳が大丈夫って思ったんだ。

 ぜったい、大丈夫。


 後ろに広がる川は大きくて、泳いでる魚もどれだけ大きいかなんて知らないだろう。

 でも、そばに同じように頑張って泳ぐ魚がいると分かれば、きっともっと頑張れる。

 俺はそう確信していた。


 それと、連れて行かれる時に、警官の人がぼそっと言ってくれた。


「俺もさ、Vにいつも励まされてるよ。てぇてぇよな、V」


 俺は笑った。

 彼女も、笑った。

 その笑い声はすげー綺麗だった。

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