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第5話

 そこから先は歩いて移動した。今日はもう1つ予定があったからだ。スマホの予定表には〝ネコカフェ〟と書かれている。


 都内にあるひっそりとした路地裏に入ると、そこにひょっこりと店が見えてきた。目当ての場所だ。ここで中学生時代の友達が2人来ているという。


 店内はとても静かな空間で、何やらアニソンのような曲が流れていた。受付にパソコンとゲーム機を預け、猫のおやつとブラックコーヒーを持つと、脱走防止の二重扉を通る。少し入り組んだ室内には、寝ている猫もいれば毛づくろいをする猫までいた。


 少し歩くと、それぞれ季節外れな服装をした女子2人組が見えてきた。この2人が目的の人だ。


「明理さん!」


 長髪の女子が声をかけてくる。私が彼女の隣に座ると、4匹ほどの猫が近寄ってきた。私は昔から動物に好かれやすい。当然の結果だ。


「明理さんが来ると本当に近寄ってくるんですね」


「まあね。そういえば、輝夜。私に用があるって、何?」


 私の言葉に輝夜という長髪の彼女が、スカートのフリルをいじり始める。こんな冬に入っていく時期に寒くないのだろうか?


「それがね……。私のギルドの団結力が落ちて来ていて……。存続派と解散派に分かれて……」


  なんだそんなことか。つまり、ギルド存続派の彼女たちは私からのアドバイスが欲しいと……。しかし、それは相手が上回った。


「明理さん。私のギルドに入ってもらえませんか?」


 すぐ隣に座る輝夜が言うと


「わたしからも、ぜひお願いしたいです」


「ちょっと、輝夜も沙耶華もなんで……私に?」


 ミディアムヘアで、ゴスロリのような服を着た少女――沙耶華が私の前まで歩いてしゃがむ。


 いくら勘が鋭い私でも外れることはある。今回の依頼は予想の斜め上をいっていた。私がギルドに参加? 大衆ゲームであれソロを貫いてきたのが私だ。


「ほかの人にもお願いしたんだけど、みんな大学や就職するために忙しいみたいで……。明理さんって学校もう通ってないって……」


「そうだけど……」


「じゃあ、お願いします!」


 お願いしますって言われても困る。輝夜はいつの間にか私の手を握っていて、しかもそれがコーヒーを持ってる手だったため、ズボンが濡れた。


 輝夜はすぐにハンカチを取り出し、ふき取ると彼女も私の目を見つめてくる。本当は断りたい。自分の実力を見せつけてしまえば、解散派の意見が確定しかねない。つまり私と輝夜、沙耶華を残して脱退してしまう可能性がある。


「もし私が入って、脱退者が増えたら逆効果な気がするけど……」


「別にそれでもいいです! アーサーラウンダーという名前だけが残るだけでもいいんです!」


「そ、そう言われても……」


「お願いします!」


 輝夜の意志が強い。ここは私が折れるべき場面なのだと、理解した。


「わかった。そこまで言うなら引き受けるよ。で、私はどうすればいい?」


「それはこれから話しますが……。ここじゃ他の客に迷惑だと思うので、近くのゲーミングカフェに移動しましょう。沙耶華も、ゲーム機とパソコンを持っていつもの場所に集合してください」


「了解です!」


 こうして一旦解散。私が猫カフェを移動する際、一度に20匹ほどついてきて、スタッフが必死に脱走しないよう押さえていた。落ち付いたと思うと今度は子猫が身体をよじ登り、私は人間キャットタワーかと、内心ツッコミたくなる。


 なんとか脱出し、カップを返してゴミを捨て荷物を受け取る。外に出たときには昼間なのにかなり冷え込んでいた。


 集合場所への道はメッセージアプリで教えてもらったので、そのまま直行する。猫カフェからは約1キロほど離れていて、運動不足の私にはかなりきついものがあった。


 まだ着かないのかと思いながら、足を引き摺って歩く。もう歩きたくない。マップアプリを見ると目的地まであと半分。


 少しペースを上げる。本当はタクシーを使えばいいのだろう。別にお金がないわけではない。1キロという距離が微妙すぎるのだ。


 歩けば歩くほど、苦痛になる。これがゲームだったらいいのに……。ようやく着いた場所は、駅前にある巨大施設。


 ストリートビューを確認すると、改装前の画像が出てきた。元々はパチンコ屋だったようだ。こんなところに輝夜たちは通っているのか。


 スマホが鳴る。送り主は輝夜だ。コメントと共に送付されてきたリンクを開くと、ゲスト画面に移動する。


 そこには、〝ルームリーダー:三上輝夜〟という文字と、QRコードが書かれていた。これを受付に見せればいいのだろうか?


 とりあえず店内に入ってみる。目の前に受付があり、その近くにはコインロッカー。改札のような入口……。その奥の広い通路には、カードゲームのテーブル。


 これが話題のゲーミングカフェ。私は受付の人にスマホの画面を見せる。受付の人がコードをスキャンすると、すぐ横にある入口のドアが開いた。


 予約者しか通さない仕組みか。そうして私は中に入った。

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