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第2話

 私の大声で、建物の奥に隠れていたプレイヤーが顔を出す。これでいい。自分の闘い方を見ている人に植え付けさえすれば、話題性が上がり遊ぶ人も増える。


 剣を右に持ち替える。普段は左利きだが武器に関しては両利き。闘いやすい方は特にない。どちらでも同じくらいの実力だと思っている。


 観客エリアには6人しかいなかったが、30人。いやそれ以上までに増えていた。これでネットにもち上がれば、いくらか活気づくだろう。


 ゴブリンが吠える。いくらレベルが高くても、闇雲に迫ってくる能力のない者に勝ち目は無い。私は作戦もなく迫ってくる敵を回避。


 皮膚にぶつかりそうになった相手を剣で凪払い。できるだけ一定の距離を保つ。それだけでも、かなりコマンドを入れないといけないのに、敵は降参しようとしない。


 周囲を囲まれたタイミング。これが敵の狙いか? 回転斬りを繰り出すが、一斉に飛び退き当たらない。これではキリがない。


『頑張って!』


『頑張れ!』


『ファイト!!』


 観客からの声援。まるでヒーローショーだ。私がここにいるだけで盛り上がる。余計なお世話だと思いながら、本気モードに移行させた。


 意識を集中させる。脳内再生される映像は数秒先の映像。右に立つ槍兵が一番手だ。すぐさま行動を開始し場所を変える。


 こちらが手を打ったからか、相手の次の動きが変化した。次に来るのは盾剣のゴブリン。その奥に堂々と立っているのが、隊長なのだろう。


 そいつを倒せば形勢は崩れる。そこを狙うため、私は剣で無理やり道をこじ開ける。この空間、このエリア、思ったよりも狭い。


 普段の大胆な動きを制限され、強攻撃が難しい。いや。レベル1である私の強攻撃では、大きく削れたとしても5割減。削り切るにはあと2割足りない。


(このゲーム魔法機能あるのか?)


 もしあったら使いたいくらいだ。最近のゲームは剣を使ったサバイバル系RPGよりも、魔法ファンタジーの方が人気らしい。


 それを追ってこのゲームにも追加されたようだが、使い勝手が悪いんだとか。やはりバランスの問題か……。


『早く倒せよ!』


「ッ!?」


 どこからか呆れの声が聞こえてくる。こっちにもベストな場面があるんだよと反論したいが、私は提供する身であって、見ている人の方が立場は上。


「分かったよ……。こうすりゃいいんだろッ!!」


 私は短い距離でありながらも力強く踏み込み、強烈な風を浴びながら、敵を一掃させる。そんな私を眺めている人達は、みんな棒立ちになっていた。


 これを予想していたから時間を延ばしていたんだ。あっけなく終わったバトルは面白みが存在しない。結果、見ていた人は興味が冷めてしまったのか去っていく。


 最終的に残ったのは、私と私のプレイヤーネームを使用した男性のみ。大通りは静寂に包まれ、穏やかな時間が過ぎていく。


「大丈夫か?」


「は、はい……」


 倒れた男性プレイヤーは、力のないか細い声で返答する。こんな弱そうなプレイヤーが『ルグア』を名乗るなんて数万年早い。


「かなり腰抜かしてたな……。お前。なんで私のプレイヤーネームを使った?」


 男性はかなり動揺している様子だった。彼もまさか本人が現れるとは思わなかったのだろう。


「もしや、注目を浴びたいって軽い気持ちで使ったんだろ?」


「そ。そうで……」


「ん?」


 ここで彼が誰だか理解した。この声、普段私が聞き慣れている声だ。身内でゲームをする人としたら一人しかいない。


りく兄……?」


「ッ!? もしかして……。明理あかり?」


「う、うん……」


「じゃあなんで性別偽装を……」


 確かに彼の言う通りだ。今使ってるアバターは男性アバター。私は普段から男性キャラを使っている。


「ま、まあ……。使いやすいから……かな?」


「そうか……。まあ明理らしいけど。このプレイヤーネーム。俺には重すぎるわ。返す」


(返す?)


「それってどうやって?」


「そうだった明理は始めたばかりだったね。名前譲渡機能だよ。フレ申請と名前譲渡送っといた」


「あ、ああ……。ありがと陸兄」


 譲渡申請を承諾し、自分のプレイヤーネームが返ってきた。今日はこれで解散。時間を見ればいつもの朝ごはんタイムだ。


 兄が先にログアウトしたので、私は少し外を回ることにする。街の外周は森が広がっていて、敵の気配がした。ここのエリアは魔物とプレイヤーが共存しているみたいだ。


 だからか……街は安全圏エリアではないのは。それなら武器を振れるのも納得がいく。そして、魔物も大通りに出現する。


 ここは安全圏エリアを設置するように運営に伝えておくか? しかし、この状況に慣れて古参プレイヤーもいるに違いない。


 どうサイコロを振ればいいのか? それすらも考えるのが難しい。そろそろ、約束の時間。私は大通りに戻って、ログアウトした。

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