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第36話 『元れもねーどってぇ、頑張ってんだってぇ』

【るぅ(元れもねーど)視点】



『というわけで、今夜は花咲しいどさんとのコラボでした~』

『み、みなさん、あ、あ、ありがとうございました~。るぅさんもありがとうごじゃました!』

〈るぅしいてぇてぇ〉

〈ありがとー〉

〈おつかれもねーど〉


 配信が終わり、アタシは終始緊張していた彼女に話しかける。


「お疲れ様でした。ありがとうございました」

「いいいいいえ! わたしのほうこそ!」

「あのーやっぱり気付いてます?」


 自分の方から言うのはなんだか自意識過剰な感じがするが、これでは前に進めない。


「あ、あ、あの! はい、はいすみません! あの、小村れもねーどさん、ですよね?」


 まあ、バレてるわな。コメントでも流れていたし。


「そうなんですよー。前世がね、れもねーどでして」

「うわわわ、あ、ありがとうございます! れもねーどさんと一緒に出来るなんて……」

「ま、あの時からがくんと落ちた登録者数だし、しいどさんの方が上だからアレかもだけど」

「で、でも、確か事件とかあって、フロンタニクスのVってワルプルギスに……」

「断ったのよ」


 アタシはれもねーどを辞めた。フロンタニクスも。

 【ワルプルギス】からも声が掛かっていたけれどお断りさせていただいた。

 個人Vとして活動していこうと決めた。


「あ、あの、聞いてもいいですか? なんでです? 一人が楽だから、とか?」

「ああ、違う違う。あのね、アタシ多分、周りの人の苦労を分かってなかったんだよね。アタシがVtuberとして活動する為には、多くの人が助けてくれて、支えてくれて、小村れもねーどが居たことを。小村れもねーどは一人で動いていたんじゃないってことを」


 そう。アタシは、一人を選んだ。でも、それは一人じゃなくなるためだ。


「もっともっと色んなVtuberの人たちと一緒にやって、もっともっと勉強して、もっともっと良いVtuberになりたいんだ」


 って、何言ってるんだアタシ。恥ず。

 慌てて横を見ると、しいどちゃんが泣いてた。え?


「え? え? なに? なに?」

「立派ですぅ~。カッコイイですぅ~。なんか、泣けてきちゃって、うぅう」

「いやいやいや、しいどさんこそ凄いよ! 自力でここまで伸ばすなんて……」

「ぐすっ……いえ、わたしは、うてめ様にコメント頂けたから、こんなに増えただけで……」

「でも、うてめ様とも前お祝いとつ貰って、言ってくれてたじゃない? やさしくて素敵な配信だって」

「うわあああああああ」

「何で泣くの!?」


 よく泣く子だ。水分とか取らなくて大丈夫かな、心配。


「れもね、じゃない、るぅさん……あたしの過去の配信も見てくれてるんですね。ありがとうごじあます」

「いや、だって、コラボする相手だもん」


 いや、以前はそんな事してなかっただろうな。

 れもねーどは、アドリブ任せにやってた気がする。もっと前は……ちゃんとやってたのにな。


「あ、あたし、るぅさんの配信好きです。キツ目の言葉だけど、すごくやさしい感じがして、今日もすっごくお上手ないじりでありがとうございました~」

「……うん、うれしい。ありがとう。お互い頑張ろうね。……もし、何か困ったことあれば相談して、業界では先輩だから、ね?」


 そう言うと、また泣き出した花咲しいどちゃんを落ち着かせて、アタシは家に帰る。


「ただいまー」


 返ってくる声なんて勿論ない。


 アタシは静かな部屋の中でスマホを胸に抱え、じっとしていた。

 今日、アタシはアタシの中で立てていた個人Vとしての目標をクリアした。

 これが出来たら……そう決めていたことがあった。


 震える指で画面を操作する。


 番号は変わってないだろうか。


 コール音。


 勿論、出てくれないだろう。


 でも、一度だけチャンスを。


 音が途切れる。そして、


『……ひさしぶり』


 声が、きこえた。


 アイツの声だ。相変わらずやさしい声。


 ヤバい。泣きそう。何か言わなきゃ。


「あ、え、う……」


 声が、出ない。何を言うか考えておくんだった。

 それも、昔ちゃんと二人で確認してたのに。事前準備はしっかりとって!


『がんばってるな』


 アイツは、そう言った。がんばってるなって。


「な、んで……?」

『いや、声聞いたら前世分かるよ。ああ、お前だって。まあ、それにみんな言ってるよ。Vtuberファン舐めるな』


 聞いてくれてた。


『それに、俺が良いVtuberを見逃すかよ。今日も面白かったよ、しいどちゃんとのコラボ』


 届いてた。


『お前のいいところがいっぱい出てて、嬉しかったよ』


 ちゃんと。


「あ、の……」

『うん?』

「ごめんね、アタシ……ずっと謝らないとって」

『ああ、もういいよ。気にするな。』

「だめだよ、気にしないと。アタシはそれだけの事を」

『もしかして、それでワルプルギス断ったのか? お前はほんと妙な所で真面目だな』


 アイツが笑ってる。普通に話せてる。それだけで嬉しくて。


『じゃあさ、気にしてるなら、俺から一個だけ』

「な、なに!? なんでもする!」

『なんでもするは言うな。元マネージャーとしての注意』

「ごめん。でも、それくらいの気持ちはあるの……で?」

『もっともっと良いVtuberになってくれ。お前なら絶対なれるから』

「……うん」


 コイツはほんとに、もう。


『ああ、それと、』

「うん?」

『困ったら頼れ。一人じゃないから』



 【困ったら頼る! ひとりじゃない!】



 それは、るいが作ってくれた【Vtuberれもねーどの戦いの記録!】っていう、いわば交換日記みたいなノートの表紙裏にるいが書いてくれた言葉。


「うん。……る、るいもさ、その、力を貸してくれる?」

『Vtuberるぅの力になれるなら喜んで』

「あ、じゃあ、今日の感想を聞かせてくれない?」

『お、いいぜ~。っていうかさ、最初、しいどちゃん、緊張しすぎだったろ?』

「そうなのよ、ふふ……でね、あれどう立ち振る舞うべきだったかな」


 アタシはるいと電話で話しながら、ノートを取り出し開く。


 【Vtuberるぅの戦いの記録!】


 二冊目に入ったそのノートにるいと話をしながら書き綴っていく。


 二人で、色んな話をしながら、一緒に。


 ひとりじゃない。


 れもねーどの思い出も、るぅのこれからも、アタシの中にある。

 そして、るいやファンや支えてくれる人たちがいる。


 声を上げよう。


 ひとりじゃないから。


 これからもアタシはVtuberとして生きていく。

 画面の向こうにいるアナタに感謝を込めて。

 一緒に生きていく。

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